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第7話 この出会いに感謝を
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会社の食堂はメニューが少ない。
しかも年寄り向けの料理ばかりなので、社員の中で食堂を利用している若い社員は少なかった。
安いのが最大の売りだな。食堂の料理は。
焼鮭定食を頬張りながら、青木はあっはははと笑いを零した。
「へぇ、なかなかやるじゃないか、ミラちゃん」
「笑い事じゃないよ。お陰でこっちは朝っぱらから苦労の連続だ」
僕は肉じゃがのジャガイモに箸を突き刺しながら、唇を尖らせた。
「帰ったら色々と教えてやらなきゃいけないし……全く、三次元の女というのは面倒でしょうがない」
「とか何とか言いつつ、本当は嬉しいんだろ? 可愛い彼女ができて」
「彼女じゃない。おぞましい冗談を言うのはやめてくれ」
──僕は青木に、ミラが同居人として僕の家に転がり込むことになったことを話していた。
彼女が異星人だと主張していることを話してあるせいか、青木は今朝の出来事の話を面白い話を聞くような顔をして聞いていた。
おそらく、彼はミラのことを『独創的な女』だとでも思っているのだろう。
「三好。自分のことを好いてくれる存在というのは貴重だぞ。人間は一人じゃ生きていくことはできないんだから」
「好いてくれるって言っても限度があるだろ」
ジャガイモを口の中に放り込み、咀嚼して飲み込む。
やっぱり肉じゃがというのは美味いな。定食の中では僕はこれが一番好きだ。
「二言目には『私と子供を作って下さい』だぞ? 普通は引くって、そんなことを言われたら」
「そうか? 俺は嬉しいけどなぁ、可愛い女の子にそんな風に慕われたら」
焼鮭をほぐして口に放り込みながら、青木は優しい微笑みを浮かべていた。
「自分のことを異星人と言うのはちょっと変わってるとは思うけど……健気でいい子じゃないか。そこを除けば普通なんだろ? 彼女は」
「コンロの使い方が分からない時点でお察しだ。普通なもんかよ、あれが」
脳裏にミラの顔が浮かぶ。
何処か浮世離れしていて、日本の常識が分からなくて、僕に抱かれたがることしか頭にない女。
一体青木は、そんな彼女の何処をどういう風に見てあれを健気でいい子だなんて評価しているのだろう。
イケメンの考えることは宇宙だ。僕には理解できそうにない。
「なあ、三好」
僕の目をひたと見据えて、青木は言った。
「人間は、付き合う人間は選べるけど出会う人間は選べないんだよ。せっかく何十、何百っていう偶然を重ねて出会うことができた人なんだ、もっと大切にしてやれよ。この出会いを」
白米を一口頬張って、続ける。
「いつかこの出会いができて良かったって思える日が来るはずだからさ」
……本当に僕にそんな日が訪れるのか、僕には分からなかった。
僕が、二次元の女ではなく三次元の女と付き合って、その出会いに感謝する日が来るなんて……
今のあいつを見ていると、とてもそんな気分にはなれそうにない。
やはり、女は二次元の存在に限る。改めてそう思わずにはいられなかった。
「……明日、お前有休取ってるんだろ? せっかくだからミラちゃんと二人で出かけたらどうだ。何か新しい発見があるかもしれないぞ」
「デートはするつもりはないけど、買い物には行こうと思ってる」
コップの水を飲みながら、僕は答えた。
秋葉原に行くのではない。ミラが使う布団とか替えの服とかを買いに行くのだ。
いつまでも同じ服を着させるのは衛生上宜しくないし、ずっとベッドを占領されてたら僕の身が持たないからな。
痛い出費ではあるが、これも何もない日常を過ごすためには必要なことである。多少のことには目を瞑ろうと思っている。
……僕も、何のかんので甘いな。素性も分からない女のために、ここまでやろうとするなんて。
ミラは喜んでくれるだろうか。それが、ほんのちょっとだけ気になった。
「……ま、乗りかかった船だ。せいぜい沈没しないように努力はするさ」
