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第11話 2人の魔女
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夜が更けると、アルシャは湯食みをして就寝の仕度を整える。
基本的にそれらに関しては介入しないソルだが、その日は違っていた。
一糸纏わぬ姿で寝台に上がるアルシャを、ソルは人の姿で見つめている。
彼女が全裸なことに関しては、何も言わない。アルシャが就寝時はこの姿でないと寝付けないことを彼は知っているからだ。
「ソル。明日は」
布団を被り、顔だけを外に出した姿でアルシャは言った。
「存じております」
ソルは頷いた。
「シオンが来次第『扉』は閉鎖します。後は全て、仰られた通りに」
「うむ」
す……と鼻で深く息を吸い、双眸を閉ざして、微笑む。
「幻灯書庫目録の『処理』をする」
幻灯書庫目録。アルシャの父アドレアが封印された『始まりの禁書』。
書庫内の全ての禁書が処理された時、手を付けると言っていた書である。
最初こそ穏便に事を進めたいようなことを口にしていたアルシャだが、今の彼女にそれらの迷いのような感情色は見られない。
毅然とした態度を持って、かの時の訪れに対して向き合っている様子が見て取れた。
「おそらくルナが妨害してくるじゃろう。その時は」
「はい」
アルシャの言葉に、ソルは淡々と応じる。
彼にとって、主人の意思は是以外の何もない。言われた通りに、決められた通りの行動を取るのみだ。
「刺し違えてでも阻止します。アルシャ様の方へは参らせません。御安心を」
──そうしてアルシャが就寝した後も、ソルは書庫で作業を続ける。
本棚に収められた本たちの点検を行い、テーブルの上を綺麗に片付けて、椅子の位置を正して。出したままになっていた茶器一式を決められた場所に片付けて。
次の朝も、これまでと同じように迎えられるように、仕度をする。
今まで以上に丁寧に、細部までしっかりと見回って。
此処が戦場になることを、承知しているからだろうか──
自然と、丹念になる行動にふとした苦笑が漏れ出た。
……まるで、散り際を美しく飾ろうとしている戦人のようだな。
ルナにも散々言われたが、理解しているのだ。自分の力は、ルナのそれには劣っていると。
真っ向から刃を向け合えば、敗北するのは自らの方であろうと。
鍵は、シオンの動向だ。彼女が協力してくれるならば、多少は光明も見えるだろうが……
余り期待をしてはいかんな、と彼は小さくかぶりを振った。
彼女は、禁書の浄化にこそ優れてはいるが、魔女としての力は半人前である。
炎ひとつ満足に生み出せない彼女を、矢面に立たせるのは如何なものなのか。
私も気弱になったものだ。
自嘲気味に独りごちて、彼は定位置にやって来ると太陽の書へと姿を変えた。
何を思えど、何を願えど、明日は必ず訪れる。
それが摂理。歪曲した時の流れが支配する幻灯書庫にも存在する、自然の掟だ。
「おはようございます」
朝。普段通りに挨拶を述べて『扉』から入ってきたシオンを、アルシャは部屋の中央で佇んで待っていた。
「おはよう、シオン」
もはや定位置となったテーブル席のひとつに鞄を置く彼女に、アルシャは言う。
「早速じゃが、御主にしてほしいことがあるんじゃ」
「何でしょうか?」
鞄から杖を取り出し腰に差すシオンに、ついておいでと一声掛けて彼女は歩き出す。
本棚の脇の扉から廊下に出て、薄暗い道を歩いていく。
やがて到着した扉の前で立ち止まり、振り向いた。
「此処じゃ」
シオンの顔を見上げながら扉を開く。
姿見やクローゼットが並んだ室内が、2人を出迎える。本が収められている部屋とは異なった、生活感を感じる場所だった。
アルシャが日常生活の中で、着替えに使用している部屋である。
アルシャはさっさと室内に入ると、迷わず部屋の奥に向かって歩いていった。
姿見の隣に並んでいるトルソーのひとつの前まで行き、それに着せている服に片手を添えて、シオンを呼んだ。
「これに着替えておくれ」
「これは……法衣ですか? 先生が着ているような」
「うむ」
アルシャは頷いた。
「法衣には、着ている者の魔力を強めたり悪しき魔法から身を守るための加護の力が秘められているんじゃ。護符を作っていた時から、法衣も誂えなければならんと思っていたのじゃが、素材が手に入らなかったりとなかなか難しくての」
ようやく完成したのじゃよ、と微笑み、法衣を見上げる。
アルシャが身に纏っているような黒を基調としたゆったりとした作りで、裾に銀糸で何かの図形が刺繍されている。シオンの体型に合わせて仕立てられているので、アルシャの法衣よりは丈が長い。腰部分を締めているベルトも長めだ。
そして法衣だけではなく、足下にはブーツが揃えて置かれている。どうやらひとつの装束として一式揃えられているようだ。
「今日は、特別な日じゃからな。服装からしっかりと準備せねばならん」
「特別な日……ですか?」
「『始まりの禁書』を『処理』するんじゃよ」
始まりの禁書。その一言で、シオンの表情が微妙に引き締まった。
ルナが口にしていた特別な書物の名前──それがどんなものかは分からずとも、いざこざが起きるくらいに何かにとっての要となっている書であることは理解しているのだ。
「じゃあ、きっとルナさんも……」
「来るじゃろうな。間違いなく」
それは、少なからず一波乱あるということを揶揄しているようなもので。
シオンは頷いて、身に着けていたデニムのジャケットを脱いだ。
「今着てる服は脱いだ方が良いんですか?」
「そうじゃな」
アルシャはトルソーから離れて、自分の装束が納められているクローゼットの前に移動した。
下部の引き出しを開き、中から幾つか宝飾品を取り出しながら、言った。
「装飾品は儂のを貸してあげよう。そのうちこれらも仕立てなければならんな」
本棚がすっと左にスライドする。
アルシャとシオンが別室に行っている今、それをやる必要のある者は此処にはいない。
太陽の書としてテーブルの上に身を置いていたソルは、そちらに意識を集中させた。
本棚が動いて現れた扉から、見慣れた姿が入ってきた。
うっすらと口元に笑みを刻んで、親しげに、それは部屋の中央へと迷わずやって来る。
太陽の書──ではない、その隣に置かれていた古めかしい本を手に取って、彼は開口した。
「ああ、こんな場所にあった」
「触れるな」
ぴしゃりとソルは彼に向けて言い放った。
「その書はこれから『処理』をする。邪魔はさせん」
「焚書にするの?」
ルナはまるで言葉の先を読んでいるかのような飄々とした態度で、太陽の書に向き直った。
持ち上げた本の表紙を彼に見せ付けるように向けながら、すっと鼻から息を吐いて、にこりとする。
ソルはあくまで毅然とした態度で、本の姿を保ったまま、言った。
「焚書にはせん。アルシャ様はそのように申しておられる」
「あくまで書は書のまま保管する……か。母様らしいや」
ルナは元の位置に本を戻し、辺りをぐるりと一瞥した。
「3千年……思えば長かったなぁ。この時が来るまで」
部屋を円形に構成する本棚に収められている本たちを、ひとつひとつ愛おしそうに見つめる。
まるで、幼い頃に共に遊んだ友人たちを思い出しているかのような顔だ。
「俺はね」
太陽の書の表紙に親しげに手を置き、続ける。
「ずっと変わらないって、思ってた。毎日書を整理して、禁書の処理をして、あんたと喧嘩して、……そんな日々が延々と続いていくものだって、思ってた」
「永遠はない」
「思いたかったんだよ。ずっと変わらないって」
人差し指の腹で、太陽の書の表紙をついと撫でる。
「そのために禁書作りをしてきたのに、ね」
「……どういう意味だ」
尋ねるソルに、さあてね、とルナは微笑みかけた。
「俺が言うのも何だけどさ、あんた、ちょっと無防備すぎるんじゃない? 魔法書のまま俺といるなんて」
「──何だと?」
「書の内容を自由に書き換える俺の能力、忘れたわけじゃないんでしょ?」
「!」
太陽の書に触れていたルナの右手が光を帯びる。
かっ、と閃光が生まれ、その中から抜け出るように人型になったソルが飛び出してくる。
ソルはルナをきっと見据え、何かの魔法を放とうと右の掌を相手へと向ける。
──が、幾分もせずに、額を左手で抱えてその場に跪いてしまった。
「ちょっとだけ中身を弄らせてもらったよ。余計なことができないように」
「…………」
「卑怯、なんて言わないでね。あんたが俺に対する注意を怠ったのが悪いんだから」
ルナはしゃがんでソルの耳元に口元を寄せた。
