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第13話 嫉妬
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「ただいま」
仕事を終えて帰宅した僕が玄関のドアを開けると、スパイシーな香りが僕を出迎えた。
この匂いは……カレーか?
「お帰りなさい、櫂斗さん」
ぱたぱたとキッチンからカレーの付いたおたまを手にしたスウェット姿のミラが駆けてくる。
わざわざ出迎えに来なくてもいいのに。妙なところで律儀な奴だ。
「今、カレーライスを作ってました。もう少しでできますので」
「おう」
僕は返事をしながら部屋に上がり、上着を脱いで、ベッドの上に放り投げた。皺になった上着が畳まれている洗濯物の上にばさりと掛かる。
洗濯物もちゃんと畳んでくれたのか。どうやら、ミラは家の仕事をできる範囲の中できっちりとこなしてくれているようである。
彼女には料理に洗濯、掃除と基本的なことを一通り実演付きで教えたのだが、それがちゃんと身になっているようで僕は嬉しい。
世の中には……教えてもまるでできない奴っているからな。
「何のカレーを作ったんだ?」
ネクタイを緩めながら、僕はキッチンに足を踏み入れた。
遅れて鍋の前に戻ってきたミラが、自信たっぷりに鍋の中身を指し示した。
「私なりに一生懸命考えて作りました。自信作です!」
「ほう。どれどれ……」
僕は彼女からおたまを受け取って、鍋の中身を掬い上げた。
そして……出てきたものに、表情を強張らせた。
カレーの中から出てきた白いものをミラに見せて、尋ねる。
「ミラ……これは一体何だ?」
「え……美味しかったので、カレーに入れたら美味しいかなと思って……」
「美味しいからってカレーに餃子入れる奴が何処にいるんだよ!」
カレーまみれになった餃子は、随分長いこと煮られていたのだろう、皮が溶けてどろどろになっていた。
何か嫌な予感がする。
僕は鍋の底を掻き混ぜて、具材を掬った。
グリーンピースが取れたシュウマイが出てきた。小さく切られた人参とジャガイモが出てきた。ジャガイモはすっかり熱で溶けて崩れてしまっている。この肉の塊は……鶏肉か。切れているからって切らずにそのまま使ったな。
………………
「あの……御気に召しませんでしたか?」
小首を傾げて僕の顔を覗き込む彼女。
僕は溜め息をついて、おたまを鍋に戻しながら言った。
「あのな……美味い料理も組み合わせを間違えると悲惨なことになるんだ。覚えておけ」
彼女は張り切るととんでもない方向に暴走するんだな。覚えておこう。
料理を教える時はレシピまできっちりと教えようと心に誓い、僕は戸棚から料理を盛るための皿を取り出したのだった。
インド人もびっくりなミラ特製カレーを食べながら、僕はミラに話を切り出した。
「ミラ。今度の土曜日……四日後だけど、僕、出かけてくるから」
「お出かけなさるんですか?」
人参を頬張りながら目を瞬かせる彼女に、僕は小泉のことを話して聞かせた。
話を聞いたミラの表情が、誰が見ても分かるほどに不機嫌なものへと変わっていく。
スプーンを器にかちゃりと置いて、彼女は僕の目をじっと見つめた。
「櫂斗さん……酷いです。私とは子供を作らないと散々言っておきながら、別の女性とはそんな簡単に子作りするなんて……」
「何でそっちに話が転がるんだよ!?」
僕は思わず吹き出しそうになったカレーを何とか飲み込んで、叫んだ。
「小泉はただの会社の後輩! あいつに頼まれて一緒にカフェに食事しに行くだけだからな!」
「そういうことが起こらないとも限らないではありませんか」
「起きるわけないだろ! あんたは一体僕を何だと思ってるんだ!」
これは嫉妬か? 嫉妬なのか?
何て面倒臭いんだ、女ってのは!
「そういうわけで、土曜は家にいないから! 家のことはあんたに頼んだからな!」
もう決まった話だからなと僕が言うと。
ミラは渋々といった様子で、それでも一応納得はしてくれたのか、了承してくれた。
「分かりました……お家のことは、私がちゃんと責任を持ってやりますから」
「宜しくな」
何とか、ミラの了解を得ることができた。これで小泉に返事ができる。
ミラは僕の目を見つめたまま、何処か淋しそうな表情をして、強請るように声を発した。
「櫂斗さん……私も櫂斗さんをお出かけにお誘いすれば、私と子供を作って下さるのですか?」
「やるわけないだろ」
ぴしゃりと言い放ち、僕はシュウマイを頬張った。
まあ……一方的に家のことを押し付けたのは悪いと思っている。カフェに行った帰りには、何か土産を買っていってやろう。
菓子とかなら、彼女も喜ぶかもな。
そんなことを考えながら、僕は残りのカレーを一気に口の中に掻き込んだのだった。
仕事を終えて帰宅した僕が玄関のドアを開けると、スパイシーな香りが僕を出迎えた。
この匂いは……カレーか?
「お帰りなさい、櫂斗さん」
ぱたぱたとキッチンからカレーの付いたおたまを手にしたスウェット姿のミラが駆けてくる。
わざわざ出迎えに来なくてもいいのに。妙なところで律儀な奴だ。
「今、カレーライスを作ってました。もう少しでできますので」
「おう」
僕は返事をしながら部屋に上がり、上着を脱いで、ベッドの上に放り投げた。皺になった上着が畳まれている洗濯物の上にばさりと掛かる。
洗濯物もちゃんと畳んでくれたのか。どうやら、ミラは家の仕事をできる範囲の中できっちりとこなしてくれているようである。
彼女には料理に洗濯、掃除と基本的なことを一通り実演付きで教えたのだが、それがちゃんと身になっているようで僕は嬉しい。
世の中には……教えてもまるでできない奴っているからな。
「何のカレーを作ったんだ?」
ネクタイを緩めながら、僕はキッチンに足を踏み入れた。
遅れて鍋の前に戻ってきたミラが、自信たっぷりに鍋の中身を指し示した。
「私なりに一生懸命考えて作りました。自信作です!」
「ほう。どれどれ……」
僕は彼女からおたまを受け取って、鍋の中身を掬い上げた。
そして……出てきたものに、表情を強張らせた。
カレーの中から出てきた白いものをミラに見せて、尋ねる。
「ミラ……これは一体何だ?」
「え……美味しかったので、カレーに入れたら美味しいかなと思って……」
「美味しいからってカレーに餃子入れる奴が何処にいるんだよ!」
カレーまみれになった餃子は、随分長いこと煮られていたのだろう、皮が溶けてどろどろになっていた。
何か嫌な予感がする。
僕は鍋の底を掻き混ぜて、具材を掬った。
グリーンピースが取れたシュウマイが出てきた。小さく切られた人参とジャガイモが出てきた。ジャガイモはすっかり熱で溶けて崩れてしまっている。この肉の塊は……鶏肉か。切れているからって切らずにそのまま使ったな。
………………
「あの……御気に召しませんでしたか?」
小首を傾げて僕の顔を覗き込む彼女。
僕は溜め息をついて、おたまを鍋に戻しながら言った。
「あのな……美味い料理も組み合わせを間違えると悲惨なことになるんだ。覚えておけ」
彼女は張り切るととんでもない方向に暴走するんだな。覚えておこう。
料理を教える時はレシピまできっちりと教えようと心に誓い、僕は戸棚から料理を盛るための皿を取り出したのだった。
インド人もびっくりなミラ特製カレーを食べながら、僕はミラに話を切り出した。
「ミラ。今度の土曜日……四日後だけど、僕、出かけてくるから」
「お出かけなさるんですか?」
人参を頬張りながら目を瞬かせる彼女に、僕は小泉のことを話して聞かせた。
話を聞いたミラの表情が、誰が見ても分かるほどに不機嫌なものへと変わっていく。
スプーンを器にかちゃりと置いて、彼女は僕の目をじっと見つめた。
「櫂斗さん……酷いです。私とは子供を作らないと散々言っておきながら、別の女性とはそんな簡単に子作りするなんて……」
「何でそっちに話が転がるんだよ!?」
僕は思わず吹き出しそうになったカレーを何とか飲み込んで、叫んだ。
「小泉はただの会社の後輩! あいつに頼まれて一緒にカフェに食事しに行くだけだからな!」
「そういうことが起こらないとも限らないではありませんか」
「起きるわけないだろ! あんたは一体僕を何だと思ってるんだ!」
これは嫉妬か? 嫉妬なのか?
何て面倒臭いんだ、女ってのは!
「そういうわけで、土曜は家にいないから! 家のことはあんたに頼んだからな!」
もう決まった話だからなと僕が言うと。
ミラは渋々といった様子で、それでも一応納得はしてくれたのか、了承してくれた。
「分かりました……お家のことは、私がちゃんと責任を持ってやりますから」
「宜しくな」
何とか、ミラの了解を得ることができた。これで小泉に返事ができる。
ミラは僕の目を見つめたまま、何処か淋しそうな表情をして、強請るように声を発した。
「櫂斗さん……私も櫂斗さんをお出かけにお誘いすれば、私と子供を作って下さるのですか?」
「やるわけないだろ」
ぴしゃりと言い放ち、僕はシュウマイを頬張った。
まあ……一方的に家のことを押し付けたのは悪いと思っている。カフェに行った帰りには、何か土産を買っていってやろう。
菓子とかなら、彼女も喜ぶかもな。
そんなことを考えながら、僕は残りのカレーを一気に口の中に掻き込んだのだった。
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