11 / 176
第11話 最果てに潜むもの
しおりを挟む
横穴を抜けると、そこには先に見た広場と同じような滝壺のある風景が広がっていた。
道は此処で終わっており、滝壺の周辺は巨大な湖になっている。
壁に生えた光る珊瑚が、辺りを星のように照らしている。
そのせいもあって、滝壺周辺の暗さが、蟠っている闇のように見えた。
「……此処が最深部らしいな。行き止まりだ」
途切れた道の端に立ち、アラグは滝壺に目を向けた。
「何か、浮かんでるな……」
彼が言う通り、滝壺の近くに銀色の塊がぷかぷかと浮かんでいた。
フィッシュマンの頭だ。それもひとつではない。
さっきの池に浮かんでいたフィッシュマンの残骸は、此処から流れていったもののようだ。
「如何にも何か大物が棲んでそうな場所だね」
フラウはそう言いながら、湖の中に足を踏み入れた。
僕は声を上げた。
「何かいそうって言っといて中に入るのかよ!」
「大丈夫。此処は浅いから」
確かに、彼女は湖の中に平然と立っている。
深さは、足首くらい……およそ十センチといったところか。
当然奥に行けば行くほど深くなっていくのだろうが。
奥に行かなければ沈まないと分かったからなのか、アラグも湖の中に入った。
そのまま、剣を片手にフィッシュマンの頭が浮いている場所まで歩いていく。
フィッシュマンの頭が浮いている場所の深さは、アラグの腰ほどまでしかなかった。
何かが棲んでいるとしたら……もっと奥。本当に滝壺の近くか。
アラグは周囲を見回して、フィッシュマンの頭をひとつ担ぎ上げた。
そしてそれを、こともあろうに滝壺に向かって投げつけた。
どぷん、と水柱を立てて沈んでいくフィッシュマンの頭。
水面に波紋が広がり、そして消える。
「……ハズレか」
肩を竦めて、彼は踵を返した。
その胴に、太い何かが絡み付く!
「!?」
アラグの姿が水面下に消える。巻き付いた何かに水中へと引き摺り込まれたのだ。
異変に気付いた僕とフラウが、同時に彼がいた場所に目を向けた。
「アラグ!」
「トルネード!」
フラウが魔法を滝壺に向けて放った。
巨大な竜巻が辺りの水を巻き上げて派手に撒き散らす。
そして、水面下に潜んでいたそれを強引に表へと引き摺り出した。
十メートルはあろうかという巨大なぶよぶよとした体。くるりと巻いた太い八本の触手。金色に輝く丸い眼。
蛸だ──それも、規格外の大きさの。
「あれは……」
僕は息を飲んだ。
「オクトラーケン……!」
オクトラーケン──本来は海域に生息する魔物で、その大きさは巨大なものになると二十メートルを超える。同じ海域に生息するイカの魔物であるクラーケンの亜種と言われているが、その生態は謎に包まれており、嵐になった時しか海面に姿を見せないので普段は海底に生息しているのではないかというのが定説だが、その実体は定かではない。
普通はこんな穴倉の中にいるような生物ではないのだが、おそらくこの湖の何処かに大きな穴が空いており、そこから入り込んでそのまま棲みついたのだろう。
水面に浮いているフィッシュマンの残骸は、オクトラーケンが襲って食べた跡か。
このままでは、オクトラーケンに捕まったアラグも同じ目に遭うことになる。
僕は精一杯の声量でオクトラーケンの触手に捕まっているアラグに向かって叫んだ。
「アラグ! 食われる前に何とか振り払え!」
「言われなくても、やってる!」
アラグは胴に巻き付いた触手に剣を突き立てていた。
しかし、剣では触手の薄皮を切るのが関の山のようだ。振りほどくほどのダメージは与えられていない。
おそらく、並の武器では駄目なのだ。もっと、強烈な一撃を与えられる手段がないと。
「フラウ! 触手を狙え!」
「分かってる!」
フラウは杖の先端をアラグが捕まっている触手に向けて、叫んだ。
「アイシクルランス!」
どがっ、と氷の槍が触手に深く突き刺さる。
衝撃で、触手の力が緩んだ。
その隙に、アラグは束縛から逃れて湖に飛び込んだ。
フラウは更に数発同じ魔法を叩き込みながら、何とかアラグがこちらに逃れてくるまでの時間を稼いだ。
獲物を逃したオクトラーケンが、怒りの目を向けるようにぎょろりと僕たちを睨んだ。
「こいつは……狩り甲斐があるな!」
アラグは剣を構え直して唇をぺろりと舐めた。
あんな目に遭っても、この男は目の前のこの魔物を狩ることを諦めはしないらしい。
全く……無謀な連中ばっかりだな、冒険者っていうのは!
