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第37話 遊園地-告白-
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マップを開きながら道に沿って歩いていると。
何処からともなく、アナウンスが聞こえてきた。
「只今より、ワンダーリゾートエンターテイメントショー『スプラッシュレインボー』を開催致します。水と光が作り上げる幻想の世界をどうぞお楽しみ下さい」
賑やかな音楽が風に乗って聞こえてくる。
これは……中央のエリアにある湖からだ。
「何だか楽しそうな音楽が聞こえてきますね」
「ショーだってさ。最初のエリアにある湖でやってるみたいだぞ」
僕はマップを折り畳んで二人に問いかけた。
「見に行ってみるか?」
「はい!」
僕の腕を掴んで駆け出すミラ。
急に引っ張られたものだから、僕は石畳に靴の先を引っ掛けて転びそうになった。
「こらっ、急に走るな! 転ぶだろ!」
抗議するが、彼女はまるで聞いていないようでネネと競うように走っていく。
僕はマップを鞄にしまって、二人の後を懸命に追いかけた。
ショーをやっている湖の周囲には、大勢の客がいた。
道は人で埋め尽くされ、通り抜けることができなくなっている。あちこちに係員がいて、道を往来する人を誘導していた。
こりゃ、まともに行ったところで湖の様子は見えないな。下手に近付くよりもわざと遠くから見た方が逆に見えやすいかもしれない。
「ミラ、ネネ、こっち」
僕は人垣に突っ込もうとするミラたちを呼んで、湖からはちょっと離れた場所にある橋の上に移動した。
此処は湖から遠いということもあって、人の数は湖の傍と比較すると少ない。その割に湖の様子はそれなりに見ることができるので、そこそこ良い場所じゃないかとは思う。
湖の方では、何隻もの船がカラフルな旗を風にはためかせながら優雅に登場したところだった。
「綺麗な船」
ネネは手摺りにしがみ付いて湖の方に注目し始めた。
ミラは……僕の方を見ていた。
「櫂斗さん」
何やら改まった様子で、僕の名を呼ぶ。
僕は目を瞬かせて、彼女の顔を見た。
「何だよ」
「今日はこのような素敵な場所に連れて来て下さってありがとうございます」
胸元に手を当てて、彼女は微笑んだ。
「私……嬉しいです。櫂斗さんとこんなに素敵な時間を過ごせることが。まるで夢のようで……叶うならこのまま覚めないでほしいと、思ってしまいました」
強い風が吹く。
それは僕たちの髪を揺らし、ミラのワンピースのスカートを大きく跳ねさせて、湖の方へと駆け抜けていった。
その間に、ミラは行動を起こしていた。
僕との距離を詰めて、顔を、重ねる。
──唇に感じた彼女の温もりは、木漏れ日のように優しい温かさだった。
「──ふふ」
僕から顔を離して、彼女は悪戯っぽく笑う。
「やってしまいました」
彼女の翡翠色の瞳が、太陽の光を浴びて透明に輝く。
「私……いつまでも、待ってますから。櫂斗さんが、私を抱いて下さるその日を。櫂斗さんの、お傍で」
彼女は僕の手を取り、ぎゅっと強い力で握った。
「その時が来るまで……私と、一緒にいて下さい」
ぱーん、と突き抜けるような音を立てて花火が撃ち上がる。
眩い光の欠片は天に垂直に伸びていって、色鮮やかな光の花を湖の上に咲かせた。
僕は彼女の言葉に応えられず、その場に棒立ちになっていた。
唇に残った感触が、僕に語りかけてくる。
いい加減、認めたらどうだと。彼女から手向けられる愛の言葉を、本心から興味ないと思ってはいないということを。
──僕は、いつの間にか。
彼女に尽くされて、彼女と一緒にいるうちに、少しずつ彼女のことを考えるようになっていたのだ。
これが、恋心というものなのか。
それはまだ、分からないけれど。
ひょっとしたら違うのかもしれないけれど。
確かに、僕は彼女に興味を持っている。
今まで二次元世界の女たちだけに向けていた感情を、彼女に向けているのだ。
──答えを出す時が、もうすぐそこまで来ているのかもしれない。
背を向けてしまった現実世界に向き合って、一歩を踏み出さなければならない時が来たのかもしれない。
そうするための、ひとひらの勇気を。答えを掴むための、ほんの僅かな勇気を。
