レンドアビリティ~英雄から無能扱いされた雑用係は英雄に己の能力を貸し与えていた神の使徒でした~(仮題)

高柳神羅

文字の大きさ
9 / 16

【閑話】金剛貨三十枚分の姫君

しおりを挟む
 冒険者ギルドが行っている業務には次のようなものがある。
 仕事の斡旋。雇用の仲介。素材や物品の売買。解体業務。物品の鑑定。冒険者の適性検査及び等級検定試験。の六つである。
 冒険者ギルド、という名から冒険者ではない者にとっては無用の施設であるというイメージがあるが、それは誤った認識である。ギルドから斡旋される仕事の中には、清掃作業や宅配業務など、相応の知識さえあれば一般人でも十分に請け負うことができる内容の仕事もそれなりにあるのだ。

「はぁ……ろくなのがないわね」

 とはいえ、報酬が高い仕事はやはり荒事に慣れた冒険者専門の依頼であることが殆どで。
 危険度が高ければ高いほど支払われる報酬も増えていくのだが、一度でぽんと大金が得られる仕事など、そうそう見つかるようなものではないのである。

「こっちはさっさと今朝の出費分の元を取って王都に行きたいのよ。何なのよ、水路掃除に荷物運びに……討伐関係の仕事が全然ないじゃない。しみったれてるわね」
「まあまあ、それだけこの辺は平和ってことなんだろ。此処らにゃ遺跡や洞窟の類はないし、ダンジョンが新しくできたって話も聞いてねえ。平和で結構じゃないか」
「あんたね……あたしたちの本業分かっててそれ言ってる? 冒険者はね、平和だと仕事にありつけないのよ!」

 隣で掲示板に張り出された仕事の受注書を眺めながら暢気に笑うハロルドを、ジュリアは八重歯を剥き出しにして一喝した。
 ……彼女はこう主張しているが、実際はそんなことはない。一般人でも達成できる依頼を地道にこなして数を積み重ねれば、今日明日分の食費くらいは十分に稼ぐことができるだろう。
 普段から巨額の報酬を得られる依頼ばかり受注してそれに慣れてしまうと、お使い程度の雑用はやるだけ無駄だと見向きもしなくなってしまう……冒険者の悪い癖である。

「それにしてもだ……ジュリア、お前、何でテレポートができなくなったんだ? 確か昨日の昼間は普通に使ってたはずだよな?」

 先日の昼間は、冒険者ギルドから直接指名を受けて引き受けた依頼をこなしに遠方の都市まで赴いた。
 内容は、調査途中の遺跡に巣食っていた金剛竜の群れを討滅すること。報酬は金貨五百枚……霊銀貨換算で五枚分。
 普通であれば現場へと移動するだけで片道一週間は要する場所を、彼女たちにはテレポートの魔法があったため受注から任務達成まで一日でこなすことができた。
 彼女たちにとって見慣れた額となった大金を金剛竜討伐に貢献した五人で分配し、ただ一人皆の荷物の管理と運搬しかしていなかった雑用係をパーティの生活費削減のために幾許かのはした金を持たせて追い出した。
 それが、先日にあった出来事の全てである。
 特にこれといって体に不調をきたすようなことは、なかった。
 なかった……はずだ。

「分からないわよ……こっちが訊きたいわよ」
「昨日討伐した金剛竜は、鱗がクソ硬いってだけで毒持ちじゃねえし魔法の類も使わない種類だからなぁ。あれが原因、ってのは考えづらいんだよな」
「だから分からないって言ってるでしょ! あたしに訊かないで!」
「何だよ、そうカリカリすんなって」

 つい声を荒げてしまうジュリアに、ハロルドはおお怖いとおどけるように呟いて肩を竦めた。

「ま、原因が分かりゃ解決方法も分かるだろ。王都までちょっとした遠足だとでも思って気楽にいこうぜ」
「……あんたってほんと楽天的よね……」

 疲れた様子で溜め息をつくジュリア。
 テレポートが使えなくなった、ということは、移動を全て自らの足で行わなければならなくなったということに他ならない。時には乗合馬車を利用したり船に乗ったりすることもあるだろう。
 一日で目的地に着かなければ道中立ち寄った町や村で宿を借りたり、集落自体が発見できなければ野宿となる。その際には言わずもがな宿泊費用や食費等の出費も発生する。
 テレポートが彼女たちに齎していた益は、時間だけではなかったのだ。

「幾ら反王討伐の報奨金があるっていっても限りがあるのよ。生活費が倍以上に増えるだなんてあたしは御免だわ。実入りがいい仕事クエストをどんどんこなして資産を増やしていかないと……!」

 目を皿のようにして目の前に張り出された受注書の山を物色するジュリアの服の裾を、くいくいっと小さく引っ張る小さな手。

「?……何よ、ムム」
「…………」

 手の主ムムは、彼の目線の少し上にある一枚の受注書を無言で指差した。
 その受注書は割と最近貼り出されたものらしく、他の受注書と比較するとインクの色が濃かった。

「……えっと……人探し?」

 それは、ある人物を探してほしいという内容の依頼であった。
 ジュリアは紙面の内容をざっと目で追って、驚愕した。

「……ちょ……な、何でたかが人探し程度の依頼でこの報酬なのよ。ゼロの数間違ってるんじゃないの……?」


『以下の人物を探している。発見し連れて来てくれた者には記載されている通りの謝礼金を支払う。
 なお、探し人の生死は不問とする。

 本件の受注条件 依頼人及び探し人に関する情報を他言無用とし、これを厳守できる者

 名前 リ・ルナリア・オークスウェル・アルヴェリア
 性別 女
 特徴 髪色は赤茶、身の丈は百八十キリ前後、盲目

 報酬 金剛貨三十枚』


「ほぇー、金剛貨三十枚って太っ腹っスねぇ」

 いつの間にか横に立っていたアジュリーが、顎を撫でながら感心の声を漏らしている。

「ひょっとして、何処かの御令嬢とかお姫様とか、そんな身分の子なんスかね? ほら、お城の中で大事に大事に育ててきた箱入りの一人娘がこっそりお城を抜け出してそのまま行方不明になっちゃった、ってやつ」
「あー、そりゃありえるかもなぁ。こんな金額をぽんと出せる奴なんてそれこそ王家くらいのもんだと思うぜ、オレは」

 金剛貨三十枚ということは、すなわち金貨に換算して三万枚ということだ。

「……でも、生死を問わない、って書いてある……大切な人を探すためにこれだけの報奨金を出すことは不思議じゃない、けれど……それなら『死んでてもいい』とは書かないと思う……」

 全員が報酬額に釘付けになっている中、一人アストリッドだけが神妙な面持ちで受注書の内容を何度も読み返している。

「……この依頼、何か、裏があるんじゃ……」
「考えすぎよ、アストリッド。大方、できれば無事でいてほしいけど万が一のこともありうるからこういう書き方をしたってとこなんじゃないの? 最悪死体で見つかったとしても、探し出してくれたことに変わりはないんだから謝礼はきちんと支払います、って感じで」
「……そう、なのかな……?」
「だから考えすぎなのよ、あんたは」

 諭されても若干納得いっていない様子で沈黙するアストリッドに、ジュリアは肩を竦めた。

「……ま、見つけた先で魔物に襲われてても、顔の部分だけあれば探してた本人かどうかは確認できるんだからそれでいいじゃない」

 むしろその方が軽い分持ち運びが楽かも、などと呟いて、彼女は受注書を掲示板ボードから剥がし取った。

「ちょっと人探しをしただけで金剛貨三十枚とか、こんな美味しい依頼は一生に一度あるかどうかよ。これを見逃すとか馬鹿のやることだわ。……この依頼、引き受けるわよ。異論はないわね?」

 自分以外の者が諸手を挙げて賛成を唱えるため、アストリッドは渋々ながらもジュリアの主張を承諾することしかできなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...