アメミヤのよろず屋

高柳神羅

文字の大きさ
17 / 176

第17話 王都から来た学者

しおりを挟む
「此処の店主って貴方?」
 僕が作業台でポーション作りをしていると、店に訪れた客の一人が声を掛けてきた。
 体にぴったりフィットした群青色の装束を身に着けた長い金髪の女だった。一般人には見えないので冒険者なのだろうが、格好が冒険者というよりは夜の酒場で踊っている踊り子を彷彿とさせる、あまり冒険者には見えない人物だった。
 年の頃は……僕と同じくらいか、少し下。そんな感じだ。
 随分と出るところが出た、目のやり場に困るスタイルだ。
「そうだけど」
「錬金術が使える人だって聞いてたけど、本当なのね」
 彼女は僕の手元を見て、言った。
 そう言う……ということは、彼女は客ではなく僕の錬金術を頼って此処に来た人間ということだろうか?
 冒険者が錬金術師を頼る時って、大抵ろくでもない用件であることが多いからな……気を付けなければ。
 まあ、話を聞くくらいなら構わないけども。
 僕は火にかけていたフラスコを三脚から下ろして、彼女と目を合わせた。
「これでも並の錬金術師よりは腕はいいって自負してるよ」
「良かった。実は、折り入って頼みたいことがあるの。錬金術師である、貴方に」
 女は胸元に手を入れると、何かの紋章が刻印されたブローチを取り出した。
 ……何処から物を出してるんだよ、この人。
「私はマテリア・シルキス。王都から来た考古学専門の学者よ」
 ……まさか、この格好で王都の学者だとか。
 僕はびっくりしてブローチとマテリアさんの顔を交互に見比べた。
 王都──世界の中心と言っても過言ではない都市で、この国を統括する王族が住む都でもある。世界中のありとあらゆる学問の書を集めた巨大な図書館を擁し、大勢の学者を抱えている学問の都なのだ。
 そんな都市の学者が、一体何の用でこの辺境の街に?
 僕が訝っていると、マテリアさんはブローチを懐に戻して別のものを引っ張り出し、僕の目の前に置いた。
 それは、随分と古めかしい石の欠片だった。
 厚さ一センチほどの板状の石で、半ばから割れている。表面にはびっしりと文字の彫刻が。
 この文字は……錬金文字?
 錬金文字とは、その名の通り錬金術で用いられる文字だ。魔術文字が魔術師にしか読めないように錬金術師しか読めない文字ではあるが、そんなに難しい言語ではない。
 石に記された文字には、『開け』とあった。
 当然これは石の欠片なので書かれている文字もただの一部分にすぎない。この一文だけでは、意味は全く分からない。
 一体、何を記していた石なのだろう。
「これは、私が今調査中の遺跡で発掘したものよ。謎の像と一緒に埋もれていたの」
 ……ということは、その場所にこの石の他の部分がまだ埋もれている可能性があるな。
 石と、像か……
 遺跡が残っている古代文明で有名どころといえば、千年前に未曾有の大洪水で滅亡したルマ文明とか、六百年前に巨大な魔術帝国を築き上げたザルート文明なんかが定番だが、これらの文明が絡んだ遺跡は危険な罠なんかも数多く残っていて調査がなかなか進んでいないって聞いたことがある。
 古代文明の残した罠は現代のダンジョンの罠と違って厄介な代物が多いのだ。
 噂によると、遺跡調査協力を依頼された熟練冒険者のパーティが罠の解除に失敗して壊滅したとか──
 二つ返事で行くような場所じゃないね。古代文明の遺跡なんてものは。
「これが錬金文字だということは分かったの。ということは、あの遺跡に眠った仕掛けは錬金術が関係する仕掛けということに他ならないはず」
「……だろうね。錬金文字は錬金術師しか使わない文字だからね」
 僕は石の欠片をマテリアさんに返した。
「多分、その遺跡は錬金術師が作ったんじゃないかな。そうでなけりゃ錬金文字を使う理由が分からないからね」
「そう。私もそう思ったわ。この遺跡を詳しく調査するには、錬金術師の協力が必要不可欠だって」
 マテリアさんは石を差し出す僕の手を握って、言った。
「貴方は昔、凄腕の魔術師だったって聞いたわ。……お願い、私の遺跡調査に協力してもらえないかしら?」
 ……やっぱり、そう来たか。
 僕は複雑な表情をして、まっすぐにこちらの目を見つめてくるマテリアさんの顔を見つめ返した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ファンタジー
シヴァリー(Chivalry)、それは主に騎士道を指し、時に武士道としても使われる言葉である。騎士道と武士道、両者はどこか似ている。強い精神をその根底に感じる。だが、士道は魔法使いが支配する世界でも通用するのだろうか? これは魔法というものが絶対的な価値を持つ理不尽な世界で、士道を歩んだ者達の物語であり、その中でもアランという男の生き様に主眼を置いた大器晩成なる物語である。(他サイトとの重複投稿です。また、画像は全て配布サイトの規約に従って使用しています)

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星
ファンタジー
世界を救った勇者、彼はその力を危険視され、仲間に殺されてしまう。無念のうちに命を散らした男ロア、彼が目を覚ますと、なんと過去に戻っていた! もうあんなヘマはしない、そう誓ったロアは、二度目の人生を穏やかに過ごすことを決意する! とはいえ世界を救う使命からは逃れられないので、世界を救った後にひっそりと暮らすことにします。勇者としてとんでもない力を手に入れた男が、死の原因を回避するために苦心する! ロアが死に戻りしたのは、いったいなぜなのか……一度目の人生との分岐点、その先でロアは果たして、穏やかに過ごすことが出来るのだろうか? 過去へ戻った勇者の、ひっそり冒険談 小説家になろうでも連載しています!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

野獣と噂の王太子と偽りの妃

葉月 まい
ファンタジー
継母に勧められるまま、 野獣のように恐ろしいと噂の 王太子との縁談に向かった 伯爵令嬢のプリムローズ。 「勘違いするな。妃候補だなどと思っているなら大きな間違いだ。とっとと帰れ」 冷たくあしらわれるが 継母と異母妹の為にも 邪魔者の自分が帰る訳にはいかない。 「わたくしをここの使用人として 雇っていただけませんか?」 「…は?!」 戸惑う王太子の告白。 「俺は真の王太子ではない。そなたはこんなところにいてはならない。伯爵家に帰れ」 二人の関係は、どうなっていくのか? ⎯⎯⎯⎯ ◦◈◦◈◦◈◦⎯⎯⎯⎯ プリムローズ=ローレン(十七歳)…伯爵令嬢 母を知らずに育ち、継母や異母妹に遠慮しながら毎日を過ごしている。 自分がいない方がいいと、勧められるまま王太子の妃候補を募る通達により、宮殿へ。 野獣のように恐ろしいと噂の王太子に 冷たくされながらも いつしか心を通わせていく。 そんなプリムローズの 幸せなプリンセスストーリー♡

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...