アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第48話 墓標の花は風に踊る

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 強い風が吹く、晴れた日の昼下がり。
 僕は店を閉めて、ある場所に訪れていた。
 街外れにある、小高い丘の上──
 アメミヤが一望できるその場所は、静かに訪れる者を迎えていた。
 此処は、墓地。
 亡くなった者の身を安置し、魂を供養する場所である。
「……来たよ、ミワ」
 僕はひとつの墓の前で、花を片手に佇んでいた。
 風雨に長いこと晒されて古くなった石の面には、一人の少女の名が刻まれている。
 ──いや、生きていれば今年で二十になる。もう少女ではないか。
 僕はふっと笑って、花を墓前に供えた。
「またひとつ、歳を取った。時の流れというのは早いものだね」
 墓標の前に、少女の顔が浮かぶ。
 僕と似た面影を持つその顔は、僕をまっすぐに見つめていた。
 それは、生きていた頃と、同じ──

「お兄ちゃん」
 椅子に座って魔術書を読んでいる僕の目の前に立って、ミワは真新しいローブを纏った華奢な身をくるりと回転させてみせた。
「新しいローブを買ったの。似合う?」
 僕は魔術書から目を離して、笑っているミワの全身を観察した。
 金糸で魔術文字が刺繍された臙脂色のローブは、ミワの体には少し大きいように思えた。
 必要以上に大きな装備は、時に動きを妨げる原因にもなる。魔術師はそれほど体を動かさない職業ではあるが、その基本は変わらない。
 僕はふっと小さく鼻から息を吐いて、魔術書に視線を戻した。
「少し大きいんじゃないか」
「丁度いいサイズが売ってなかったの。まだ背も伸びるから、ちょっとくらい大きくてもいいかなって思って」
「装備はその時その時に合わせてこまめに変えるのが基本だ。基本を無視して一人前の冒険者になれると思うな」
 僕の言葉に、ミワはぷぅっと頬を膨らませた。
「んもー、お兄ちゃんってば相変わらず優しくないんだから!」
 つかつかと僕の間近まで歩いてきて、小さな両手で僕の頬をばちんと挟んだ。
 唇を突き出した変顔にされてしまい、思わず僕は魔術書を膝の上に置いてミワに目を向けた。
「こら、やめないか」
「ふーんだ」
 べっ、と舌を出して、ミワは僕の顔から手を離した。
 一転して笑顔になり、何かを期待した様子で言う。
「ね、三日後のダンジョン探索、わたしも連れてって」
 三日後に、近場のダンジョンに潜ると彼女に話したことを思い出す。
 僕は彼女から目を離して、言葉を返した。
「お前にはまだ早い」
「えー、早くないよ。わたしももう十五だよ? お兄ちゃんだって十五で冒険者になったんじゃない。ダンジョンにだって行けるよ」
「ダンジョンは平野とは違う。お前の魔術の腕ではダンジョンの魔物は仕留められない。中途半端に傷付けて興奮させるだけだ」
「大丈夫だもん」
 ミワはびしっと構えを取ってみせた。
「わたしだって冒険者になったんだし、冒険がしてみたいの。色々な経験をしてこそ冒険者は成長するものだってお兄ちゃんも言ってたじゃない」
「…………」
 僕はかりかりと頭を掻いた。
 魔術書を閉じて、はあっと息を吐いて、ミワの目をまっすぐに見据える。
「……自分の面倒は自分で見ろ。薬品の準備とか、装備の確認とか、全部一人できちんとこなせ。……それができたなら、僕は何も言わない。勝手に付いて来い」
「うん! ありがとうお兄ちゃん! 大好き!」
 がばっ、と僕の顔を抱き締めるミワ。
 彼女に押し当てられる胸の感触をちょっと固いと思いながら、僕は彼女の面倒を見る羽目になった自分の甘さに胸中で溜め息をつくのだった。

「……お前が今でも生きてたなら、今頃一人前の冒険者になってただろうな。お前は、魔術の鍛錬だけは毎日欠かさなかったからな」
 墓前に供えた花が、吹いてきた強い風に押されて地面に散らばった。
 それを一本ずつ丁寧に拾い集めて墓前に置き直し、僕は小さく肩を落とした。
「……ごめんな。こんな兄貴で」
 膝をゆっくりと伸ばし、立ち上がる。
 今はもう、彼女の顔は見えない。名前を刻んだ墓標がそこにあるだけだ。
 墓標から離れて、僕は小さく頭を下げた。
「また来るよ。ミワ」
 来た道を、僕はゆっくりと戻っていく。
 一気に吹きつけてきた風が僕の髪を逆立たせ、布のように広がる雲を目指して空を翔けていった。
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