42 / 176
第42話 元坑道のダンジョン
しおりを挟む
内部は僕の予想通り、通路に梁が張り巡らされた坑道の形をしていた。
あちこち天井が崩れかかっており、梁で何とか支えられている状態だ。
壁は穴だらけで、かつては此処で採掘が行われていたという名残を見ることができた。
地面にはレールが敷かれており、真っ暗な道に向かってまっすぐに伸びている。
道なりに進んでいくと、途中でひっくり返っているトロッコを発見した。
車輪がすっかり錆び付いていてぼろぼろだ。これはもう使えそうにない。
更に先に進むと、やや広くなっている空間に出た。
どうやら此処で、鉱石の採掘が行われていたらしい。あちこちに砂利の山があり、つるはしやスコップが放置されていた。
魔物もいた。小さな鼠の姿をした魔物だ。
あまり好戦的ではない生き物のようで、ランタンの光を見ると魔物たちは一目散に通路の奥に走り去ってしまった。
「……静かだね」
辺りを見回してサーファさんが呟く。
それを聞いていたアミィさんがこくこくと小さく頷いた。
確かに彼らが言う通り、此処は静かだ。生き物の気配が殆ど感じられない。
アデルさんはしばし周囲の物音を探るように耳を澄ましていたが、引き締まった面持ちで僕たちの方に振り向いてきた。
「魔物だけが敵とは限らない。注意して進んでいこう」
彼の言う通りだ。入口が錬金術で封印されていたように、何か魔術的な罠が潜んでいる可能性はある。
これだけ崩れやすそうな様子の道だし、通路の崩落にも注意しなければならない。
敵は魔物だけとは限らないのだ。
僕たちは先に進んだ。
途中広くなっているところを幾つも通り抜け、巨大な空間に出た。
そこは、元は奥で採掘した石を集めるための場所として使われていたところのようだった。トロッコが何台も置かれており、地面にはレールが何本も敷かれている。
奥には扉に閉ざされた通路が幾つかあり、扉の傍にはおそらく扉を開くためのスイッチであろうレバーがそれぞれ設置されている。
あちこちにはボタ山がある。ひとつひとつが小さな丘ほどの大きさだ。
その前に、うねうねと動く巨大な生き物がいた。
蛇──にしては頭の形が変だ。触覚もあるし、何より体に鱗がない。
その生き物は、ボタ山に時折頭を突っ込んで何かをボリボリと食べていた。
「……何だあれ」
「ロックワームですね」
僕の呟きに、アデルさんが答えた。
ワーム……ということは、あれは巨大なミミズか?
「こういう岩だらけの場所に生息する魔物です」
岩を食べる魔物なので、奴らが住む洞窟は壁や地面を食べられて形を変形させてしまうらしい。
好戦的な魔物ではないが、洞窟で遭遇した場合は洞窟の崩落を防ぐために積極的に狩るのが鉄則なのだそうだ。
アデルさんは剣を抜いた。
「幸い、あれは食事に気を取られています。今のうちに狩ってしまいましょう」
背後から近付いていき、斜めに剣を振り下ろす。
ロックワームは体をふたつに断たれてくたりと紐のように地面に転がった。
「……ソーセージみたい」
ロックワームを見ていたアミィさんがぽつりと呟く。
やめてくれ。そう言われるとソーセージが食べられなくなるじゃないか。
気まずそうに沈黙するサーファさん。
アデルさんは剣を納めて戻ってくると、不思議そうに彼のことを見た。
「……何かあったのか?」
「何でもない」
しれっと答えるアミィさん。
アデルさんは微妙に小首を傾げて、閉ざされている扉の方に目を向けた。
「道が幾つかに分かれていますね。どの道を進みましょう?」
「……その前に、扉を開くレバーが今でも生きてるかどうかだよね」
僕はレバーのひとつに注目した。
レバーは、長いこと誰も触っていなかったということもあってすっかり錆び付いている。
この分では、動力は既に死んでいる可能性がある。
アデルさんは最も近くにあったレバーの元まで歩いていって、レバーに手を掛けた。
「動かしてみます」
ぐっと手に力を入れて、レバーを倒す。
レバーはぎぎぎと軋んだ音を立てて傾いていき、途中でぼきんと折れてしまった。
「……駄目か」
「こっちは?」
別の扉のレバーを掴むサーファさん。
彼がレバーを倒すと、がこんという重い音がして彼の傍にある扉が開いた。
砂っぽい空気が、奥から吹いてくる風に乗って流れてくる。
どうやら、この奥の空気は大分淀んでいるようだ。
「行きましょう」
先陣を切って扉の中に足を踏み入れるアデルさん。
僕は鼻を袖で覆いながら、彼の後に続いて扉をくぐり抜けた。
あちこち天井が崩れかかっており、梁で何とか支えられている状態だ。
壁は穴だらけで、かつては此処で採掘が行われていたという名残を見ることができた。
地面にはレールが敷かれており、真っ暗な道に向かってまっすぐに伸びている。
道なりに進んでいくと、途中でひっくり返っているトロッコを発見した。
車輪がすっかり錆び付いていてぼろぼろだ。これはもう使えそうにない。