僕は微苦笑して、肉じゃがに入っていた白滝を頬張ったのだった。
しかも年寄り向けの料理ばかりなので、社員の中で食堂を利用している若い社員は少なかった。
安いのが最大の売りだな。食堂の料理は。
焼鮭定食を頬張りながら、青木はあっはははと笑いを零した。
「へぇ、なかなかやるじゃないか、ミラちゃん」
「笑い事じゃないよ。お陰でこっちは朝っぱらから苦労の連続だ」
僕は肉じゃがのジャガイモに箸を突き刺しながら、唇を尖らせた。
「帰ったら色々と教えてやらなきゃいけないし……全く、三次元の女というのは面倒でしょうがない」
「とか何とか言いつつ、本当は嬉しいんだろ? 可愛い彼女ができて」
「彼女じゃない。おぞましい冗談を言うのはやめてくれ」
──僕は青木に、ミラが同居人として僕の家に転がり込むことになったことを話していた。
彼女が異星人だと主張していることを話してあるせいか、青木は今朝の出来事の話を面白い話を聞くような顔をして聞いていた。
おそらく、彼はミラのことを『独創的な女』だとでも思っているのだろう。
「三好。自分のことを好いてくれる存在というのは貴重だぞ。人間は一人じゃ生きていくことはできないんだから」
「好いてくれるって言っても限度があるだろ」
ジャガイモを口の中に放り込み、咀嚼して飲み込む。
やっぱり肉じゃがというのは美味いな。定食の中では僕はこれが一番好きだ。
「二言目には『私と子供を作って下さい』だぞ? 普通は引くって、そんなことを言われたら」
「そうか? 俺は嬉しいけどなぁ、可愛い女の子にそんな風に慕われたら」
焼鮭をほぐして口に放り込みながら、青木は優しい微笑みを浮かべていた。
「自分のことを異星人と言うのはちょっと変わってるとは思うけど……健気でいい子じゃないか。そこを除けば普通なんだろ? 彼女は」
「コンロの使い方が分からない時点でお察しだ。普通なもんかよ、あれが」
脳裏にミラの顔が浮かぶ。
何処か浮世離れしていて、日本の常識が分からなくて、僕に抱かれたがることしか頭にない女。
一体青木は、そんな彼女の何処をどういう風に見てあれを健気でいい子だなんて評価しているのだろう。
イケメンの考えることは宇宙だ。僕には理解できそうにない。
「なあ、三好」
僕の目をひたと見据えて、青木は言った。
「人間は、付き合う人間は選べるけど出会う人間は選べないんだよ。せっかく何十、何百っていう偶然を重ねて出会うことができた人なんだ、もっと大切にしてやれよ。この出会いを」
白米を一口頬張って、続ける。
「いつかこの出会いができて良かったって思える日が来るはずだからさ」
……本当に僕にそんな日が訪れるのか、僕には分からなかった。
僕が、二次元の女ではなく三次元の女と付き合って、その出会いに感謝する日が来るなんて……
今のあいつを見ていると、とてもそんな気分にはなれそうにない。
やはり、女は二次元の存在に限る。改めてそう思わずにはいられなかった。
「……明日、お前有休取ってるんだろ? せっかくだからミラちゃんと二人で出かけたらどうだ。何か新しい発見があるかもしれないぞ」
「デートはするつもりはないけど、買い物には行こうと思ってる」
コップの水を飲みながら、僕は答えた。
秋葉原に行くのではない。ミラが使う布団とか替えの服とかを買いに行くのだ。
いつまでも同じ服を着させるのは衛生上宜しくないし、ずっとベッドを占領されてたら僕の身が持たないからな。
痛い出費ではあるが、これも何もない日常を過ごすためには必要なことである。多少のことには目を瞑ろうと思っている。
……僕も、何のかんので甘いな。素性も分からない女のために、ここまでやろうとするなんて。
ミラは喜んでくれるだろうか。それが、ほんのちょっとだけ気になった。
「……ま、乗りかかった船だ。せいぜい沈没しないように努力はするさ」
僕は微苦笑して、肉じゃがに入っていた白滝を頬張ったのだった。
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