「因みに、本に戻ることはできるから。役に立たない人型でいるより、そっちの方がいいかもしれないってね」
「……ち」
ソルは舌を打つと、不本意といった様子で本へと己の姿を戻した。
ルナは太陽の書を拾い上げ、表紙に付いた汚れを丁寧にはたいてテーブルの上に置いた。
丁度、身支度を終えたシオンを連れたアルシャが部屋に戻ってきたところだった。
「……本棚が動いているから何事かと思ったわい。御主、来ておったのか」
「うん。この本探しにね」
幻灯書庫目録をアルシャに見えるようにテーブルの上から取って見せるルナ。
それから、装いを新たにしているシオンに注目した。
「……へぇ」
黒の法衣に身を包み、腰に杖と書を納めるホルダーを装着した、まるでアルシャの姿をそっくり写したかのような格好のシオンは、ルナに注目されていると知るや否や唇をきゅっと結んだ。
「新たな魔女の誕生、って感じがするね。似合ってるよ、シオンちゃん」
「……私、先生の後を継いで1人前の魔女になるって決めてますから」
「何の用じゃ。……まあ、大体の察しは付くがの」
アルシャは己の杖を手に取り、その先端をルナへと向けた。
「邪魔はさせんよ」
「言葉通りにいけばいいけどね」
ふふっと笑って、ルナは彼女に何かを放って寄越す。
アルシャが反射的に手を伸ばして掴まえたそれは、太陽の書だった。
「兄様の能力は一足先に封じさせてもらったよ。どっちかが持ってた方が、いいんじゃない?」
「……何と」
アルシャの目が丸くなった。
思わず太陽の書に目を落とす。と、小さな声で、ソルが謝罪するのが聞こえた。
「申し訳ありません」
「……シオン。御主が持ってておやり」
「……はい」
シオンはアルシャから太陽の書を受け取った。
見た目的には全く変化がない。能力を封じた、というのは、おそらく人型の時に繰り出せる魔法のことを指しているのだろう、と彼女は思った。ルナを前にして本のままでいるのが何よりの証拠だ。
会話は普通にできる。つまり、太陽の書の姿を取っている分には差し支えないということだ。
シオンは普段の通りに、太陽の書を腰のホルダーに納めようとした。
と、ソルがそれに異を唱えてきた。
「シオン。私はすぐに開けるように手元に準備しておけ」
「ソルさん?」
「私自身は魔法を封じられたが……魔法の知識は生きている。お前がそれを読むことで、私の代わりに魔法を使うことが可能になる」
つまり、魔法書として役目を果たすと。ソルはそう言っているのだ。
「アルシャ様は禁書の処理で手一杯だ。私が果たすべきだった役目をお前に担わせることになったのは心苦しいが、お前に前に出てもらうよりこの状況を打破する方法はない」
ソルは、暗に言っているのだ。
お前が、自分の代わりにルナを何とかしろと。
「……分かりました」
「頼んだぞ」
シオンは太陽の書を左手に携えた。
初めてルナの魔法攻撃の標的にされた時の恐怖を、忘れたわけではない。
しかしだからこそ、逃げて護られてばかりでは何も始まらないという思いが彼女の中にはあった。
今度は自分が護る番なのかもしれないと、太陽の書の表紙に目を向けながら彼女は思った。
大丈夫。あの頃の自分とは違う。
自分だって魔女なのだ。アルシャよりは未熟でも、アルシャやソルに認められた幻灯書庫の魔女なのだ。
シオンは杖を右手で腰から抜き、堂々とした面持ちでルナを見据えた。
「コデックス・オブ・ルナ」
アルシャは杖で虚空に文字を描いた。
金色に輝く軌跡は、鎖のように広がってルナの周囲に包囲網を作る。
それに囲まれてなお、ルナの顔からは笑みが消えない。
まるでそうされることすら想定済みとでも言うように。
「幻灯書庫目録の処理は、何としても行わねばならぬ。すまぬが御主には、沈黙してもらうより他にない」
「おっと」
ルナは手にしていた幻灯書庫目録の表紙をぱらりと捲った。
「変えさせないよ。書庫の未来は──何としても」
光の下に晒された幻灯書庫目録のページが、黒青色の霞のようなものを吐き出し始める。
それはルナの周囲を囲うように広がり、アルシャが放った魔法をぱきんと打ち払った。
「来たれ、原初の混沌。全ての災禍に静寂を、広がる悪夢に沈黙を」
ルナの呼びかけに応じ、霞が蠢いてひとつの形を作る。
巨大な竜の頭蓋骨のような姿になったそれは、顎を開いて、2人の方へと襲い掛かった。
