30 / 164
第28話 おっさん、ひと財産を手に入れる
しおりを挟む
ウルリードの街に帰り着いた俺たちは、冒険者ギルドにバレット・マンドラゴラを納品して報酬を受け取った。
納品対象になるかどうか分からなかったので持ち帰ったやつをとりあえず全部見せたら、どれも状態は申し分ないと言われて六匹全部を引き取ってもらえた。ノルマよりも多く納品したからということで、成功報酬八百ルノだったところを千ルノも貰うことができた。
ついでにダンジョンで手に入れたイビルアイズの目玉を売りに出したら、丁度需要があった品らしく、こちらは六百ルノで買い取ってもらえた。妖異の素材の買取価格としてこれが高いのか安いのかは俺には分からなかったが、旅の資金の足しになったのは素直に有難い。
隠し部屋で手に入れた例の鞄も鑑定してもらった。
鑑定士の鑑定結果によると──ユーリルが睨んだ通り、これはボトムレスの袋であることが判明した。それもただ物を無尽蔵に収納できるだけではなく、鞄の中に時間経過を停止させる魔法が掛けられていることも分かった。
中に入れた物の時間が経過しないということは、要は生ものを入れても永遠に鮮度が落ちないということだ。
ボトムレスの袋はそれなりに出回っている魔法の道具ではあるが、時間経過を停止させる魔法まで掛けられているものは滅多に存在していないらしい。もし売りに出したら余裕で五十万ルノ以上の値段が付くだろうとのことだった。
五十万ルノか……なかなか魅力的な数字である。
しかし俺としては、やはり売るよりも自分で使いたい。旅先で料理をしている身としては、多くの食材を保存する方法を確立することは重要なのだ。
中に入れた物の鮮度が永遠に落ちない、幾らでも入る袋。まさに夢の道具じゃないか。
冒険者ギルドからは是非ともこの鞄を買い取らせてほしいと言われたが、俺はそれを丁重に断った。
早速今までの鞄に詰めていた荷物を移し変え、肩に掛ける。
ボトムレスの袋は中にどれだけの物を詰めても鞄以上の重さにはならないようで、今まで使っていた鞄よりも大分軽かった。
今までの鞄は革細工の店に売りに出した。中古品ではあるがそれほど傷んではいなかったということもあって、買った時とそれほど大差のない値段で買い取ってもらえた。
今回の仕事は結構な収入になったな。金だけじゃなくて食材の保存手段も手に入ったし、引き受けて良かったよ。
冒険者ギルドを出た時には、世界は夕暮れ色に染まっていた。
寝るには早いがこれから街を出るには遅い、そんな微妙な時間帯である。
今日はひとまずこの街で宿を取ることにして、明日発つことにするか。
せっかくボトムレスの袋が手に入ったことだし金もそれなりにあるから、普通はこの街でしか食べられないっていう妖異の肉も食材として確保しておきたいし。
「ちょっと肉屋に買い物に行きたいんだが──」
俺は二人に買い物に付き合ってくれと言おうとした。
その言葉を、遠くから聞こえてきた悲鳴が途中で遮った。
「魔帝の襲撃だ! 虚無が現れた!」
この街の住人と思わしき服装の男が、叫びながら通りを走っていく。
俺たちは立ち止まって顔を見合わせた。
「……魔帝ってこんな要人のいない街を襲うこともあるのか?」
俺が問いかけると、フォルテは険しくした表情で前方を見据えながら答えた。
「魔帝は……人がいる場所になら何処にでも現れるわ。全てを根絶やしにするのがあいつの目的だから。大量の虚無を放って、そこにあるもの全てを壊すの……家も、人も、今までに数え切れないくらいのものがあいつの手にかかって、地上から姿を消したわ」
それは、今までに俺が見たことのない、辛さを懸命に飲み込もうとしている顔だった。
おそらく、彼女はこれまでに何度も魔帝の暴挙を目にしてきて──色々なものを、目の前で失ってきたのだろう。
「……ハル」
フォルテの顔が俺の方を向く。
「お願い。力を貸して。街を襲っている虚無を倒してほしい。街を、守ってほしいの」
「…………」
俺はこめかみを掻いて、小さく息を吐いた。
全く……そんな顔をして俺を見るなよ。
「……お願いも何も、あんたはそのために俺をこの世界に呼んだんだろ」
俺は、魔法使いである以前に一人の男だ。
男として、こいつに悲しい顔はさせたくない。そのためだったら、多少の荒事くらい引き受けてやろうじゃないか。
俺はフォルテの頭をくしゃりと撫でて、笑った。
「俺に任せとけ。虚無くらい、ちゃちゃっと片付けてやるよ」
隣で俺を見つめているユーリルに、言う。
「そういうわけだ。ひと暴れしに行くぞ、ユーリル!」
「……覚悟はできています。私も逃げません、今度こそ魔法を発動させてみせます!」
「その意気だ。ヴァイスも、頼りにしてるからな!」
「わんっ!」
頷き合い、俺たちは騒ぎが起きている方角を目指して駆け出した。
納品対象になるかどうか分からなかったので持ち帰ったやつをとりあえず全部見せたら、どれも状態は申し分ないと言われて六匹全部を引き取ってもらえた。ノルマよりも多く納品したからということで、成功報酬八百ルノだったところを千ルノも貰うことができた。
ついでにダンジョンで手に入れたイビルアイズの目玉を売りに出したら、丁度需要があった品らしく、こちらは六百ルノで買い取ってもらえた。妖異の素材の買取価格としてこれが高いのか安いのかは俺には分からなかったが、旅の資金の足しになったのは素直に有難い。
隠し部屋で手に入れた例の鞄も鑑定してもらった。
鑑定士の鑑定結果によると──ユーリルが睨んだ通り、これはボトムレスの袋であることが判明した。それもただ物を無尽蔵に収納できるだけではなく、鞄の中に時間経過を停止させる魔法が掛けられていることも分かった。
中に入れた物の時間が経過しないということは、要は生ものを入れても永遠に鮮度が落ちないということだ。
ボトムレスの袋はそれなりに出回っている魔法の道具ではあるが、時間経過を停止させる魔法まで掛けられているものは滅多に存在していないらしい。もし売りに出したら余裕で五十万ルノ以上の値段が付くだろうとのことだった。
五十万ルノか……なかなか魅力的な数字である。
しかし俺としては、やはり売るよりも自分で使いたい。旅先で料理をしている身としては、多くの食材を保存する方法を確立することは重要なのだ。
中に入れた物の鮮度が永遠に落ちない、幾らでも入る袋。まさに夢の道具じゃないか。
冒険者ギルドからは是非ともこの鞄を買い取らせてほしいと言われたが、俺はそれを丁重に断った。
早速今までの鞄に詰めていた荷物を移し変え、肩に掛ける。
ボトムレスの袋は中にどれだけの物を詰めても鞄以上の重さにはならないようで、今まで使っていた鞄よりも大分軽かった。
今までの鞄は革細工の店に売りに出した。中古品ではあるがそれほど傷んではいなかったということもあって、買った時とそれほど大差のない値段で買い取ってもらえた。
今回の仕事は結構な収入になったな。金だけじゃなくて食材の保存手段も手に入ったし、引き受けて良かったよ。
冒険者ギルドを出た時には、世界は夕暮れ色に染まっていた。
寝るには早いがこれから街を出るには遅い、そんな微妙な時間帯である。
今日はひとまずこの街で宿を取ることにして、明日発つことにするか。
せっかくボトムレスの袋が手に入ったことだし金もそれなりにあるから、普通はこの街でしか食べられないっていう妖異の肉も食材として確保しておきたいし。
「ちょっと肉屋に買い物に行きたいんだが──」
俺は二人に買い物に付き合ってくれと言おうとした。
その言葉を、遠くから聞こえてきた悲鳴が途中で遮った。
「魔帝の襲撃だ! 虚無が現れた!」
この街の住人と思わしき服装の男が、叫びながら通りを走っていく。
俺たちは立ち止まって顔を見合わせた。
「……魔帝ってこんな要人のいない街を襲うこともあるのか?」
俺が問いかけると、フォルテは険しくした表情で前方を見据えながら答えた。
「魔帝は……人がいる場所になら何処にでも現れるわ。全てを根絶やしにするのがあいつの目的だから。大量の虚無を放って、そこにあるもの全てを壊すの……家も、人も、今までに数え切れないくらいのものがあいつの手にかかって、地上から姿を消したわ」
それは、今までに俺が見たことのない、辛さを懸命に飲み込もうとしている顔だった。
おそらく、彼女はこれまでに何度も魔帝の暴挙を目にしてきて──色々なものを、目の前で失ってきたのだろう。
「……ハル」
フォルテの顔が俺の方を向く。
「お願い。力を貸して。街を襲っている虚無を倒してほしい。街を、守ってほしいの」
「…………」
俺はこめかみを掻いて、小さく息を吐いた。
全く……そんな顔をして俺を見るなよ。
「……お願いも何も、あんたはそのために俺をこの世界に呼んだんだろ」
俺は、魔法使いである以前に一人の男だ。
男として、こいつに悲しい顔はさせたくない。そのためだったら、多少の荒事くらい引き受けてやろうじゃないか。
俺はフォルテの頭をくしゃりと撫でて、笑った。
「俺に任せとけ。虚無くらい、ちゃちゃっと片付けてやるよ」
隣で俺を見つめているユーリルに、言う。
「そういうわけだ。ひと暴れしに行くぞ、ユーリル!」
「……覚悟はできています。私も逃げません、今度こそ魔法を発動させてみせます!」
「その意気だ。ヴァイスも、頼りにしてるからな!」
「わんっ!」
頷き合い、俺たちは騒ぎが起きている方角を目指して駆け出した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下
akechi
ファンタジー
ルル8歳
赤子の時にはもう孤児院にいた。
孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。
それに貴方…国王陛下ですよね?
*コメディ寄りです。
不定期更新です!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる