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44. 十一日目夜➆
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抱きしめた父は、シウの記憶の中より痩せていて、弟も顔色が悪い。それでも、監獄の中でも上等な部屋を与えられていた彼らは、最低限の生活を保証されていたようだった。
今は飛竜の背中の上。ヒバ、ゼン、シウ、そしてシウの弟と父が乗っている。弟が小柄とはいえ、ずいぶんと窮屈だ。飛竜の飛行高度も低く、速度も遅い。
「アクムリアには連絡済みで、虹の荒野まで迎えが来るはずです」
親子の会話を飛竜の一番後ろで静かに眺めていたゼンは、殺気に振りむき、腰の剣を振るう。硬質な音とともに真っ二つに斬られた矢が落ちる。
遠くに見えるのは、何頭もの飛竜。
シルクスタの飛竜部隊だ。
ヒバがバツが悪そうに頭をかいた。
「すんません、研究所で乗せる時に、ちょいと騒がれちゃったんすよ」
中央医療研究所との交渉の末、シウは監獄への入獄証と偽装用の検体箱を手に入れた。それを使い、検体箱に父と弟を匿う形で、二人を脱獄させたのだった。
脱獄させた二人をヒバに回収してもらってから、仮面舞踏会会場に迎えに来てもらったのだが、流石に大きな飛竜は目立ったらしい。
「多少は仕方ないです。向こうも今、いろいろ大変なはずなので、そこまでこちらに人員は割けないかと。って、意外といますね」
あっという間に複数の飛竜に囲まれる。定員オーバー気味で速度の出ない黒樫には、どうしようもない。
「伏せろ」
四方八方から飛んでくる矢をすべてゼンがはたき落とす。落とした矢を投げ返すと、飛竜から複数の人影が落ちる。それに加えて、いくつもの爆発音が聞こえた。
「隊長相手に魔力火器使うとか、知らないってこわいっすね」
「もっと速度あがらないのか」
「さすがに、重くって」
遠くには、あとからあとから増援にくる飛竜たち。
一頭の飛竜が、黒樫の横に並び縄を投げてくる。飛竜自体を絡め取ろうという作戦だ。その縄をゼンが掴み、強く引っ張る。縄を持っていた男は引っ張られて飛竜から落ちた。
虹の荒野までは、まだ距離がある。
このままでは拉致があかない。
ゼンは、奪った縄を乗り手のいない飛竜の首にかけた。無理やり引っ張って、飛竜を近づける。
「ヒバ! 俺が降りたら速度を上げろ!」
「ゼンさん!?」
シウがゼンの服の裾をぎゅっとつかむ。
「シウ、俺が乗ってたら虹の荒野にたどり着けない」
「あとで、来てくれますか!? 虹の荒野に来てくれますよね!?」
潤む琥珀色の瞳に、ゼンは走馬灯のようにこの数日間を思い出す。ほんの一時の、奇跡みたいな日々。
⸺人を殺すのには慣れましたから
ふと、そうつぶやいた暗い瞳を思い出した。
差し出しかけた手を、ゼンはきつく握りこむ。
「シウ、君の幸せを心から願ってる」
「嫌、嫌です! ゼンさんも、一緒じゃなきゃ嫌です」
別離の予感に騒ぐシウを父親に渡す。父親は、ゼンを訝しげに見ながらも何も言わずにシウが乗り出さないよう、抱きしめてくれた。
ゼンは懐から小さな黒いバッチを取り出し、シウの父親に握らせる。バッチを確認した父親が驚愕に目を見開くも、発する言葉を待たずにゼンはシウに背を向けた。
ちらりとヒバに目をやり、彼が頷くのに合わせて、黒樫に負担をかけないよう飛び降りた。先ほど縄をかけた飛竜に器用に乗り込む。
「やだ、ゼンさん! ゼンさん!」
ヒバが、飛竜に鞭を入れる。身軽になった飛竜は、ぐっと高度と速度をあげ、闇夜に滲む黒い飛竜の影が見る間に小さくなる。
「私は、今度こそ、あなたを幸せにしたかった!」
最後に聞こえたシウの叫びは、風にかき消された。
ゼンは器用に飛竜を操り、追手を次々に倒していく。黒樫を追おうとする飛竜に強引に乗り込み、乗り手を殺し、武器を奪い、次の追手を殺す。地道で果てのない作業。自身を攻撃してくる相手よりも、黒樫を追う相手を優先するため、いくつもの矢傷や刀傷がその身に刻まれた。
怒号と血の匂いが、吹きすさぶ風に流される。
身体を苛む痛みに耐えながら、ゼンはふと思った。
あの地獄の中で、シウに会えたことだけが、自分の生きる意味だった、と。
今は飛竜の背中の上。ヒバ、ゼン、シウ、そしてシウの弟と父が乗っている。弟が小柄とはいえ、ずいぶんと窮屈だ。飛竜の飛行高度も低く、速度も遅い。
「アクムリアには連絡済みで、虹の荒野まで迎えが来るはずです」
親子の会話を飛竜の一番後ろで静かに眺めていたゼンは、殺気に振りむき、腰の剣を振るう。硬質な音とともに真っ二つに斬られた矢が落ちる。
遠くに見えるのは、何頭もの飛竜。
シルクスタの飛竜部隊だ。
ヒバがバツが悪そうに頭をかいた。
「すんません、研究所で乗せる時に、ちょいと騒がれちゃったんすよ」
中央医療研究所との交渉の末、シウは監獄への入獄証と偽装用の検体箱を手に入れた。それを使い、検体箱に父と弟を匿う形で、二人を脱獄させたのだった。
脱獄させた二人をヒバに回収してもらってから、仮面舞踏会会場に迎えに来てもらったのだが、流石に大きな飛竜は目立ったらしい。
「多少は仕方ないです。向こうも今、いろいろ大変なはずなので、そこまでこちらに人員は割けないかと。って、意外といますね」
あっという間に複数の飛竜に囲まれる。定員オーバー気味で速度の出ない黒樫には、どうしようもない。
「伏せろ」
四方八方から飛んでくる矢をすべてゼンがはたき落とす。落とした矢を投げ返すと、飛竜から複数の人影が落ちる。それに加えて、いくつもの爆発音が聞こえた。
「隊長相手に魔力火器使うとか、知らないってこわいっすね」
「もっと速度あがらないのか」
「さすがに、重くって」
遠くには、あとからあとから増援にくる飛竜たち。
一頭の飛竜が、黒樫の横に並び縄を投げてくる。飛竜自体を絡め取ろうという作戦だ。その縄をゼンが掴み、強く引っ張る。縄を持っていた男は引っ張られて飛竜から落ちた。
虹の荒野までは、まだ距離がある。
このままでは拉致があかない。
ゼンは、奪った縄を乗り手のいない飛竜の首にかけた。無理やり引っ張って、飛竜を近づける。
「ヒバ! 俺が降りたら速度を上げろ!」
「ゼンさん!?」
シウがゼンの服の裾をぎゅっとつかむ。
「シウ、俺が乗ってたら虹の荒野にたどり着けない」
「あとで、来てくれますか!? 虹の荒野に来てくれますよね!?」
潤む琥珀色の瞳に、ゼンは走馬灯のようにこの数日間を思い出す。ほんの一時の、奇跡みたいな日々。
⸺人を殺すのには慣れましたから
ふと、そうつぶやいた暗い瞳を思い出した。
差し出しかけた手を、ゼンはきつく握りこむ。
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別離の予感に騒ぐシウを父親に渡す。父親は、ゼンを訝しげに見ながらも何も言わずにシウが乗り出さないよう、抱きしめてくれた。
ゼンは懐から小さな黒いバッチを取り出し、シウの父親に握らせる。バッチを確認した父親が驚愕に目を見開くも、発する言葉を待たずにゼンはシウに背を向けた。
ちらりとヒバに目をやり、彼が頷くのに合わせて、黒樫に負担をかけないよう飛び降りた。先ほど縄をかけた飛竜に器用に乗り込む。
「やだ、ゼンさん! ゼンさん!」
ヒバが、飛竜に鞭を入れる。身軽になった飛竜は、ぐっと高度と速度をあげ、闇夜に滲む黒い飛竜の影が見る間に小さくなる。
「私は、今度こそ、あなたを幸せにしたかった!」
最後に聞こえたシウの叫びは、風にかき消された。
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