道は此処で終わっており、滝壺の周辺は巨大な湖になっている。
壁に生えた光る珊瑚が、辺りを星のように照らしている。
そのせいもあって、滝壺周辺の暗さが、蟠っている闇のように見えた。
「……此処が最深部らしいな。行き止まりだ」
途切れた道の端に立ち、アラグは滝壺に目を向けた。
「何か、浮かんでるな……」
彼が言う通り、滝壺の近くに銀色の塊がぷかぷかと浮かんでいた。
フィッシュマンの頭だ。それもひとつではない。
さっきの池に浮かんでいたフィッシュマンの残骸は、此処から流れていったもののようだ。
「如何にも何か大物が棲んでそうな場所だね」
フラウはそう言いながら、湖の中に足を踏み入れた。
僕は声を上げた。
「何かいそうって言っといて中に入るのかよ!」
「大丈夫。此処は浅いから」
確かに、彼女は湖の中に平然と立っている。
深さは、足首くらい……およそ十センチといったところか。
当然奥に行けば行くほど深くなっていくのだろうが。
奥に行かなければ沈まないと分かったからなのか、アラグも湖の中に入った。
そのまま、剣を片手にフィッシュマンの頭が浮いている場所まで歩いていく。
フィッシュマンの頭が浮いている場所の深さは、アラグの腰ほどまでしかなかった。
何かが棲んでいるとしたら……もっと奥。本当に滝壺の近くか。
アラグは周囲を見回して、フィッシュマンの頭をひとつ担ぎ上げた。
そしてそれを、こともあろうに滝壺に向かって投げつけた。
どぷん、と水柱を立てて沈んでいくフィッシュマンの頭。
水面に波紋が広がり、そして消える。
「……ハズレか」
肩を竦めて、彼は踵を返した。
その胴に、太い何かが絡み付く!
「!?」
アラグの姿が水面下に消える。巻き付いた何かに水中へと引き摺り込まれたのだ。
異変に気付いた僕とフラウが、同時に彼がいた場所に目を向けた。
「アラグ!」
「トルネード!」
フラウが魔法を滝壺に向けて放った。
巨大な竜巻が辺りの水を巻き上げて派手に撒き散らす。
そして、水面下に潜んでいたそれを強引に表へと引き摺り出した。
十メートルはあろうかという巨大なぶよぶよとした体。くるりと巻いた太い八本の触手。金色に輝く丸い眼。
蛸だ──それも、規格外の大きさの。
「あれは……」
僕は息を飲んだ。
「オクトラーケン……!」
オクトラーケン──本来は海域に生息する魔物で、その大きさは巨大なものになると二十メートルを超える。同じ海域に生息するイカの魔物であるクラーケンの亜種と言われているが、その生態は謎に包まれており、嵐になった時しか海面に姿を見せないので普段は海底に生息しているのではないかというのが定説だが、その実体は定かではない。
普通はこんな穴倉の中にいるような生物ではないのだが、おそらくこの湖の何処かに大きな穴が空いており、そこから入り込んでそのまま棲みついたのだろう。
水面に浮いているフィッシュマンの残骸は、オクトラーケンが襲って食べた跡か。
このままでは、オクトラーケンに捕まったアラグも同じ目に遭うことになる。
僕は精一杯の声量でオクトラーケンの触手に捕まっているアラグに向かって叫んだ。
「アラグ! 食われる前に何とか振り払え!」
「言われなくても、やってる!」
アラグは胴に巻き付いた触手に剣を突き立てていた。
しかし、剣では触手の薄皮を切るのが関の山のようだ。振りほどくほどのダメージは与えられていない。
おそらく、並の武器では駄目なのだ。もっと、強烈な一撃を与えられる手段がないと。
「フラウ! 触手を狙え!」
「分かってる!」
フラウは杖の先端をアラグが捕まっている触手に向けて、叫んだ。
「アイシクルランス!」
どがっ、と氷の槍が触手に深く突き刺さる。
衝撃で、触手の力が緩んだ。
その隙に、アラグは束縛から逃れて湖に飛び込んだ。
フラウは更に数発同じ魔法を叩き込みながら、何とかアラグがこちらに逃れてくるまでの時間を稼いだ。
獲物を逃したオクトラーケンが、怒りの目を向けるようにぎょろりと僕たちを睨んだ。
「こいつは……狩り甲斐があるな!」
アラグは剣を構え直して唇をぺろりと舐めた。
あんな目に遭っても、この男は目の前のこの魔物を狩ることを諦めはしないらしい。
全く……無謀な連中ばっかりだな、冒険者っていうのは!
0
あなたにおすすめの小説
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
女王ララの再建録 〜前世は主婦、今は王国の希望〜
香樹 詩
ファンタジー
13歳で“前世の記憶”を思い出したララ。
――前世の彼女は、家庭を守る“お母さん”だった。
そして今、王女として目の前にあるのは、
火の車の国家予算、癖者ぞろいの王宮、そして資源不足の魔鉱石《ビス》。
「これ……完全に、家計の立て直し案件よね」
頼れない兄王太子に代わって、
家計感覚と前世の知恵を武器に、ララは“王国の再建”に乗り出す!
まだ魔法が当たり前ではないこの国で、
新たな時代を切り拓く、小さな勇気と現実的な戦略の物語。
怒れば母、語れば姉、決断すれば君主。
異色の“王女ララの再建録”、いま幕を開けます!
*カクヨムにも投稿しています。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる