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第31話 チケットの使い道
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「へぇ、ワンダーリゾートの入場チケットって結構高いんだろ? 凄いじゃないか、一回の福引で当てるなんて」
僕の話を味噌汁を飲みながら聞いていた青木は、感心の声を漏らした。
僕は肩を竦めて肉じゃがのジャガイモを頬張り、ぼやいた。
「……あれで一生分の運を使った気がする。どうせならアニメディアの懸賞とか、そういうので運を使いたかったよ」
「腐るなって。せっかく当たったんだから喜べよ」
青木はそう言うが、僕は正直言ってあまり嬉しくはなかった。
だって、誰と行けっていうんだよ、こんなの。
それに行くとなったら早起き確定だし、入場料はいらないといっても滞在費が結構高くつくのは目に見えてるし、そもそも何をどう楽しめばいいんだよって感じだし……
僕はアウトドア派を自負してはいるが、それは秋葉原に散策に行くのが好きなだけであって、別に旅行に行くのが好きというわけではないのだ。
「いるか? チケット」
「お前が当てたんだからお前が使うべきだよ、それは」
さり気なくチケットの処理をしようとしたが青木に断られてしまった。
「チケットは三枚あるんだろ? せっかくだからミラちゃんとネネちゃんを連れて行ったらどうだ? きっと喜ぶぞ」
「……あいつらをねぇ……」
青木の言葉に僕は唸った。
二人をテーマパークに連れて行ったら、彼女たちはどんな顔をするだろうか。
夢のような体験をして、豪華な食事を食べて、パレードを楽しんで。
少しは喜んでくれるのだろうか。
「どうしたんですか、眉間に皺が寄ってますよ」
僕が考え込んでいると、煮物定食のトレーを持った小泉が話しかけてきた。
僕は顔を上げて、きょとんとしている小泉を見た。
「あんたが此処にいるって珍しいな。昼飯はいつもファーストフードじゃなかったっけか」
「あたしだってたまには会社の定食を食べることもありますよぉ」
彼女は青木の隣の席にトレーを置いて、座った。
「何の話してたんですか? 随分神妙な顔をしてましたけど」
「ああ。三好が福引でワンダーリゾートのチケットを当てたらしいんだよ。それをどう消化しようかって話」
青木が事情を説明すると、小泉はへーっと言いながら煮物の人参を口の中に放り込んだ。
「ワンダーリゾートって入場料すっごい高いんですよね。三好先輩、凄いですねぇ」
「こんなので運を使いたくはなかったけどな」
「で、誰を誘うんですか? ワンダーリゾート」
小泉が期待を込めた眼差しで訊いてくるので、僕はしばし考えた後に答えた。
「……せっかくだから、ミラたちを連れてくよ」
ミラとネネは、普段は僕が留守番を任せているせいで家の外に出ることがない。
彼女たちも、心の何処かではそれを退屈だと思ってるんじゃないかって思う。
たまには外に連れ出してやるのも悪くはないかもしれない。それが、僕が彼女たちを誘おうとした理由だった。
小泉は僅かに目を伏せて、大きな口で白米を頬張った。
もぐもぐと咀嚼して、飲み込んで、口を開く。
「そうですか……せっかくですから楽しんできて下さいね」
「ああ」
「あー、あたしも行きたいなぁ。ワンダーリゾート」
わざとらしく声を上げて、彼女はふっと笑った。
「次にチケットを手に入れたら誘って下さいね。あたし、喜んで行きますから」
「行きたいんなら自分で行けばいいじゃないか。わざわざ誘われるのを待たなくても」
「もー、三好先輩は女心が分からないんですか?」
箸の先端をこちらに向けて、唇を尖らせる彼女。
「誘われるから行きたくなるんですよ。そういう場所っていうのは」
……そういうもんなのか?
その場所に行きたいと思ったらすぐに行ってしまう僕にとっては分からない心境だった。
女というのは……色々と複雑だ。
「お土産期待してますからね! あそこのクランチチョコ美味しいんですよねー」
「あまり高価な要求するなよ。軍資金には限りがあるんだから」
小泉の言葉に僕は短く息を吐いて、ちょっと冷めた味噌汁をずずっと啜ったのだった。
僕の話を味噌汁を飲みながら聞いていた青木は、感心の声を漏らした。
僕は肩を竦めて肉じゃがのジャガイモを頬張り、ぼやいた。
「……あれで一生分の運を使った気がする。どうせならアニメディアの懸賞とか、そういうので運を使いたかったよ」
「腐るなって。せっかく当たったんだから喜べよ」
青木はそう言うが、僕は正直言ってあまり嬉しくはなかった。
だって、誰と行けっていうんだよ、こんなの。
それに行くとなったら早起き確定だし、入場料はいらないといっても滞在費が結構高くつくのは目に見えてるし、そもそも何をどう楽しめばいいんだよって感じだし……
僕はアウトドア派を自負してはいるが、それは秋葉原に散策に行くのが好きなだけであって、別に旅行に行くのが好きというわけではないのだ。
「いるか? チケット」
「お前が当てたんだからお前が使うべきだよ、それは」
さり気なくチケットの処理をしようとしたが青木に断られてしまった。
「チケットは三枚あるんだろ? せっかくだからミラちゃんとネネちゃんを連れて行ったらどうだ? きっと喜ぶぞ」
「……あいつらをねぇ……」
青木の言葉に僕は唸った。
二人をテーマパークに連れて行ったら、彼女たちはどんな顔をするだろうか。
夢のような体験をして、豪華な食事を食べて、パレードを楽しんで。
少しは喜んでくれるのだろうか。
「どうしたんですか、眉間に皺が寄ってますよ」
僕が考え込んでいると、煮物定食のトレーを持った小泉が話しかけてきた。
僕は顔を上げて、きょとんとしている小泉を見た。
「あんたが此処にいるって珍しいな。昼飯はいつもファーストフードじゃなかったっけか」
「あたしだってたまには会社の定食を食べることもありますよぉ」
彼女は青木の隣の席にトレーを置いて、座った。
「何の話してたんですか? 随分神妙な顔をしてましたけど」
「ああ。三好が福引でワンダーリゾートのチケットを当てたらしいんだよ。それをどう消化しようかって話」
青木が事情を説明すると、小泉はへーっと言いながら煮物の人参を口の中に放り込んだ。
「ワンダーリゾートって入場料すっごい高いんですよね。三好先輩、凄いですねぇ」
「こんなので運を使いたくはなかったけどな」
「で、誰を誘うんですか? ワンダーリゾート」
小泉が期待を込めた眼差しで訊いてくるので、僕はしばし考えた後に答えた。
「……せっかくだから、ミラたちを連れてくよ」
ミラとネネは、普段は僕が留守番を任せているせいで家の外に出ることがない。
彼女たちも、心の何処かではそれを退屈だと思ってるんじゃないかって思う。
たまには外に連れ出してやるのも悪くはないかもしれない。それが、僕が彼女たちを誘おうとした理由だった。
小泉は僅かに目を伏せて、大きな口で白米を頬張った。
もぐもぐと咀嚼して、飲み込んで、口を開く。
「そうですか……せっかくですから楽しんできて下さいね」
「ああ」
「あー、あたしも行きたいなぁ。ワンダーリゾート」
わざとらしく声を上げて、彼女はふっと笑った。
「次にチケットを手に入れたら誘って下さいね。あたし、喜んで行きますから」
「行きたいんなら自分で行けばいいじゃないか。わざわざ誘われるのを待たなくても」
「もー、三好先輩は女心が分からないんですか?」
箸の先端をこちらに向けて、唇を尖らせる彼女。
「誘われるから行きたくなるんですよ。そういう場所っていうのは」
……そういうもんなのか?
その場所に行きたいと思ったらすぐに行ってしまう僕にとっては分からない心境だった。
女というのは……色々と複雑だ。
「お土産期待してますからね! あそこのクランチチョコ美味しいんですよねー」
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小泉の言葉に僕は短く息を吐いて、ちょっと冷めた味噌汁をずずっと啜ったのだった。
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