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第41話 戦いの果てに
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破壊魔法。それはメネたち妖精が使う魔法とは対極の位置にある、物を破壊することに特化した魔法だ。
メネたち妖精は、掟で破壊魔法を覚えて使うことは許されないとされていた。
そんな魔法を、今、カエラは僕たちと戦うために使おうとしている。
彼女の抱く覚悟が半端なものではないことが、嫌というほどに伝わってきた。
カエラは本気で、命を懸けて僕たちの牧場作りを邪魔しようとしているのだ。
彼女は次々と火球を生み出し、僕たちに向かって飛ばしてくる。
僕はそれを必死になって避けた。
メネは魔法で雨を降らせた。火球は火だから、水を掛ければ消えると思ったのだろう。
しかしその程度の水の力では、燃え盛る火球を消すことはできない。雨粒が蒸発して僅かに煙が立つだけだ。
「私は本気よ、メネ! 貴女たちを殺してでも、私は牧場作りを阻止してみせる!」
飛んでくる火球の勢いは止まらない。
そこまでしてこの牧場が完成するのを止めようとするのは、何故なのだろう。
この場にヴォドエルがいるからだろうか?
そのヴォドエルは、先程から黙したまま場の状況を見つめているのみだ。
カエラが掟を破ったことを諌めようともしない。
もしや彼女に掟を破らせ、破壊魔法を覚えさせたのは──彼?
「さあ、牧場作りを諦めなさい! 命が惜しかったらね!」
カエラは念を強く込めて、ひときわ大きな火球を生み出した。
あんなのに当たったらひとたまりもない!
メネはきっとカエラを睨むと、さっと右手を振り上げた。
荒れ狂った風が吹く。
これは、グレイウルフを撃退した時に使っていた風の魔法だ。
風の塊は火球に当たり、押し返した。
飛ぼうとしていた方向とは真逆の方向──すなわち、カエラのいる方に。
「!?」
カエラが目を見開き、硬直する。
そこに、火球が直撃した。
爆発音がして、火の粉が飛び散る。
爆風が生じ、それは僕の全身を撫で付けて後方に通り過ぎていった。
「……熱……っ」
僕は右手で顔を庇った。
火が消えると、そこにはカエラの姿はなく。
爆風に飛ばされたのか、ヴォドエルの足下に彼女は落ちていた。
纏っている衣裳は焼け焦げて、羽も半ばから溶けている。
今の火球が如何に高温で威力のあるものだったのかがよく分かる有様だ。
ひょっとして、死……
「…………」
カエラはもぞりと動いて、力なく空を見上げた。
「……迂闊、だったわ……魔法が押し返されるなんて……」
……どうやら、生きてはいるようだ。
しかし、それも辛うじてといった感が強い。虫の息って感じだ。
「……ヴォドエル……負けたわ。ラファニエルの計画を阻止できなかった……ごめんなさい」
小さく謝罪の言葉を述べるカエラを、ヴォドエルは静かに拾った。
怒りも、労わりもしない。ただ無表情に、掌の上の彼女に目を向けている。
メネは僕に寄り添って、険しい表情のままヴォドエルを見つめている。
──やがて。ヴォドエルはゆっくりと長い息を吐き、口を開いた。
「ラファニエルに加担する人間よ。私は今、悟った。もはやあの女の計画を阻止することは叶わぬと」
遠くの空に目を向けて、何かを思い返すかのように、続ける。
「嬉々として計画を進めるが良かろう。そして悟れ、己がしてきたことが如何に愚行だったかということを」
「ええ。此処を、エルで一杯にしてみせるわ。そして必ず、この世界を蘇らせてみせる」
メネの言葉に静かに目を閉じて、彼は、
「賽は投げられた……か」
呟いて、神界へと帰っていった。
「…………」
ようやく脅威が目の前から去ったことに、僕は安堵して肩の力を抜いた。
気が抜けると、左腕の痛みがぶり返してきた。
傷を掌で押さえながら、僕はメネに問いかけた。
「メネ、大丈夫? 何処も怪我してない?」
「ありがとう……メネのこと庇ってくれて」
メネは僕の左側に回り込んで、腕の傷の具合を見た。
「怪我、治すね」
「うん」
僕の怪我は、メネの魔法で治療された。
服は破れて汚れてしまったが、それは洗濯して繕えば大丈夫だろう。
──やっと、決着が着いたのだ。そう思うと晴れやかな気持ちになった。
もう、牧場作りに妨害が入ることはなくなったのだ。ヴォドエルは好きにしろって言ってたし。
僕たちの言い分に完全に納得したわけではなさそうだが、これで一安心だ。
牧場が完成したら、ラファニエルや他の神々にお願いしてたくさんのエルの卵を送ってもらおう。
そして、神たちがびっくりするような、大きくて賑やかな牧場を作るんだ。
エルで一杯になっている牧場の未来の姿を想像しながら、僕は今はまだ荒地の牧場予定地を見つめてそっと笑顔を浮かべるのだった。
メネたち妖精は、掟で破壊魔法を覚えて使うことは許されないとされていた。
そんな魔法を、今、カエラは僕たちと戦うために使おうとしている。
彼女の抱く覚悟が半端なものではないことが、嫌というほどに伝わってきた。
カエラは本気で、命を懸けて僕たちの牧場作りを邪魔しようとしているのだ。
彼女は次々と火球を生み出し、僕たちに向かって飛ばしてくる。
僕はそれを必死になって避けた。
メネは魔法で雨を降らせた。火球は火だから、水を掛ければ消えると思ったのだろう。
しかしその程度の水の力では、燃え盛る火球を消すことはできない。雨粒が蒸発して僅かに煙が立つだけだ。
「私は本気よ、メネ! 貴女たちを殺してでも、私は牧場作りを阻止してみせる!」
飛んでくる火球の勢いは止まらない。
そこまでしてこの牧場が完成するのを止めようとするのは、何故なのだろう。
この場にヴォドエルがいるからだろうか?
そのヴォドエルは、先程から黙したまま場の状況を見つめているのみだ。
カエラが掟を破ったことを諌めようともしない。
もしや彼女に掟を破らせ、破壊魔法を覚えさせたのは──彼?
「さあ、牧場作りを諦めなさい! 命が惜しかったらね!」
カエラは念を強く込めて、ひときわ大きな火球を生み出した。
あんなのに当たったらひとたまりもない!
メネはきっとカエラを睨むと、さっと右手を振り上げた。
荒れ狂った風が吹く。
これは、グレイウルフを撃退した時に使っていた風の魔法だ。
風の塊は火球に当たり、押し返した。
飛ぼうとしていた方向とは真逆の方向──すなわち、カエラのいる方に。
「!?」
カエラが目を見開き、硬直する。
そこに、火球が直撃した。
爆発音がして、火の粉が飛び散る。
爆風が生じ、それは僕の全身を撫で付けて後方に通り過ぎていった。
「……熱……っ」
僕は右手で顔を庇った。
火が消えると、そこにはカエラの姿はなく。
爆風に飛ばされたのか、ヴォドエルの足下に彼女は落ちていた。
纏っている衣裳は焼け焦げて、羽も半ばから溶けている。
今の火球が如何に高温で威力のあるものだったのかがよく分かる有様だ。
ひょっとして、死……
「…………」
カエラはもぞりと動いて、力なく空を見上げた。
「……迂闊、だったわ……魔法が押し返されるなんて……」
……どうやら、生きてはいるようだ。
しかし、それも辛うじてといった感が強い。虫の息って感じだ。
「……ヴォドエル……負けたわ。ラファニエルの計画を阻止できなかった……ごめんなさい」
小さく謝罪の言葉を述べるカエラを、ヴォドエルは静かに拾った。
怒りも、労わりもしない。ただ無表情に、掌の上の彼女に目を向けている。
メネは僕に寄り添って、険しい表情のままヴォドエルを見つめている。
──やがて。ヴォドエルはゆっくりと長い息を吐き、口を開いた。
「ラファニエルに加担する人間よ。私は今、悟った。もはやあの女の計画を阻止することは叶わぬと」
遠くの空に目を向けて、何かを思い返すかのように、続ける。
「嬉々として計画を進めるが良かろう。そして悟れ、己がしてきたことが如何に愚行だったかということを」
「ええ。此処を、エルで一杯にしてみせるわ。そして必ず、この世界を蘇らせてみせる」
メネの言葉に静かに目を閉じて、彼は、
「賽は投げられた……か」
呟いて、神界へと帰っていった。
「…………」
ようやく脅威が目の前から去ったことに、僕は安堵して肩の力を抜いた。
気が抜けると、左腕の痛みがぶり返してきた。
傷を掌で押さえながら、僕はメネに問いかけた。
「メネ、大丈夫? 何処も怪我してない?」
「ありがとう……メネのこと庇ってくれて」
メネは僕の左側に回り込んで、腕の傷の具合を見た。
「怪我、治すね」
「うん」
僕の怪我は、メネの魔法で治療された。
服は破れて汚れてしまったが、それは洗濯して繕えば大丈夫だろう。
──やっと、決着が着いたのだ。そう思うと晴れやかな気持ちになった。
もう、牧場作りに妨害が入ることはなくなったのだ。ヴォドエルは好きにしろって言ってたし。
僕たちの言い分に完全に納得したわけではなさそうだが、これで一安心だ。
牧場が完成したら、ラファニエルや他の神々にお願いしてたくさんのエルの卵を送ってもらおう。
そして、神たちがびっくりするような、大きくて賑やかな牧場を作るんだ。
エルで一杯になっている牧場の未来の姿を想像しながら、僕は今はまだ荒地の牧場予定地を見つめてそっと笑顔を浮かべるのだった。
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