隷属の勇者 -俺、魔王城の料理人になりました-

高柳神羅

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第41話 魔王、召喚する

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 リンゴ。オレンジ。バナナ。マスカット。桃。
 角切りにした果物を器に盛り付けて、そこにスライムを加える。
 蜂蜜を溶いて作ったシロップを振り掛けて──
 よし、完成だ。
 見た目はシロップを掛けたお陰でつやつやとした宝石のように見える。清涼感があって美味そうだ。
 スプーンを添えて、ワゴンの上に器を置いて、と。
 さて、魔王に届けに行くか。
「スライムにこんな食い方があるとはな」
 フルーツポンチを顎を撫でながら見つめるシーグレットから感心の声が。
 他の料理人たちも、美味そうだと口々に言いながら器に視線を注いでいる。
 これはやらんぞ。食いたいなら自分たちで作れよ。果物を切るだけでできるんだからな。
「本当はゼリーとかに入れたかったんだけどな。ナタデ……スライムはゼリーに入れて食うと美味いんだ」
「ほう」
 シーグレットの視線が俺へと向く。
「そのゼリーとやらを作れば良かっただろうが。何で作らなかったんだ」
「材料がないからゼリーは作れないんだよ」
 本当にこの世界は日本にないものが多すぎる。
 如何に日本の食文化が優れているかってのが分かるよ。
 コンソメもだし、ケチャップもそうだ。此処では一から自分で作らなきゃならないんだからな。
 日本にいた頃よりも料理をしている感じがするよ、俺。
「それじゃ、魔王にこれ届けてくる」
 俺はワゴンを押して、厨房を出た。

「これは……スライムか。この甘い汁が掛かっているお陰でスライムも甘く感じるな」
 フルーツポンチを食べながら、魔王は満足そうに頷いていた。
 こんなのは甘味とは言わないと突っぱねられるかと思っていたが、どうやらその心配は杞憂に終わったようだ。
「勇者よ」
 最後の一口を頬張って、スプーンを器に置く魔王。
「余は、ひとつの決断を下した」
 人差し指でちょいとワゴンを指差す。
 宙を舞った器が、ワゴンの上に着地した。
 それを横目で見ながら、俺は問い返した。
「決断?」
「余は、勇者召喚の儀を行うことにした」
「……へ?」
 勇者召喚の儀……って、俺をこの世界に召喚した儀式だ。
 あれってクロエミナ国に伝わる古代の秘術だったんじゃ? 確か王様がそんなことを言っていたような気がする。
 それを魔王がやるって、何を考えているんだろう。
「異世界からうぬと同じ勇者を召喚し、異世界の馳走を作らせる。何故、今まで思い至らなかったのであろうな」
 クロエミナ国が召喚した勇者を生け捕りにするとか言ってたのに。
 あれか。勇者がなかなかこっちに攻めてこないもんだから痺れを切らしたんだな。
 流石自分の欲に忠実な魔王だ。発想が実に魔王らしい。
「今宵は儀式を行うに相応しい満月だ。必ず、異世界への門は開かれよう」
 まさか……今此処でやる気か?
 魔王はゆっくりと立ち上がった。
 何処から取り出したのか、左手に物々しい形状の杖を持っている。
 それでこつんと足下を突く仕草をして、彼は俺の背後にあるスペースに視線を向けた。
「開け、異界の門」
 魔王の言葉に応えるように──
 俺の背後の床に、巨大な魔法陣が出現した。
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