【完結】君に夢中〜「私は誰でしょう」LI〇E相手の正体を当てるゲームから始まるBL〜

星寝むぎ

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最終章

エピローグ

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「尊、キッチン終わった!」
「お疲れ。寝室も今終わったところ」

 担当を割り振った場所の片づけが終わって、尊と千歳は真新しいソファに腰を下ろす。こちらも買ったばかりのカーテンを春風が揺らし、街を照らす日差しは刻一刻とオレンジへと移り変わっているところだ。

 千歳が大学三年生になるこの春、ふたり暮らしを始めることになった。今日は引っ越し当日で、部屋の隅にはまだ段ボールがいくつか積み重なっている。

「お腹空いた? ちょっと早いけど何か食べる?」
「んー……まだいい」

 ほどよく疲れた体に千歳の提案は魅力的だが、尊はそれよりもまずは、と千歳の膝に頭を預ける。

 高校を卒業してほぼ一年後に、アクセサリーショップでの正社員としての採用が決まった。それを機に一緒に暮らそう、と誘った時、千歳は涙を浮かべて嬉しそうにして、だが首を縦には振ってくれなかった。バイトこそしているが自分はまだ学生で、ちゃんと就職してからにしたい、と。

 尊としては高校卒業後すぐにでも同棲を始めたかったのだが、実家で暮らし続けていた。ふたりで暮らせる部屋をフリーターと大学生で借りるのは、現実的ではないと思ったからだ。だから尊にとって、待ちに待った機会だったのだ。引きたくはなかったが、千歳も頑なだった。そうだ、そういう男だった。こうと決めたことは中々譲らない、そこに尊への想いがあればなおさら。そんなところも好きだし、社会人になって胸を張って隣に立ちたいのだと言われては、尊も飲むしかなかった。それでも完全には譲らなかった。せめて内定を貰ってからと二年半後を提示されたので、じゃあ一年後は? と提示し返した。これから先ずっと一緒にいるのなら、こういう選択にきっと幾度も迫られる。好きだからこそ譲ることもあれば、時には押し通したいこともある。そばにいることは、尊にとって何よりも重要だった。

 そうして勝ち得た、尊が社会人になって一年後の今日。尊にとってはようやくこぎ着けたという感覚だが、千歳にとっては想定より前倒しの新生活だ。千歳が社会人として世に出るまでは、尊が生活費を多く出すつもりでいる。そんなの駄目だよと恋人からの納得は得られていないが、ひとり暮らしの期間も設けず実家でコツコツと貯金してきたのはこの為だった。尊にとってこれも譲れないことのひとつだ。

「そうだ。山田と真野さんが引っ越し祝いに来たいって言ってたよ」
「へえ。あのふたり付き合い始めたんだっけ」
「うん」
「やっとかよ。山田は高校の時から真野のこと好きだったよな」
「え、気づいてたの?」
「分かりやすすぎだろアイツ」
「尊って実は人が好きだよね」
「はあ? いや苦手」
「そうかな。ちゃんと皆を見てる。狭く深くなのは大事にしたいからなんだろうなって思うよ」
「……分かんね」
「あー、照れてる」
「うっせ」

 ずっと髪を撫でてくれている千歳を見上げる。千歳の耳には、あれからピアスもいくつか増えた。もちろん、全部尊が開けた。一対のピアスをふたりで分け合ったものも光っていて、それが胸に甘酸っぱい。噛みしめながら頬に触れると、胸の底から愛しさがこみ上げる。ツンと冷えた鼻に思わずくちびるを小さく噛むと、千歳が屈んでキスをひとつしてくれた。

「そう言えば椎名さんも……」
「……なに」
「あ。ヤキモチ?」
「……ヤキモチ」
「ふは。引っ越しのお祝いくれるってさ」
「そ、そっか」
「ふ。あとケンスケとナベも早く遊びに行きたいとか言ってた」
「楽しみだね。もう山田たちといっぺんに呼んじゃう?」
「そうだな。でもまあ、しばらくは勘弁」
「なんで?」
「やっとちーといれんだから、邪魔すんなって話」
「……ん、そうだね」

 頭をそっとソファに下ろされて、千歳が覆いかぶさってくる。キスはすぐに深くなって、シャツの下で小さく尖るそこをきゅっと摘ままれる。何度も体を重ねるうちに、そんなところでもすぐに快感を拾えるようにすっかり変えられてしまった。

「ん……っ」
「ベッドいく?」
「新居での初セックスがソファ、ってのもいいんじゃね」
「燃えるかも」
「だろ?」
「う、尊かっこいい」
「ちーはかわいいな」
「はは、もう」

 始まりの春の新しい日が、甘やかな時間にとろけだす。体内に愛しい男を受け入れるのは、いくらくり返しても幸福に溺れそうになる。もう無理というほど注がれて、同じだけ愛したい。

「ねえ尊」
「ん? あっ、耳はやばい、って」
「オレ夢みたいだよ。一緒に暮らせるなんて」
「ん、は、俺も」
「ありがとう、大好き」
「は、あ、ちー、早くっ」

 何度果てたかもう数えられなくなった頃、気怠い体で少し微睡んで、どうにか向かった浴室でお互いのものを今度は口内で愛した。先にリビングに戻った尊は、自分の分の段ボールをひとつ開き、小さなスケッチブックにペンを走らせる。

「尊ー、なんか飲む?」
「あー、うん。もらう」

 高校生の頃、尊がねだって交換した指輪はすっかり互いの指に馴染んでいる。もう一生返すこともきっとなくて、じゃあ次はと揃いのものが欲しくなった。それ以来ずっと考えているデザインは、何度も何度も描き直しまだ未完成だ。

「何書いてたの?」
「内緒」
「え……どうしても?」
「無理」
「…………」
「ふは、タコちーだ」

 だが、今メモしたばかりの無限大は、デザインに落としこむことになる気がしている。一緒に暮らしてきっともっと夢中になるのだと、そんな予感が胸に閃いたから。完成の日はきっと近い。

「いつか教える」
「……絶対?」
「うん。だから機嫌なおせ」
「んっ……はは、口食べられた」
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