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第16話 野菜はからりと揚げて
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トントントン……と食材を切る包丁の音が夜の闇に響く。
ざるの中には、食べやすい大きさに切り分けた野菜の数々。
人参。サツマイモ。レンコン。ピーマン。南瓜。茄子。
それとは別に、野菜だけだと物足りないだろうってことでブラックタイガーを用意した。この料理にやっぱり海老は欠かせないと思うんだよな。
鍋にはたっぷりの油を注ぎ、先程から火にかけてよく熱してある。
傍らに準備してあるボウルの中には、水でよく溶いて作った衣液。
……もう、何を作るかお分かりだろう。天ぷらである。
フォルテが召喚した食材の中に天ぷら粉があったので、よし作ろうと思い立ったのだ。
フォルテやユーリルにとっては食べたことのない料理だろうから、歓迎会のために用意する料理としては上々だ。
俺も、野菜を腹一杯食べたい気分だったし。
菜箸に衣液をちょっとだけ付けて、油に浸す。
しゅわっ、という軽やかな音。
うん、いい具合だ。竈の火だから微調整が利かないしどうだろうと心配していたのだが、これなら美味い天ぷらが作れそうである。
切った野菜の水をよく切り、衣液にくぐらせて、揚げていく。
今回は用意しなかったが、ししとうや大葉なんかも天ぷらにするには持って来いの食材だと思う。
まあ、家庭の数だけ天ぷらのラインナップにも種類があるってことだな。
揚がった天ぷらは適度に油を切って皿に盛り付けていく。今回は見栄えも重要なので全種類の具材がよく見えるように大皿を使った。
おお、なかなかいい感じじゃないか。
揚げ物は揚げたてが美味いっていうし、早いところ二人のところに持って行こう。
天ぷらはフォルテたちに大好評だった。
この世界の人にとって揚げ物というものは馴染みのない料理らしく、歯ざわりがさくっとしていて美味いと感激していた。
エルフはファンタジー小説なんかだと基本的にベジタリアンで野菜以外のものは食べないって書かれてることが多いが、この世界のエルフは人間と同じ食生活を送っているらしく、ユーリルは特に抵抗感を見せることなく天ぷらを食べていた。特に海老が気に入ったようで、固い尻尾の部分まで残さず完食していた。
今回は付け合わせに醤油を使ったが、俺的にはめんつゆを使うのもお勧めだ。大根おろしを加えても美味いぞ。
そんな感じで、日本料理によるもてなしは大成功だった。
ユーリルは助けてもらった上にこんな絶品料理を御馳走してもらえるなんて、と感謝しきりだった。
そんなに喜んでくれるなんて、作った甲斐があったというものだ。
後片付けはちょっと大変だったが、喜ばれたことが嬉しくて苦にはならなかった。
夜が更けて。
焚き火の前に座ってぼんやりと星を見上げている俺の横で、ユーリルは本を読んでいた。
「……寝ないのか?」
俺がそう声を掛けると、彼は顔を上げて僅かにはにかんで、答えた。
「少しでも、魔法の勉強の時間を取りたいので」
彼が読んでいるのは、例の魔道大全集という本だった。
あれって、預かり物なんだよな? 勝手に読んでいいものなのか?