更に先に進むと、やや広くなっている空間に出た。
どうやら此処で、鉱石の採掘が行われていたらしい。あちこちに砂利の山があり、つるはしやスコップが放置されていた。
魔物もいた。小さな鼠の姿をした魔物だ。
あまり好戦的ではない生き物のようで、ランタンの光を見ると魔物たちは一目散に通路の奥に走り去ってしまった。
「……静かだね」
辺りを見回してサーファさんが呟く。
それを聞いていたアミィさんがこくこくと小さく頷いた。
確かに彼らが言う通り、此処は静かだ。生き物の気配が殆ど感じられない。
アデルさんはしばし周囲の物音を探るように耳を澄ましていたが、引き締まった面持ちで僕たちの方に振り向いてきた。
「魔物だけが敵とは限らない。注意して進んでいこう」
彼の言う通りだ。入口が錬金術で封印されていたように、何か魔術的な罠が潜んでいる可能性はある。
これだけ崩れやすそうな様子の道だし、通路の崩落にも注意しなければならない。
敵は魔物だけとは限らないのだ。
僕たちは先に進んだ。
途中広くなっているところを幾つも通り抜け、巨大な空間に出た。
そこは、元は奥で採掘した石を集めるための場所として使われていたところのようだった。トロッコが何台も置かれており、地面にはレールが何本も敷かれている。
奥には扉に閉ざされた通路が幾つかあり、扉の傍にはおそらく扉を開くためのスイッチであろうレバーがそれぞれ設置されている。
あちこちにはボタ山がある。ひとつひとつが小さな丘ほどの大きさだ。
その前に、うねうねと動く巨大な生き物がいた。
蛇──にしては頭の形が変だ。触覚もあるし、何より体に鱗がない。
その生き物は、ボタ山に時折頭を突っ込んで何かをボリボリと食べていた。
「……何だあれ」
「ロックワームですね」
僕の呟きに、アデルさんが答えた。
ワーム……ということは、あれは巨大なミミズか?
「こういう岩だらけの場所に生息する魔物です」
岩を食べる魔物なので、奴らが住む洞窟は壁や地面を食べられて形を変形させてしまうらしい。
好戦的な魔物ではないが、洞窟で遭遇した場合は洞窟の崩落を防ぐために積極的に狩るのが鉄則なのだそうだ。
アデルさんは剣を抜いた。
「幸い、あれは食事に気を取られています。今のうちに狩ってしまいましょう」
背後から近付いていき、斜めに剣を振り下ろす。
ロックワームは体をふたつに断たれてくたりと紐のように地面に転がった。
「……ソーセージみたい」
ロックワームを見ていたアミィさんがぽつりと呟く。
やめてくれ。そう言われるとソーセージが食べられなくなるじゃないか。
気まずそうに沈黙するサーファさん。
アデルさんは剣を納めて戻ってくると、不思議そうに彼のことを見た。
「……何かあったのか?」
「何でもない」
しれっと答えるアミィさん。
アデルさんは微妙に小首を傾げて、閉ざされている扉の方に目を向けた。
「道が幾つかに分かれていますね。どの道を進みましょう?」
「……その前に、扉を開くレバーが今でも生きてるかどうかだよね」
僕はレバーのひとつに注目した。
レバーは、長いこと誰も触っていなかったということもあってすっかり錆び付いている。
この分では、動力は既に死んでいる可能性がある。
アデルさんは最も近くにあったレバーの元まで歩いていって、レバーに手を掛けた。
「動かしてみます」
ぐっと手に力を入れて、レバーを倒す。
レバーはぎぎぎと軋んだ音を立てて傾いていき、途中でぼきんと折れてしまった。
「……駄目か」
「こっちは?」
別の扉のレバーを掴むサーファさん。
彼がレバーを倒すと、がこんという重い音がして彼の傍にある扉が開いた。
砂っぽい空気が、奥から吹いてくる風に乗って流れてくる。
どうやら、この奥の空気は大分淀んでいるようだ。
「行きましょう」
先陣を切って扉の中に足を踏み入れるアデルさん。
僕は鼻を袖で覆いながら、彼の後に続いて扉をくぐり抜けた。
0
あなたにおすすめの小説
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
女王ララの再建録 〜前世は主婦、今は王国の希望〜
香樹 詩
ファンタジー
13歳で“前世の記憶”を思い出したララ。
――前世の彼女は、家庭を守る“お母さん”だった。
そして今、王女として目の前にあるのは、
火の車の国家予算、癖者ぞろいの王宮、そして資源不足の魔鉱石《ビス》。
「これ……完全に、家計の立て直し案件よね」
頼れない兄王太子に代わって、
家計感覚と前世の知恵を武器に、ララは“王国の再建”に乗り出す!
まだ魔法が当たり前ではないこの国で、
新たな時代を切り拓く、小さな勇気と現実的な戦略の物語。
怒れば母、語れば姉、決断すれば君主。
異色の“王女ララの再建録”、いま幕を開けます!
*カクヨムにも投稿しています。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる