神様のたまご

高柳神羅

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第42話 そして一月後

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 牧場作りを妨害する存在がなくなってから、僕たちの牧場作りは順調に進んだ。
 同時に作り始めた氷、雷、水、光の牧場は無事に完成し、牧場全体はこれでひとまず完成した。
 その間も、畑仕事にエルたちの世話にと、僕たちは充実した忙しい日々を過ごした。
 魔法の練習も、仕事の合間を見て続けている。
 最初はメネがいるのにと頬を膨らませていたメネだったが、少しずつ練習に付き合ってくれるようになった。
 魔法はまだ全然使えるようにはならないが、この練習はきっと無駄にはならないと信じている。
 神様たちはというと。
 下界ここの環境が少しずつ変わり始めていることが気になっているようで、新しいエルの卵を渡すことを口実に代わる代わる様子を見に来るようになった。
 特に、雨が降るようになったことには驚いていたようだ。
 リヴァ(リヴァイアサンに付けた名前だよ)が順調に育って水の精霊が復活したことが世界に良い影響を与えているんだろうね。
 雨が降るようになったってことは、火山の近くに住んでいた人たち──彼らも綺麗な水が飲めるようになったことだろう。
 もう少し世界の環境が良くなったら、もう一度様子を見に行こうと思っている。
 牧場にいるエルたちは。
 神様たちが卵を持って来てくれるお陰で、今は九匹にまで数が増えた。
 特に、氷のエル、雷のエル、光のエルが新しく仲間に加わったのは嬉しいことだ。
 これで全ての属性のエルが揃ったってことだからね。
 これからは交配でエルを増やしていくことになるだろう。その時に、全ての属性のエルが揃っているというのは大きい。
 交配なんて初めての試みだから手探りな部分も大きいが、頑張って取り組んでいこうと思っている。

 そんなこんなで、一月が過ぎ。
 エルたちは大人になり、遂に交配ができるようになった。

「レッドー」
 僕は火の牧場に入り、レッドを呼んだ。
 すっかり大人に成長したレッドは、指南書に載っていた絵のような立派な体格の竜になっていた。
 鱗も固くて、角も立派だ。
 それでも、僕に対して懐っこい部分は変わっていない。
 僕が手を伸ばすと、撫でてほしいと言わんばかりに鼻先を近付けてくれた。
 やっぱり大きくなっても、可愛いレッドのままだ。
「相手のエルはもう決めてあるの?」
「うん」
 メネの問いに、僕は頷いた。
 初めての交配だから、絶対に成功させたいということもあって、相手のエルは気を遣って選んだつもりだ。
「それじゃ、レッドはメネが休息地に連れて行くね」
「宜しくね」
 メネはレッドを連れて、休息地がある場所へと向かっていった。
 それを見送って、僕は相手になるエルがいる牧場へと移動した。
 到着したのは、水の牧場。
 まるで童話に出てくる湖のような、綺麗な水場がそこかしこにある清涼感溢れる場所だ。
 僕は水場のひとつに足を運んだ。
「リヴァ」
 大きな船すら沈めてしまうという伝説の海獣──その姿がまさに形になったような立派な姿になったリヴァは、身体を丸くして水に漬かり、顔だけを出してこちらを見つめていた。
 蛇のような瞳は鋭い眼光を備えているが、恐ろしさは感じない。
 それはリヴァも、他の皆と同じように僕が育てたエルだからという思いがあるからだろう。
「リヴァ、おいで。休息地に行くよ」
 僕が声を掛けると、リヴァはゆっくりとした動きで水場から出てきた。
 さあ、レッドが待っている休息地に向かおう。
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