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第118話 伝えたかった、本当の気持ち
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翌日。俺たちは国を発つ最後の挨拶をするために、王宮に訪れていた。
最初はあんな扱いではあったが、最終的には世話になったことに変わりはないのだから、一応最低限の礼儀は果たすべきだということでそうしたのだ。
謁見の間にて。女王を前に、俺たちは月並みな言葉ではあるが謝礼と挨拶を述べていた。
「それじゃあ、俺たちはこれで行くよ。あんたたちも、元気で」
「……今更このようなことを言っても謝罪にすらならないとは思っていますが、伝えさせて下さい」
女王は相変わらず一国の支配者らしい毅然とした態度を保ったまま、俺からの挨拶に言葉を返す。
「私は、貴方方に大変無礼な態度を取ってしまいました。貴方方だけではない、先にこの地を去っていってしまった、あの若者にも……いつか何処かであの者と再会することがあったら、どうかお伝え願えませんか。私が謝罪していたことを……次に貴方がこの地に訪れた時は、歓迎致しますと。お願い致します」
もう旅をするのは疲れた、と言い残して去って行ったリュウガ。
あいつは、今、一体何処にいるのだろう。
もしも、俺が必死になってあいつのことを探して、もう一度会うことができた時。
俺が戻って来いと説得したら、あいつは何と答えるのだろうか。
あいつは、まだ、俺のことを心を許せる相手だと思ってくれているだろうか?
それとも……単なる口うるさいだけのおっさんだと言って肩を並べることすら嫌がるだろうか。
あいつの胸中はあいつにしか分からない。俺が何と言ったところで、あいつは自分の意思を曲げることはしないだろう。
でも……これは俺の単なる我儘でしかないが。あいつには、此処に帰ってきてほしい。仲間としてじゃなくて、家族の一員として、戻って来てほしいと……思うのだ。
「へー、最初は俺たちのことを屑扱いして、自分たちにとって有益な存在だって分かったら、今度はあっさり仲良くしましょうって言うの? それってさー、流石に虫が良すぎだって自分で思わない?」
リュウガのことを思い出して沈黙している俺の横で、飄々とそんなことを言い出したのはシキ。
彼は腕組みをして何処か希薄な微笑を浮かべながら、言った。
「俺たちは勇者だから、人を助けて当たり前。だからみんなのことも助けたし、今も世界のために魔帝と戦うつもりでいる。それが俺たちの存在意義だから、今更そこを否定する気はないんだ。別にいいんだよ、俺たちってそういう集まりだからさ。……でもさ、幾ら俺たちが勇者だって言っても、俺たちも人なわけ。ちゃんと心だってあるし、嫌なことされたらそれは嫌なの。建前上言えないことも多いけど、それでも、何も感じないってわけじゃないんだよ。その辺さぁ、分かってる?」
「……おい?」
思わずシキの肩に手を触れる俺。シキはその手を、まるで虫を払うようにぱしんと叩いて追い払った。
「リュウガはさ、見た目はあんなだし口も態度も悪かったけどさ、それでもあいつなりに人を助けるために正しいことをしようって一生懸命に頑張ってたんだよ。面倒なことを頼んでも文句言いながらやってくれるし、頼りないって言いながら俺たちのことを体張って守ってくれてたし。あいつはさ、誰よりも真面目に必死になってたの。……それをさ、貴女はあいつの主張も聞かないで一方的に屑扱いして、捨てたんだよ。あいつの思いを踏み躙ってさ、二度と元に戻らないように壊しちゃったの。それなのに、俺たちが役に立つって分かったからあっさり掌返して謝って、それで許してもらおう? 正直言ってさ、ムカツクんだよねー。そういう根性はさ」
……今、俺の隣にいるのは誰に対しても明るく気さくに振る舞う勇者ではなかった。
口元だけ笑って、目は全然笑っていない、冷たい怒りを宿した一人の男がそこにいた。
シキは、リュウガと仲が良かった。出会ってまだ間もない間柄ではあったが、その短期間で色々と言葉の遣り取りをしたりして、俺以上にあいつとは信頼関係を築いていた。
年齢が近いからというのもあるのだろうが──
シキは、表面上は笑顔を振り撒いていながら腹の底では怒りの炎を燃やしていたのだ。俺たちをあんな風に扱い、リュウガを追い出した、女王と……この国に住むエルフたちに対して。
……シキは自分が勇者だからという理由だけで、この国を救った。彼にとってはそれが自分の使命だから正しいことをしたと、そこは疑っていないのだろう。
だが、この国とエルフたちを救ったことを心の底から喜んでいるかと彼に尋ねた時。彼は、迷うことなく首を縦に振るだろうか──
「あー、今更落とし前つけてもらおうとか、そういう要求する気はないから。例えば俺がこの場で落とし前つけろって貴女の首を無理矢理貰ったとしてもさ、リュウガが戻って来るわけじゃないしね。そもそも貴女の首なんて貰っても俺嬉しくないし。俺はただ、今後は物事を自分の偏見だけで決め付けないで相手のこともよく見て考えて本当のことを判断してほしいって、そう言いたいだけ。これからこの国は人間とも仲良くしてくれるんでしょ? だったら、俺たちに免じて、これ以上俺たちと同じ思いをする奴を生まないでちょうだい? そうしてくれたら、俺たちがああいう扱いをされた苦い思い出も、少しは報われるからさ」
そう言ってあっけらかんと笑うシキは。
俺がいつも見ている、皆に優しくて笑顔を絶やさない、勇者かぶれのシキだった。
無言のまま目を伏せている女王に意味深な視線を向けて、シキはくるりと踵を返す。
横にいる俺の肩を親しげにぽんと叩いて、
「それじゃぁ、行こっかぁ。次なる冒険の舞台へ! いざ! ってね」
今にもスキップでもし出しそうな、そんなうきうきと弾んだ様子で謁見の間から出て行った。
女王はやはり、何も言わない。
俺は、シキが突然あんなことを言い出したことを謝るべきなのだろうか……しかし、シキが言ったことも間違ってはいない。少なくとも俺も、多少はシキがさっき言っていたのと似たような気持ちを抱いていたから、シキが何を思って女王にああ言ったのかが分かるのだ。
分かるからこそ、何も言い出せなかった。何を言っても、言い訳のようになってしまうような気がして。
「……行こう」
困惑した様子で女王を見つめているフォルテに呼びかける。
俺たちが謁見の間から去った後も、女王はしばらくその体勢のまま身動きひとつしなかったという。
「……行くのか」
王宮の正面玄関をくぐったところで、出入口の脇に背中を預けて腕を組んで立っていたウルヴェイルが静かにそう言ってきた。
声に振り向くシキとフォルテを先に行かせて、俺は彼女のすぐ横で立ち止まり、言葉を返す。
「ああ、行く。俺たちにはこれ以上この国に留まる理由はないからな」
「そうか」
彼女の態度は、最後まで素っ気なかった。
しかし、俺たちに向けてくる眼差しは最初と比較すると随分柔らかくなったと、俺はそう思っている。
「せいぜい途中でくたばらぬようにするんだな。世界を救うと意気込んだ勇者が道中あっさり死んだとあっては笑い話にすらならん」
「言ってろ。しっかり働いて役目を果たしてきてやるよ。俺たちはこう見えて結構悪運は強い方なんでな」
「……ふん」
見つめ合って、互いに悪意の篭もった笑みを唇に刻む。
「……全く、姫様も何故このような輩に入れ込んでいるのか……一介の兵には理解できんな」
「……そういえば、アヴネラは何処にいるんだ? 最後なんだから挨拶くらいはしていきたかったんだが」
俺たちが最後の挨拶をしに此処に来た時、アヴネラの姿はなかった。
俺たちと別れるのが辛くて何処かに雲隠れしてしまったのか……俺たちのことをそう思ってくれていたのなら嬉しいとは思うが、それでもやはり笑って見送ってほしかったと、そう思う。
「姫様のお考えを、一介の兵如きが口にできるわけがないだろう」