ばららら、と勢い良く太陽の書の表紙が中の頁ごと捲られる。そしてある箇所に来たところで、その動きを止めた。
それを見ていたシオンは、瞬時にソルの意図を察した。
「広がれ、神の翼。腕を揺り籠に、眠れる子らに安息を」
開かれたページに記されていた一文を、読み上げる。
杖をさっと振れば、具現化した魔力が光の翼のようなものを形成し、アルシャとシオンの2人を包み込む。
ルナが生み出した竜の顎はその光に阻まれて、ふしゃあと蒸気が生まれるような音を発して消滅した。
「貫け、天の光槍。望まれぬ混乱に秩序の波紋を」
続けて下に書かれている一文を朗読する。
ルナの頭上と足下に、同じ形状をした魔法陣が生み出される。
ルナが咄嗟にその場を横跳びになって離れるのと、魔法陣から生み出された数多の槍が霞の残滓を貫いたのはほぼ同時だった。
「やるねぇ」
「私だって、護ってもらってばかりじゃないんです!」
ルナの言葉に、シオンは声を張り上げて返した。
そう。シオンは鍛錬を欠かさず行ってきた。アルシャやソルから見れば下手かもしれなかったが、それでも一生懸命に、魔法を制御する練習を繰り返しやってきたのだ。その努力が無駄だとは、決して思いたくはなかった。
「……シオン」
ふっ、と微笑んで、アルシャは自分も負けていられないとばかりに杖を振るった。
「静まれ、世界。綻びは紡ぎ直され奈落を塞ぎ、安寧の地を生まん」
エメラルド色の光が細長く伸びて草の蔓のような形になり、ルナが手にしている本へと頭を伸ばす。
禁書を処理する魔法であると察したルナは、本を持った手を頭上に高く掲げてアルシャの魔法を回避した。
蔓は標的を見失い、ほろほろと光の欠片になって崩れ落ちる。その欠片たちを振り払うように左手で空を切り、ルナは危ないなぁと肩を竦めた。
「いくら浄化魔法が効かないからって、いきなりそう来る?」
「遊戯じゃあるまいて。猶予を作る必要が何処にあるんじゃ?」
「粋じゃないねぇ」
ぺろり、と唇を舐めて本を構え直すルナ。
「アドレア様が可哀想だよ」
「……!」
ぴく、と肩で反応を示すアルシャ。
ルナは本のページを更に捲り、そこに左手を広げて押し付けるようなポーズを取った。
「開け、冥府の扉」
ルナの掌の隙間から漏れ出るように、紫の靄が生まれ出でる。
それは人の姿を形作り、幾許もせずに、男の魔術師の格好になった。
「──父上」
杖の先端を向けた体勢のまま、アルシャは小さな声で呟く。
アドレアの目線が、ゆっくりと、アルシャへと向けられた。
「私は、変化を望まぬ」
立派な口髭を生やした口が、低い声で言葉を紡ぐ。
「幻灯書庫に生きる魔女は、永遠の存在でなければならぬ」
「それは、違う」
アルシャはゆっくりと、小さく控え目にかぶりを振った。
「幻灯書庫も──そこに生きる存在も、外の世界が変化するように変わっていく存在でなければならぬ。永遠なんて、ありえぬことじゃ」
「ならぬ」
アドレアはアルシャの言葉をきっぱりと斬って捨て、ついと視線を横にずらした。
彼の目に映っているのは、幼き魔女とよく似た姿かたちをした少女。
「外の世界に心動かされるのも……書庫に変化を齎そうと考えるのも、全ては外からの招かれざる存在が招くことか」
その少女に。
魔術師は、静かに右の人差し指を向けた。
「滅びよ。招かれざる存在よ」
「シオン!」
ソルが叫ぶ。
咄嗟に防御の陣を張ろうとしたシオンは、太陽の書を構えて口を開いたところでその動きを停止させる。
つ……と口の端から伝い落ちる赤い液体。
アドレアの手から放たれた一条の光は、シオンの脇腹を深々と貫いていた。
生じた激痛に抗えず、シオンは腹を庇ってその場に座り込んでしまう。
「何ということを──」
アルシャはシオンの傍らに寄り添い、シオンの傷口に触れた。
「温めよ、木漏れ日よ」
掌から生まれた光が、シオンの傷を癒す。
灼かれた肉が時間を逆回しするように盛り上がり、穴を塞いで、新たな皮を張る。血は止まり、法衣の裂け目こそ戻らないが皮膚は完全に元の形に戻った。
それでも、急に痛みが途切れるわけではない。シオンは荒い呼吸を繰り返しながら、それでも声は上げまいと必死に唇を噛んでいる。
「何故儂を狙わずこの子を撃つのじゃ」
シオンを庇うように彼女の前に出て、アルシャはアドレアを睨んだ。
「私は、書庫に変化を齎すことを良しとせぬ」
アルシャの非難の眼差しを淡々と受け止めて、アドレアは言う。
「幻灯書庫の永遠を作るには……お前は必要なのだ。アルシャ」
基本的にそれらに関しては介入しないソルだが、その日は違っていた。
一糸纏わぬ姿で寝台に上がるアルシャを、ソルは人の姿で見つめている。
彼女が全裸なことに関しては、何も言わない。アルシャが就寝時はこの姿でないと寝付けないことを彼は知っているからだ。
「ソル。明日は」
布団を被り、顔だけを外に出した姿でアルシャは言った。
「存じております」
ソルは頷いた。
「シオンが来次第『扉』は閉鎖します。後は全て、仰られた通りに」
「うむ」
す……と鼻で深く息を吸い、双眸を閉ざして、微笑む。
「幻灯書庫目録の『処理』をする」
幻灯書庫目録。アルシャの父アドレアが封印された『始まりの禁書』。
書庫内の全ての禁書が処理された時、手を付けると言っていた書である。
最初こそ穏便に事を進めたいようなことを口にしていたアルシャだが、今の彼女にそれらの迷いのような感情色は見られない。
毅然とした態度を持って、かの時の訪れに対して向き合っている様子が見て取れた。
「おそらくルナが妨害してくるじゃろう。その時は」
「はい」
アルシャの言葉に、ソルは淡々と応じる。
彼にとって、主人の意思は是以外の何もない。言われた通りに、決められた通りの行動を取るのみだ。
「刺し違えてでも阻止します。アルシャ様の方へは参らせません。御安心を」
──そうしてアルシャが就寝した後も、ソルは書庫で作業を続ける。
本棚に収められた本たちの点検を行い、テーブルの上を綺麗に片付けて、椅子の位置を正して。出したままになっていた茶器一式を決められた場所に片付けて。
次の朝も、これまでと同じように迎えられるように、仕度をする。
今まで以上に丁寧に、細部までしっかりと見回って。
此処が戦場になることを、承知しているからだろうか──
自然と、丹念になる行動にふとした苦笑が漏れ出た。
……まるで、散り際を美しく飾ろうとしている戦人のようだな。
ルナにも散々言われたが、理解しているのだ。自分の力は、ルナのそれには劣っていると。
真っ向から刃を向け合えば、敗北するのは自らの方であろうと。
鍵は、シオンの動向だ。彼女が協力してくれるならば、多少は光明も見えるだろうが……
余り期待をしてはいかんな、と彼は小さくかぶりを振った。
彼女は、禁書の浄化にこそ優れてはいるが、魔女としての力は半人前である。
炎ひとつ満足に生み出せない彼女を、矢面に立たせるのは如何なものなのか。
私も気弱になったものだ。
自嘲気味に独りごちて、彼は定位置にやって来ると太陽の書へと姿を変えた。
何を思えど、何を願えど、明日は必ず訪れる。
それが摂理。歪曲した時の流れが支配する幻灯書庫にも存在する、自然の掟だ。
「おはようございます」
朝。普段通りに挨拶を述べて『扉』から入ってきたシオンを、アルシャは部屋の中央で佇んで待っていた。
「おはよう、シオン」
もはや定位置となったテーブル席のひとつに鞄を置く彼女に、アルシャは言う。
「早速じゃが、御主にしてほしいことがあるんじゃ」
「何でしょうか?」
鞄から杖を取り出し腰に差すシオンに、ついておいでと一声掛けて彼女は歩き出す。
本棚の脇の扉から廊下に出て、薄暗い道を歩いていく。
やがて到着した扉の前で立ち止まり、振り向いた。
「此処じゃ」
シオンの顔を見上げながら扉を開く。
姿見やクローゼットが並んだ室内が、2人を出迎える。本が収められている部屋とは異なった、生活感を感じる場所だった。
アルシャが日常生活の中で、着替えに使用している部屋である。
アルシャはさっさと室内に入ると、迷わず部屋の奥に向かって歩いていった。
姿見の隣に並んでいるトルソーのひとつの前まで行き、それに着せている服に片手を添えて、シオンを呼んだ。
「これに着替えておくれ」
「これは……法衣ですか? 先生が着ているような」
「うむ」
アルシャは頷いた。
「法衣には、着ている者の魔力を強めたり悪しき魔法から身を守るための加護の力が秘められているんじゃ。護符を作っていた時から、法衣も誂えなければならんと思っていたのじゃが、素材が手に入らなかったりとなかなか難しくての」
ようやく完成したのじゃよ、と微笑み、法衣を見上げる。
アルシャが身に纏っているような黒を基調としたゆったりとした作りで、裾に銀糸で何かの図形が刺繍されている。シオンの体型に合わせて仕立てられているので、アルシャの法衣よりは丈が長い。腰部分を締めているベルトも長めだ。
そして法衣だけではなく、足下にはブーツが揃えて置かれている。どうやらひとつの装束として一式揃えられているようだ。
「今日は、特別な日じゃからな。服装からしっかりと準備せねばならん」
「特別な日……ですか?」
「『始まりの禁書』を『処理』するんじゃよ」
始まりの禁書。その一言で、シオンの表情が微妙に引き締まった。
ルナが口にしていた特別な書物の名前──それがどんなものかは分からずとも、いざこざが起きるくらいに何かにとっての要となっている書であることは理解しているのだ。
「じゃあ、きっとルナさんも……」
「来るじゃろうな。間違いなく」
それは、少なからず一波乱あるということを揶揄しているようなもので。
シオンは頷いて、身に着けていたデニムのジャケットを脱いだ。
「今着てる服は脱いだ方が良いんですか?」
「そうじゃな」
アルシャはトルソーから離れて、自分の装束が納められているクローゼットの前に移動した。
下部の引き出しを開き、中から幾つか宝飾品を取り出しながら、言った。
「装飾品は儂のを貸してあげよう。そのうちこれらも仕立てなければならんな」
本棚がすっと左にスライドする。
アルシャとシオンが別室に行っている今、それをやる必要のある者は此処にはいない。
太陽の書としてテーブルの上に身を置いていたソルは、そちらに意識を集中させた。
本棚が動いて現れた扉から、見慣れた姿が入ってきた。
うっすらと口元に笑みを刻んで、親しげに、それは部屋の中央へと迷わずやって来る。
太陽の書──ではない、その隣に置かれていた古めかしい本を手に取って、彼は開口した。
「ああ、こんな場所にあった」
「触れるな」
ぴしゃりとソルは彼に向けて言い放った。
「その書はこれから『処理』をする。邪魔はさせん」
「焚書にするの?」
ルナはまるで言葉の先を読んでいるかのような飄々とした態度で、太陽の書に向き直った。
持ち上げた本の表紙を彼に見せ付けるように向けながら、すっと鼻から息を吐いて、にこりとする。
ソルはあくまで毅然とした態度で、本の姿を保ったまま、言った。
「焚書にはせん。アルシャ様はそのように申しておられる」
「あくまで書は書のまま保管する……か。母様らしいや」
ルナは元の位置に本を戻し、辺りをぐるりと一瞥した。
「3千年……思えば長かったなぁ。この時が来るまで」
部屋を円形に構成する本棚に収められている本たちを、ひとつひとつ愛おしそうに見つめる。
まるで、幼い頃に共に遊んだ友人たちを思い出しているかのような顔だ。
「俺はね」
太陽の書の表紙に親しげに手を置き、続ける。
「ずっと変わらないって、思ってた。毎日書を整理して、禁書の処理をして、あんたと喧嘩して、……そんな日々が延々と続いていくものだって、思ってた」
「永遠はない」
「思いたかったんだよ。ずっと変わらないって」
人差し指の腹で、太陽の書の表紙をついと撫でる。
「そのために禁書作りをしてきたのに、ね」
「……どういう意味だ」
尋ねるソルに、さあてね、とルナは微笑みかけた。
「俺が言うのも何だけどさ、あんた、ちょっと無防備すぎるんじゃない? 魔法書のまま俺といるなんて」
「──何だと?」
「書の内容を自由に書き換える俺の能力、忘れたわけじゃないんでしょ?」
「!」
太陽の書に触れていたルナの右手が光を帯びる。
かっ、と閃光が生まれ、その中から抜け出るように人型になったソルが飛び出してくる。
ソルはルナをきっと見据え、何かの魔法を放とうと右の掌を相手へと向ける。
──が、幾分もせずに、額を左手で抱えてその場に跪いてしまった。
「ちょっとだけ中身を弄らせてもらったよ。余計なことができないように」
「…………」
「卑怯、なんて言わないでね。あんたが俺に対する注意を怠ったのが悪いんだから」
ルナはしゃがんでソルの耳元に口元を寄せた。
「因みに、本に戻ることはできるから。役に立たない人型でいるより、そっちの方がいいかもしれないってね」
「……ち」
ソルは舌を打つと、不本意といった様子で本へと己の姿を戻した。
ルナは太陽の書を拾い上げ、表紙に付いた汚れを丁寧にはたいてテーブルの上に置いた。
