アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第61話 トワルの守護騎士

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 像は剣を構えたまま、周囲をゆっくりと見回している。
 まるで、それは皆の様子を伺っているようであった。
 そこに、アラグが突っ込んでいく。
 彼は剣を上段に構えて、勢い良く振り下ろした。
 像はそれを片手で受け止めた。
 がちん、と固い音が響く。
 像が持っている剣は像と同じ石でできているはずだが、衝撃で欠ける様子は全くない。
 鋼と同じ、いや、それ以上の強度を持っているようだ。
 噛み合った二本の剣が、じりじりと一方に傾いていく。
 アラグが、押されているのだ。
「何つー馬鹿力だ……!」
 アラグは舌打ちをして、相手の剣を懸命に押し返しながら体を像の横に滑り込ませた。
 そのまま剣を傾けて、像の剣を受け流す。
 像がアラグの姿を目で追う。
 その目がアラグの姿を捉えた時、彼は次の行動に移っていた。
「おりゃっ!」
 アラグは像の腹めがけて右の爪先を叩き込んだ。
 像が体勢を崩す。そこに、シャオレンが放った魔術が直撃した。
「バーストフレア!」
 人の頭ほどもある茜色の光が、像の腰に当たって弾け散る。
 鎧の腰当て部分に罅が入り、ぼろりと砕けて床に落ちた。
「ファイアボール!」
「フレアランス!」
 間を置かずフラウとマテリアさんの魔術が像の頭を撃つ。
 火球が像の兜に付いた飾り羽を砕き、炎の槍が像の右目を穿った。
 罅の入った顔をこちらに向けて、像が翼を広げて宙に舞う。
 剣を払う動作をして、盾を頭上に掲げて。
 大量の羽根を落ち葉のように周囲に撒き散らした。
 それは白い弾丸となって、アラグたちに降り注ぐ!
「何の!」
 アラグは飛んできた羽根を剣の腹で受け止めた。
 シャオレンは自身の周囲に風の結界を纏って羽根を弾き飛ばし。
 フラウは杖を盾代わりにして羽根を受け止めて、マテリアさんは魔術で羽根を狙撃した。
 羽根は僕の方にも飛んできた。
「ひっ!」
 羽根は僕の顔のすぐ右横を掠めていった。
 頬が浅く切れ、ぴりっとした痛みが生じる。
 羽根が後少し左側を飛んでいたら、間違いなく僕の顔の中心を貫いていただろう。
「シルカ! 離れてなきゃ駄目よ!」
「離れてるよ! それでも羽根が飛んできたんだよ!」
 呼びかけてくるシャオレンに叫び返す僕。
 シャオレンはぺろりと唇を舐めて、不敵な笑みを零した。
「シルカを狙うなんて……貴方、いい度胸してるじゃない」
 印を組み、窓の形を作った指を像へと向けた。
「ダークプリズン!」
 彼の言葉に応えて、黒い板のようなものが像の周囲に現れる。
 それは四角い檻となり、像を中へと閉じ込めた。
 像が板を剣で斬りつける。しかしその程度では板は壊れない。
 檻は徐々に小さくなっていき、中に封じ込めている像を圧縮していった。
 みしみしと像の全身が軋み音を立てる。
 そして遂に耐え切れなくなったのか、全身に細かな亀裂が入った。
 翼がばらけ、鎧が砕け、体が無数の細かい白い破片を零していく。
「砕けて砂となりなさい」
 檻が一点に収束し、消滅する。
 檻から解放された像は床に落ち、剣と盾を手離してがしゃりと倒れた。
 アラグが油断なく倒れた像に近付いていく。
 像の前まで行き、手にした剣で像の頭を突く。
 頭はぼろっと首からもげて、ごろりと床の上を転がっていった。
「……終わった、か」
 彼はふぅっと息をついて、剣を背に戻した。
 彼の言葉に、身構えていた他の者たちも緊張を解いた。
「前に此処に来た時はこんなことなんてなかったのに」
 フラウの言葉に、マテリアさんが頷いた。
「そうね。ただの彫像って感じだったわよね」
「多分……台座の仕掛けを動かしたからだ」
 僕は言いかけたままになっていた言葉を再度口にした。
 全員の目が僕の方に向く。
「あの仕掛けはただ扉を開くためだけのものじゃなかったってことだ」
「罠だったってこと?」
 シャオレンの問いに僕は首を振って、
「文字通り……守護騎士だったんだよ。この先にあるものを守るための」
「人騒がせな仕掛けだな。全く」
 アラグが足先で倒れた像を軽く蹴る。
「とにかく、これで脅威は去ったわけだ。先に進むぞ」
 そのまま彼は像を跨いで奥の扉に向かおうとして──
 その背後から、倒れていたはずの像が立ち上がり彼に襲いかかった!
「……なっ!?」
「アラグ!」
 像は両手でアラグの首を掴み、ぎりぎりと締め上げる。
 アラグは懸命に首から手を外そうとするが、予想以上に像の力が強いらしく、全く外れる気配がない。
 手が外れないなら、と腕を破壊しようと腕を掴むが、体勢が体勢だ。逆手では上手く力を入れることができない。
 そのうちに息が詰まってしまったらしく、アラグはその場に膝をついた。
「バーストフレア!」
 像の背後に回り、シャオレンが像の背中を狙って魔術を撃つ。
 茜色の光が像に突き刺さり、像の上半身を砕く。
 その衝撃が致命傷になったらしい。像はばらばらに砕け、細かな石の欠片となって辺りに飛び散った。
 首にぶら下がった像の腕を引き剥がし、アラグは激しく咳き込んだ。
「しぶといわね、もう」
「アラグ、大丈夫?」
 フラウがアラグに駆け寄った。
 アラグは手を振って、ゆっくりと立ち上がった。
「大丈夫だ……悪いなシャオレン、手間掛けさせた」
「どういたしまして」
 完膚なきまでに粉々にされた像に目を向けて、彼は言った。
「倒したと思って油断してた。反省だ」
 そう。錬金術や魔術が絡んだ罠はそう単純なものではないのだ。
 今回は力押しで何とかなったが、次に出会う仕掛けもそうだとは限らない。
 此処から先は誰も足を踏み入れたことがない未知の領域だ。より慎重に進んでいく必要がある。
「……先に進もう」
 気を取り直して、僕たちは部屋の奥──開かれた扉へと向かっていった。
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