「それ、届け物じゃなかったのか?」
「お師匠様からは、自由に読んでいいと言われていますので」
「あ、そう」
あれか。とりあえず品物が無事に届きさえすれば、運んでいる最中に使われていようが何だろうが構わないってやつか。
細かいことは気にしないタイプなんだな。その師匠とやらも、届け先の人間とやらも。
「私は、お師匠様に胸を張れるような立派な魔道士になりたい。そのための努力は惜しまないつもりです」
何処の世界でも、一生懸命に学ぼうとしている人間は輝いてるな。
俺が学生時代の時──俺は、そこまで勉強に対して情熱を持っていただろうか。
「ハルさんも、魔道士ですよね。貴方は、どんな修行を積んであれほどの力を会得したのですか?」
「……あー」
ユーリルの質問に、俺は言葉を濁した。
俺の魔法の力は神から授かったものだ、なんて……言えるわけがない。
それに、俺はアルテマ以外の魔法をろくに知らない不器用な魔法使いだ。
そういう意味では、俺もユーリルと殆ど違わない位置に立っている未熟な魔法使いなんじゃないかって思う。
俺も、勉強しないといけない。色々器用にこなせる一人前の魔法使いになるために。
「俺も、実を言うとそんなに魔法が得意なわけじゃないんだよ。だからこれから色々勉強しようって考えてるところなんだ」
「……あれだけの魔法が使えるのに、魔法が得意じゃない、ですか」
「まあ、色々あるってことだ。俺にも」
「……そうですか」
納得したのかしていないのか、彼はしばし目を伏せて考えて。
ぱっ、と顔を上げて、手にしていた魔道大全集をこちらに差し出してきた。
「これ、宜しければどうぞ。ハルさんなら、ひょっとしたら全ての魔法を使いこなすのも夢じゃないかもしれませんよ」
どうぞ……って、読んでいいってことか?
貴重な魔法書を読ませてもらえるのは有難いことだとは思うけど、俺、部外者だぞ?
「……いいのか?」
「ハルさんがいなかったら今頃奪われてしまっていた本です。お師匠様も、快く頷いて下さると思います」
「……そうか」
……そう言うなら、有難く読ませてもらうことにしよう。
俺はユーリルから魔道大全集を受け取った。
見た目通りにずっしりとしたその書物は、黒の革張りで表紙に複雑な形の魔法陣が描かれた如何にも魔法書って感じの品だった。
顔を近付けてみると、ほんのりと古びた紙の匂いがする。古本屋なんかに行くと嗅ぐことができるあの匂いに似ている。
一体、どんな内容が記されているのだろう。
俺は深呼吸をして、静かにそれの表紙を捲った。
ざるの中には、食べやすい大きさに切り分けた野菜の数々。
人参。サツマイモ。レンコン。ピーマン。南瓜。茄子。
それとは別に、野菜だけだと物足りないだろうってことでブラックタイガーを用意した。この料理にやっぱり海老は欠かせないと思うんだよな。
鍋にはたっぷりの油を注ぎ、先程から火にかけてよく熱してある。
傍らに準備してあるボウルの中には、水でよく溶いて作った衣液。
……もう、何を作るかお分かりだろう。天ぷらである。
フォルテが召喚した食材の中に天ぷら粉があったので、よし作ろうと思い立ったのだ。
フォルテやユーリルにとっては食べたことのない料理だろうから、歓迎会のために用意する料理としては上々だ。
俺も、野菜を腹一杯食べたい気分だったし。
菜箸に衣液をちょっとだけ付けて、油に浸す。
しゅわっ、という軽やかな音。
うん、いい具合だ。竈の火だから微調整が利かないしどうだろうと心配していたのだが、これなら美味い天ぷらが作れそうである。
切った野菜の水をよく切り、衣液にくぐらせて、揚げていく。
今回は用意しなかったが、ししとうや大葉なんかも天ぷらにするには持って来いの食材だと思う。
まあ、家庭の数だけ天ぷらのラインナップにも種類があるってことだな。
揚がった天ぷらは適度に油を切って皿に盛り付けていく。今回は見栄えも重要なので全種類の具材がよく見えるように大皿を使った。
おお、なかなかいい感じじゃないか。
揚げ物は揚げたてが美味いっていうし、早いところ二人のところに持って行こう。
天ぷらはフォルテたちに大好評だった。
この世界の人にとって揚げ物というものは馴染みのない料理らしく、歯ざわりがさくっとしていて美味いと感激していた。
エルフはファンタジー小説なんかだと基本的にベジタリアンで野菜以外のものは食べないって書かれてることが多いが、この世界のエルフは人間と同じ食生活を送っているらしく、ユーリルは特に抵抗感を見せることなく天ぷらを食べていた。特に海老が気に入ったようで、固い尻尾の部分まで残さず完食していた。
今回は付け合わせに醤油を使ったが、俺的にはめんつゆを使うのもお勧めだ。大根おろしを加えても美味いぞ。
そんな感じで、日本料理によるもてなしは大成功だった。
ユーリルは助けてもらった上にこんな絶品料理を御馳走してもらえるなんて、と感謝しきりだった。
そんなに喜んでくれるなんて、作った甲斐があったというものだ。
後片付けはちょっと大変だったが、喜ばれたことが嬉しくて苦にはならなかった。
夜が更けて。
焚き火の前に座ってぼんやりと星を見上げている俺の横で、ユーリルは本を読んでいた。
「……寝ないのか?」
俺がそう声を掛けると、彼は顔を上げて僅かにはにかんで、答えた。
「少しでも、魔法の勉強の時間を取りたいので」
彼が読んでいるのは、例の魔道大全集という本だった。
あれって、預かり物なんだよな? 勝手に読んでいいものなのか?
「それ、届け物じゃなかったのか?」
「お師匠様からは、自由に読んでいいと言われていますので」
「あ、そう」
あれか。とりあえず品物が無事に届きさえすれば、運んでいる最中に使われていようが何だろうが構わないってやつか。
細かいことは気にしないタイプなんだな。その師匠とやらも、届け先の人間とやらも。
「私は、お師匠様に胸を張れるような立派な魔道士になりたい。そのための努力は惜しまないつもりです」
何処の世界でも、一生懸命に学ぼうとしている人間は輝いてるな。
俺が学生時代の時──俺は、そこまで勉強に対して情熱を持っていただろうか。
「ハルさんも、魔道士ですよね。貴方は、どんな修行を積んであれほどの力を会得したのですか?」
「……あー」
ユーリルの質問に、俺は言葉を濁した。
俺の魔法の力は神から授かったものだ、なんて……言えるわけがない。
それに、俺はアルテマ以外の魔法をろくに知らない不器用な魔法使いだ。
そういう意味では、俺もユーリルと殆ど違わない位置に立っている未熟な魔法使いなんじゃないかって思う。
俺も、勉強しないといけない。色々器用にこなせる一人前の魔法使いになるために。
「俺も、実を言うとそんなに魔法が得意なわけじゃないんだよ。だからこれから色々勉強しようって考えてるところなんだ」
「……あれだけの魔法が使えるのに、魔法が得意じゃない、ですか」
「まあ、色々あるってことだ。俺にも」
「……そうですか」
納得したのかしていないのか、彼はしばし目を伏せて考えて。
ぱっ、と顔を上げて、手にしていた魔道大全集をこちらに差し出してきた。
「これ、宜しければどうぞ。ハルさんなら、ひょっとしたら全ての魔法を使いこなすのも夢じゃないかもしれませんよ」
どうぞ……って、読んでいいってことか?
貴重な魔法書を読ませてもらえるのは有難いことだとは思うけど、俺、部外者だぞ?
「……いいのか?」
「ハルさんがいなかったら今頃奪われてしまっていた本です。お師匠様も、快く頷いて下さると思います」
「……そうか」
……そう言うなら、有難く読ませてもらうことにしよう。
俺はユーリルから魔道大全集を受け取った。
見た目通りにずっしりとしたその書物は、黒の革張りで表紙に複雑な形の魔法陣が描かれた如何にも魔法書って感じの品だった。
顔を近付けてみると、ほんのりと古びた紙の匂いがする。古本屋なんかに行くと嗅ぐことができるあの匂いに似ている。
一体、どんな内容が記されているのだろう。
俺は深呼吸をして、静かにそれの表紙を捲った。
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