丁度、身支度を終えたシオンを連れたアルシャが部屋に戻ってきたところだった。
「……本棚が動いているから何事かと思ったわい。御主、来ておったのか」
「うん。この本探しにね」
幻灯書庫目録をアルシャに見えるようにテーブルの上から取って見せるルナ。
それから、装いを新たにしているシオンに注目した。
「……へぇ」
黒の法衣に身を包み、腰に杖と書を納めるホルダーを装着した、まるでアルシャの姿をそっくり写したかのような格好のシオンは、ルナに注目されていると知るや否や唇をきゅっと結んだ。
「新たな魔女の誕生、って感じがするね。似合ってるよ、シオンちゃん」
「……私、先生の後を継いで1人前の魔女になるって決めてますから」
「何の用じゃ。……まあ、大体の察しは付くがの」
アルシャは己の杖を手に取り、その先端をルナへと向けた。
「邪魔はさせんよ」
「言葉通りにいけばいいけどね」
ふふっと笑って、ルナは彼女に何かを放って寄越す。
アルシャが反射的に手を伸ばして掴まえたそれは、太陽の書だった。
「兄様の能力は一足先に封じさせてもらったよ。どっちかが持ってた方が、いいんじゃない?」
「……何と」
アルシャの目が丸くなった。
思わず太陽の書に目を落とす。と、小さな声で、ソルが謝罪するのが聞こえた。
「申し訳ありません」
「……シオン。御主が持ってておやり」
「……はい」
シオンはアルシャから太陽の書を受け取った。
見た目的には全く変化がない。能力を封じた、というのは、おそらく人型の時に繰り出せる魔法のことを指しているのだろう、と彼女は思った。ルナを前にして本のままでいるのが何よりの証拠だ。
会話は普通にできる。つまり、太陽の書の姿を取っている分には差し支えないということだ。
シオンは普段の通りに、太陽の書を腰のホルダーに納めようとした。
と、ソルがそれに異を唱えてきた。
「シオン。私はすぐに開けるように手元に準備しておけ」
「ソルさん?」
「私自身は魔法を封じられたが……魔法の知識は生きている。お前がそれを読むことで、私の代わりに魔法を使うことが可能になる」
つまり、魔法書として役目を果たすと。ソルはそう言っているのだ。
「アルシャ様は禁書の処理で手一杯だ。私が果たすべきだった役目をお前に担わせることになったのは心苦しいが、お前に前に出てもらうよりこの状況を打破する方法はない」
ソルは、暗に言っているのだ。
お前が、自分の代わりにルナを何とかしろと。
「……分かりました」
「頼んだぞ」
シオンは太陽の書を左手に携えた。
初めてルナの魔法攻撃の標的にされた時の恐怖を、忘れたわけではない。
しかしだからこそ、逃げて護られてばかりでは何も始まらないという思いが彼女の中にはあった。
今度は自分が護る番なのかもしれないと、太陽の書の表紙に目を向けながら彼女は思った。
大丈夫。あの頃の自分とは違う。
自分だって魔女なのだ。アルシャよりは未熟でも、アルシャやソルに認められた幻灯書庫の魔女なのだ。
シオンは杖を右手で腰から抜き、堂々とした面持ちでルナを見据えた。
「コデックス・オブ・ルナ」
アルシャは杖で虚空に文字を描いた。
金色に輝く軌跡は、鎖のように広がってルナの周囲に包囲網を作る。
それに囲まれてなお、ルナの顔からは笑みが消えない。
まるでそうされることすら想定済みとでも言うように。
「幻灯書庫目録の処理は、何としても行わねばならぬ。すまぬが御主には、沈黙してもらうより他にない」
「おっと」
ルナは手にしていた幻灯書庫目録の表紙をぱらりと捲った。
「変えさせないよ。書庫の未来は──何としても」
光の下に晒された幻灯書庫目録のページが、黒青色の霞のようなものを吐き出し始める。
それはルナの周囲を囲うように広がり、アルシャが放った魔法をぱきんと打ち払った。
「来たれ、原初の混沌。全ての災禍に静寂を、広がる悪夢に沈黙を」
ルナの呼びかけに応じ、霞が蠢いてひとつの形を作る。
巨大な竜の頭蓋骨のような姿になったそれは、顎を開いて、2人の方へと襲い掛かった。
ばららら、と勢い良く太陽の書の表紙が中の頁ごと捲られる。そしてある箇所に来たところで、その動きを止めた。
それを見ていたシオンは、瞬時にソルの意図を察した。
「広がれ、神の翼。腕を揺り籠に、眠れる子らに安息を」
開かれたページに記されていた一文を、読み上げる。
杖をさっと振れば、具現化した魔力が光の翼のようなものを形成し、アルシャとシオンの2人を包み込む。
ルナが生み出した竜の顎はその光に阻まれて、ふしゃあと蒸気が生まれるような音を発して消滅した。
「貫け、天の光槍。望まれぬ混乱に秩序の波紋を」
続けて下に書かれている一文を朗読する。
ルナの頭上と足下に、同じ形状をした魔法陣が生み出される。
ルナが咄嗟にその場を横跳びになって離れるのと、魔法陣から生み出された数多の槍が霞の残滓を貫いたのはほぼ同時だった。
「やるねぇ」
「私だって、護ってもらってばかりじゃないんです!」
ルナの言葉に、シオンは声を張り上げて返した。
そう。シオンは鍛錬を欠かさず行ってきた。アルシャやソルから見れば下手かもしれなかったが、それでも一生懸命に、魔法を制御する練習を繰り返しやってきたのだ。その努力が無駄だとは、決して思いたくはなかった。
「……シオン」
ふっ、と微笑んで、アルシャは自分も負けていられないとばかりに杖を振るった。
「静まれ、世界。綻びは紡ぎ直され奈落を塞ぎ、安寧の地を生まん」
エメラルド色の光が細長く伸びて草の蔓のような形になり、ルナが手にしている本へと頭を伸ばす。
禁書を処理する魔法であると察したルナは、本を持った手を頭上に高く掲げてアルシャの魔法を回避した。
蔓は標的を見失い、ほろほろと光の欠片になって崩れ落ちる。その欠片たちを振り払うように左手で空を切り、ルナは危ないなぁと肩を竦めた。
「いくら浄化魔法が効かないからって、いきなりそう来る?」
「遊戯じゃあるまいて。猶予を作る必要が何処にあるんじゃ?」
「粋じゃないねぇ」
ぺろり、と唇を舐めて本を構え直すルナ。
「アドレア様が可哀想だよ」
「……!」
ぴく、と肩で反応を示すアルシャ。
ルナは本のページを更に捲り、そこに左手を広げて押し付けるようなポーズを取った。
「開け、冥府の扉」
ルナの掌の隙間から漏れ出るように、紫の靄が生まれ出でる。
それは人の姿を形作り、幾許もせずに、男の魔術師の格好になった。
「──父上」
杖の先端を向けた体勢のまま、アルシャは小さな声で呟く。
アドレアの目線が、ゆっくりと、アルシャへと向けられた。
「私は、変化を望まぬ」
立派な口髭を生やした口が、低い声で言葉を紡ぐ。
「幻灯書庫に生きる魔女は、永遠の存在でなければならぬ」
「それは、違う」
アルシャはゆっくりと、小さく控え目にかぶりを振った。
「幻灯書庫も──そこに生きる存在も、外の世界が変化するように変わっていく存在でなければならぬ。永遠なんて、ありえぬことじゃ」
「ならぬ」
アドレアはアルシャの言葉をきっぱりと斬って捨て、ついと視線を横にずらした。
彼の目に映っているのは、幼き魔女とよく似た姿かたちをした少女。
「外の世界に心動かされるのも……書庫に変化を齎そうと考えるのも、全ては外からの招かれざる存在が招くことか」
その少女に。
魔術師は、静かに右の人差し指を向けた。
「滅びよ。招かれざる存在よ」
「シオン!」
ソルが叫ぶ。
咄嗟に防御の陣を張ろうとしたシオンは、太陽の書を構えて口を開いたところでその動きを停止させる。
つ……と口の端から伝い落ちる赤い液体。
アドレアの手から放たれた一条の光は、シオンの脇腹を深々と貫いていた。
生じた激痛に抗えず、シオンは腹を庇ってその場に座り込んでしまう。
「何ということを──」
アルシャはシオンの傍らに寄り添い、シオンの傷口に触れた。
「温めよ、木漏れ日よ」
掌から生まれた光が、シオンの傷を癒す。
灼かれた肉が時間を逆回しするように盛り上がり、穴を塞いで、新たな皮を張る。血は止まり、法衣の裂け目こそ戻らないが皮膚は完全に元の形に戻った。
それでも、急に痛みが途切れるわけではない。シオンは荒い呼吸を繰り返しながら、それでも声は上げまいと必死に唇を噛んでいる。
「何故儂を狙わずこの子を撃つのじゃ」
シオンを庇うように彼女の前に出て、アルシャはアドレアを睨んだ。
「私は、書庫に変化を齎すことを良しとせぬ」
アルシャの非難の眼差しを淡々と受け止めて、アドレアは言う。
「幻灯書庫の永遠を作るには……お前は必要なのだ。アルシャ」
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