そう言って、ウルヴェイルは正面に目を向ける。
木々の枝葉の間から見える青い空は、今日も明るくて眩しかった。
「……姫様は、ああ見えて我が強いところがある。もっとも、そうでなければ女王の務めなど到底果たせぬのだがな。貴様からすれば色々と手を焼く面倒な御方かもしれんが……どうかこれからも、宜しくしてやってくれ」
「………… ああ」
──その言葉で、俺は何となくだが悟った。
今、アヴネラが一体何処にいるのかということを。
「……仲間が待っているのだろう。さっさと行け」
「そうだな。そうするよ」
しっしっと腕を組んだまま右の手首を振るウルヴェイルに微苦笑してから、俺はシキたちの後を追おうとして──
「……ああ、そうだ。余計な御節介かもしれんが、一個だけあんたに言っておくよ」
ふとそれを思い出して立ち止まり、言う。
「……何だ」
「あんたの、その剣」
俺が指差した先には、ウルヴェイルが背負っている神樹の魔剣がある。
「何で王族でもないあんたに、その剣が渡されたのか。……その剣をあんたに渡したのは女王なんだろ」
「そうだ」
「だったら、間違いないな」
俺は笑って、指差した手をそっと下ろした。
「女王にとっては……あんたも、大事な娘なんだってことだよ。女王という立場上、表向きはそういう風に扱えなくても、きっと内心では、ずっとあんたのことを気に掛けていたんだ。その剣を渡したのも、あんたに騎士としての働きを期待したのももちろんあるんだろうが、本当は……」
ウルヴェイルの表情が、目を丸くした驚愕の顔へと変わる。
「女王にとっては、あんたも大事な娘だから。だから、その証として王家にしか触れることが許されない剣を持つことを許した……自分が隠している母親としての愛情を、あんたに気付いてほしかったから、なんじゃないか?」
「…………」
微妙に困惑したように視線をあちこちへと彷徨わせて。
彼女は呻くように小さく呟いた。
「……そんなわけがあるか」
むっと不機嫌そうに眉間に皺を寄せて、俺を睨みつける。
「今の貴様の発言は女王様に対する侮辱に等しい。公衆の面前だったら問答無用で牢にぶち込んでいるところだが、此処には私しか聞いている者はいない……聞かなかったことにしてやる。去れ」
「あーはいはい。牢屋行きは御免だからさっさと退散させてもらいますよっと」
俺はわざとらしく肩を竦めて、彼女の前を通り過ぎた。
数歩分離れたところで、背後から小さな彼女の言葉が聞こえてくる。
「だが……そうだと、いいな」
……本当に、素直じゃない奴。
笑い飛ばしてやりたいのを我慢して、俺はそのまま王宮から去った。
大分先に進んだところで俺が来るのを待っていたフォルテとシキに、俺が何でにやついているのかと指摘されて、慌てて頬の筋肉を引っ張って元の顔へと戻す。
そこかしこに並んでいる民家の中から顔を出すエルフたちに応援の言葉を掛けられながら、見送られ。
俺たちは、エルフの国を後にしたのだった。
最初はあんな扱いではあったが、最終的には世話になったことに変わりはないのだから、一応最低限の礼儀は果たすべきだということでそうしたのだ。
謁見の間にて。女王を前に、俺たちは月並みな言葉ではあるが謝礼と挨拶を述べていた。
「それじゃあ、俺たちはこれで行くよ。あんたたちも、元気で」
「……今更このようなことを言っても謝罪にすらならないとは思っていますが、伝えさせて下さい」
女王は相変わらず一国の支配者らしい毅然とした態度を保ったまま、俺からの挨拶に言葉を返す。
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もう旅をするのは疲れた、と言い残して去って行ったリュウガ。
あいつは、今、一体何処にいるのだろう。
もしも、俺が必死になってあいつのことを探して、もう一度会うことができた時。
俺が戻って来いと説得したら、あいつは何と答えるのだろうか。
あいつは、まだ、俺のことを心を許せる相手だと思ってくれているだろうか?
それとも……単なる口うるさいだけのおっさんだと言って肩を並べることすら嫌がるだろうか。
あいつの胸中はあいつにしか分からない。俺が何と言ったところで、あいつは自分の意思を曲げることはしないだろう。
でも……これは俺の単なる我儘でしかないが。あいつには、此処に帰ってきてほしい。仲間としてじゃなくて、家族の一員として、戻って来てほしいと……思うのだ。
「へー、最初は俺たちのことを屑扱いして、自分たちにとって有益な存在だって分かったら、今度はあっさり仲良くしましょうって言うの? それってさー、流石に虫が良すぎだって自分で思わない?」
リュウガのことを思い出して沈黙している俺の横で、飄々とそんなことを言い出したのはシキ。
彼は腕組みをして何処か希薄な微笑を浮かべながら、言った。
「俺たちは勇者だから、人を助けて当たり前。だからみんなのことも助けたし、今も世界のために魔帝と戦うつもりでいる。それが俺たちの存在意義だから、今更そこを否定する気はないんだ。別にいいんだよ、俺たちってそういう集まりだからさ。……でもさ、幾ら俺たちが勇者だって言っても、俺たちも人なわけ。ちゃんと心だってあるし、嫌なことされたらそれは嫌なの。建前上言えないことも多いけど、それでも、何も感じないってわけじゃないんだよ。その辺さぁ、分かってる?」
「……おい?」
思わずシキの肩に手を触れる俺。シキはその手を、まるで虫を払うようにぱしんと叩いて追い払った。
「リュウガはさ、見た目はあんなだし口も態度も悪かったけどさ、それでもあいつなりに人を助けるために正しいことをしようって一生懸命に頑張ってたんだよ。面倒なことを頼んでも文句言いながらやってくれるし、頼りないって言いながら俺たちのことを体張って守ってくれてたし。あいつはさ、誰よりも真面目に必死になってたの。……それをさ、貴女はあいつの主張も聞かないで一方的に屑扱いして、捨てたんだよ。あいつの思いを踏み躙ってさ、二度と元に戻らないように壊しちゃったの。それなのに、俺たちが役に立つって分かったからあっさり掌返して謝って、それで許してもらおう? 正直言ってさ、ムカツクんだよねー。そういう根性はさ」
……今、俺の隣にいるのは誰に対しても明るく気さくに振る舞う勇者ではなかった。
口元だけ笑って、目は全然笑っていない、冷たい怒りを宿した一人の男がそこにいた。
シキは、リュウガと仲が良かった。出会ってまだ間もない間柄ではあったが、その短期間で色々と言葉の遣り取りをしたりして、俺以上にあいつとは信頼関係を築いていた。
年齢が近いからというのもあるのだろうが──
シキは、表面上は笑顔を振り撒いていながら腹の底では怒りの炎を燃やしていたのだ。俺たちをあんな風に扱い、リュウガを追い出した、女王と……この国に住むエルフたちに対して。
……シキは自分が勇者だからという理由だけで、この国を救った。彼にとってはそれが自分の使命だから正しいことをしたと、そこは疑っていないのだろう。
だが、この国とエルフたちを救ったことを心の底から喜んでいるかと彼に尋ねた時。彼は、迷うことなく首を縦に振るだろうか──
「あー、今更落とし前つけてもらおうとか、そういう要求する気はないから。例えば俺がこの場で落とし前つけろって貴女の首を無理矢理貰ったとしてもさ、リュウガが戻って来るわけじゃないしね。そもそも貴女の首なんて貰っても俺嬉しくないし。俺はただ、今後は物事を自分の偏見だけで決め付けないで相手のこともよく見て考えて本当のことを判断してほしいって、そう言いたいだけ。これからこの国は人間とも仲良くしてくれるんでしょ? だったら、俺たちに免じて、これ以上俺たちと同じ思いをする奴を生まないでちょうだい? そうしてくれたら、俺たちがああいう扱いをされた苦い思い出も、少しは報われるからさ」
そう言ってあっけらかんと笑うシキは。
俺がいつも見ている、皆に優しくて笑顔を絶やさない、勇者かぶれのシキだった。
無言のまま目を伏せている女王に意味深な視線を向けて、シキはくるりと踵を返す。
横にいる俺の肩を親しげにぽんと叩いて、
「それじゃぁ、行こっかぁ。次なる冒険の舞台へ! いざ! ってね」
今にもスキップでもし出しそうな、そんなうきうきと弾んだ様子で謁見の間から出て行った。
女王はやはり、何も言わない。
俺は、シキが突然あんなことを言い出したことを謝るべきなのだろうか……しかし、シキが言ったことも間違ってはいない。少なくとも俺も、多少はシキがさっき言っていたのと似たような気持ちを抱いていたから、シキが何を思って女王にああ言ったのかが分かるのだ。
分かるからこそ、何も言い出せなかった。何を言っても、言い訳のようになってしまうような気がして。
「……行こう」
困惑した様子で女王を見つめているフォルテに呼びかける。
俺たちが謁見の間から去った後も、女王はしばらくその体勢のまま身動きひとつしなかったという。
「……行くのか」
王宮の正面玄関をくぐったところで、出入口の脇に背中を預けて腕を組んで立っていたウルヴェイルが静かにそう言ってきた。
声に振り向くシキとフォルテを先に行かせて、俺は彼女のすぐ横で立ち止まり、言葉を返す。
「ああ、行く。俺たちにはこれ以上この国に留まる理由はないからな」
「そうか」
彼女の態度は、最後まで素っ気なかった。
しかし、俺たちに向けてくる眼差しは最初と比較すると随分柔らかくなったと、俺はそう思っている。
「せいぜい途中でくたばらぬようにするんだな。世界を救うと意気込んだ勇者が道中あっさり死んだとあっては笑い話にすらならん」
「言ってろ。しっかり働いて役目を果たしてきてやるよ。俺たちはこう見えて結構悪運は強い方なんでな」
「……ふん」
見つめ合って、互いに悪意の篭もった笑みを唇に刻む。
「……全く、姫様も何故このような輩に入れ込んでいるのか……一介の兵には理解できんな」
「……そういえば、アヴネラは何処にいるんだ? 最後なんだから挨拶くらいはしていきたかったんだが」
俺たちが最後の挨拶をしに此処に来た時、アヴネラの姿はなかった。
俺たちと別れるのが辛くて何処かに雲隠れしてしまったのか……俺たちのことをそう思ってくれていたのなら嬉しいとは思うが、それでもやはり笑って見送ってほしかったと、そう思う。
「姫様のお考えを、一介の兵如きが口にできるわけがないだろう」
そう言って、ウルヴェイルは正面に目を向ける。
木々の枝葉の間から見える青い空は、今日も明るくて眩しかった。
「……姫様は、ああ見えて我が強いところがある。もっとも、そうでなければ女王の務めなど到底果たせぬのだがな。貴様からすれば色々と手を焼く面倒な御方かもしれんが……どうかこれからも、宜しくしてやってくれ」
「………… ああ」
──その言葉で、俺は何となくだが悟った。
今、アヴネラが一体何処にいるのかということを。
「……仲間が待っているのだろう。さっさと行け」
「そうだな。そうするよ」
しっしっと腕を組んだまま右の手首を振るウルヴェイルに微苦笑してから、俺はシキたちの後を追おうとして──
「……ああ、そうだ。余計な御節介かもしれんが、一個だけあんたに言っておくよ」
ふとそれを思い出して立ち止まり、言う。
「……何だ」
「あんたの、その剣」
俺が指差した先には、ウルヴェイルが背負っている神樹の魔剣がある。
「何で王族でもないあんたに、その剣が渡されたのか。……その剣をあんたに渡したのは女王なんだろ」
「そうだ」
「だったら、間違いないな」
俺は笑って、指差した手をそっと下ろした。
「女王にとっては……あんたも、大事な娘なんだってことだよ。女王という立場上、表向きはそういう風に扱えなくても、きっと内心では、ずっとあんたのことを気に掛けていたんだ。その剣を渡したのも、あんたに騎士としての働きを期待したのももちろんあるんだろうが、本当は……」
ウルヴェイルの表情が、目を丸くした驚愕の顔へと変わる。
「女王にとっては、あんたも大事な娘だから。だから、その証として王家にしか触れることが許されない剣を持つことを許した……自分が隠している母親としての愛情を、あんたに気付いてほしかったから、なんじゃないか?」
「…………」
微妙に困惑したように視線をあちこちへと彷徨わせて。
彼女は呻くように小さく呟いた。
「……そんなわけがあるか」
むっと不機嫌そうに眉間に皺を寄せて、俺を睨みつける。
「今の貴様の発言は女王様に対する侮辱に等しい。公衆の面前だったら問答無用で牢にぶち込んでいるところだが、此処には私しか聞いている者はいない……聞かなかったことにしてやる。去れ」
「あーはいはい。牢屋行きは御免だからさっさと退散させてもらいますよっと」
俺はわざとらしく肩を竦めて、彼女の前を通り過ぎた。
数歩分離れたところで、背後から小さな彼女の言葉が聞こえてくる。
「だが……そうだと、いいな」
……本当に、素直じゃない奴。
笑い飛ばしてやりたいのを我慢して、俺はそのまま王宮から去った。
大分先に進んだところで俺が来るのを待っていたフォルテとシキに、俺が何でにやついているのかと指摘されて、慌てて頬の筋肉を引っ張って元の顔へと戻す。
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