この小さな男に与えて下さいと、僕は神様にそう願ったのだった。
何処からともなく、アナウンスが聞こえてきた。
「只今より、ワンダーリゾートエンターテイメントショー『スプラッシュレインボー』を開催致します。水と光が作り上げる幻想の世界をどうぞお楽しみ下さい」
賑やかな音楽が風に乗って聞こえてくる。
これは……中央のエリアにある湖からだ。
「何だか楽しそうな音楽が聞こえてきますね」
「ショーだってさ。最初のエリアにある湖でやってるみたいだぞ」
僕はマップを折り畳んで二人に問いかけた。
「見に行ってみるか?」
「はい!」
僕の腕を掴んで駆け出すミラ。
急に引っ張られたものだから、僕は石畳に靴の先を引っ掛けて転びそうになった。
「こらっ、急に走るな! 転ぶだろ!」
抗議するが、彼女はまるで聞いていないようでネネと競うように走っていく。
僕はマップを鞄にしまって、二人の後を懸命に追いかけた。
ショーをやっている湖の周囲には、大勢の客がいた。
道は人で埋め尽くされ、通り抜けることができなくなっている。あちこちに係員がいて、道を往来する人を誘導していた。
こりゃ、まともに行ったところで湖の様子は見えないな。下手に近付くよりもわざと遠くから見た方が逆に見えやすいかもしれない。
「ミラ、ネネ、こっち」
僕は人垣に突っ込もうとするミラたちを呼んで、湖からはちょっと離れた場所にある橋の上に移動した。
此処は湖から遠いということもあって、人の数は湖の傍と比較すると少ない。その割に湖の様子はそれなりに見ることができるので、そこそこ良い場所じゃないかとは思う。
湖の方では、何隻もの船がカラフルな旗を風にはためかせながら優雅に登場したところだった。
「綺麗な船」
ネネは手摺りにしがみ付いて湖の方に注目し始めた。
ミラは……僕の方を見ていた。
「櫂斗さん」
何やら改まった様子で、僕の名を呼ぶ。
僕は目を瞬かせて、彼女の顔を見た。
「何だよ」
「今日はこのような素敵な場所に連れて来て下さってありがとうございます」
胸元に手を当てて、彼女は微笑んだ。
「私……嬉しいです。櫂斗さんとこんなに素敵な時間を過ごせることが。まるで夢のようで……叶うならこのまま覚めないでほしいと、思ってしまいました」
強い風が吹く。
それは僕たちの髪を揺らし、ミラのワンピースのスカートを大きく跳ねさせて、湖の方へと駆け抜けていった。
その間に、ミラは行動を起こしていた。
僕との距離を詰めて、顔を、重ねる。
──唇に感じた彼女の温もりは、木漏れ日のように優しい温かさだった。
「──ふふ」
僕から顔を離して、彼女は悪戯っぽく笑う。
「やってしまいました」
彼女の翡翠色の瞳が、太陽の光を浴びて透明に輝く。
「私……いつまでも、待ってますから。櫂斗さんが、私を抱いて下さるその日を。櫂斗さんの、お傍で」
彼女は僕の手を取り、ぎゅっと強い力で握った。
「その時が来るまで……私と、一緒にいて下さい」
ぱーん、と突き抜けるような音を立てて花火が撃ち上がる。
眩い光の欠片は天に垂直に伸びていって、色鮮やかな光の花を湖の上に咲かせた。
僕は彼女の言葉に応えられず、その場に棒立ちになっていた。
唇に残った感触が、僕に語りかけてくる。
いい加減、認めたらどうだと。彼女から手向けられる愛の言葉を、本心から興味ないと思ってはいないということを。
──僕は、いつの間にか。
彼女に尽くされて、彼女と一緒にいるうちに、少しずつ彼女のことを考えるようになっていたのだ。
これが、恋心というものなのか。
それはまだ、分からないけれど。
ひょっとしたら違うのかもしれないけれど。
確かに、僕は彼女に興味を持っている。
今まで二次元世界の女たちだけに向けていた感情を、彼女に向けているのだ。
──答えを出す時が、もうすぐそこまで来ているのかもしれない。
背を向けてしまった現実世界に向き合って、一歩を踏み出さなければならない時が来たのかもしれない。
そうするための、ひとひらの勇気を。答えを掴むための、ほんの僅かな勇気を。
この小さな男に与えて下さいと、僕は神様にそう願ったのだった。
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