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第64話 店主は店主であり続ける
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散りゆく煌めきの中から、シャオレンの姿が現れる。
彼はよろけてその場に膝をつくと、頭を振って声を漏らした。
「……今のは、何……? アタシ、一体……」
「シャオレン!」
僕は彼に駆け寄った。
彼の肩を掴んで揺すりながら、問いかける。
「大丈夫か、何処も痛くはないか!?」
「シルカ……ええ、アタシは大丈夫」
彼は自分の周囲に飛び散っている水晶の欠片を見つめた。
「ひょっとして……シルカ、貴方が助けてくれたの?」
「…………」
僕は自分の胃に手を当てて、ゆっくりと息を吐いた。
僕は、魔術を使った。そして、シャオレンは生きている。
僕の魔術が、人を、助けたのだ。
そう思うと、嬉しくなった。
「……まだ終わってない。他の奴も助けないと」
僕は二人が封じられている水晶に向き直った。
先程と同じように手を翳し、意識を集中させて、声高に魔術を唱えた。
「ウィンドスラッシュ!」
フラウを封じている水晶を風の刃で切り刻み、
「ウォーターレイ!」
マテリアさんを封じている水晶を水の力で打ち砕く。
二人は戒めから解き放たれ、何が起こったんだと言いたげな顔をして辺りを見回した。
「何が、起きたの……?」
「シルカ、貴方」
シャオレンが驚いた顔をして僕を見た。
「今、魔術を……」
「……皆を助けるために、必死だったんだ」
僕は僅かに笑みを浮かべて、自分の掌を見下ろした。
掌にはしっとりと汗が浮かんでいた。
僕は、やり遂げた。そう実感すると。
その場にぺたんと座り込んでしまった。
「……ちょっと、シルカ大丈夫?」
「……急に腰が抜けて……」
ぷるぷると震える足に手を当てて、僕は呟いた。
「……僕は、ちゃんと魔術が使えた……僕が皆を助けたんだ。なのに、何でだろう、体が震えて、心臓がどきどきして」
「シルカ?」
シャオレンがそっと僕の隣にしゃがみ、僕の顔を覗き込む。
僕はゆっくりとかぶりを振って、彼の方を向いた。
「僕は……皆の力に、なれたんだよな?」
「何を当たり前のことを言ってるの」
そう言われることが意外だ、とでも言うように、シャオレンは微妙に呆れた顔をした。
僕の肩に手を置いて、彼は微笑む。
「貴方の力があったから、アタシたちは助かった。それは事実よ。もっと自分に自信を持ちなさい」
「…………」
僕は笑った。
純粋に、嬉しかったのだ。僕が皆を助けることができたということが。
ごどん、と大きな物音がして、皆が一斉にそちらを向く。
アラグが、迫ってくる石像を蹴り倒したのだ。
僕は表情を引き締めて、言った。
「……アラグのことも、助けてやらないとな」
石像は何度も例の霧を吐いて皆を水晶に封じ込めようとしてきたが、タネが分かった仕掛けは恐れるに足りなかった。
誰かが水晶に封じ込められる度に水晶に魔術をぶつけて破壊していき、ありったけの魔術を叩き込んで攻めた。
そして、遂に石像を解体することができたのだった。
床に座り込む僕の周囲に、皆が集まっていた。
「……お前のお陰で無事に勝つことができた」
アラグは優しく笑うと、僕に手を差し出してきた。
「ありがとな、シルカ」
「……うん」
僕は彼の手を借りて、ゆっくりとその場に立ち上がった。
「お前の力は、人を殺すためにあるんじゃない。人を助けるためにあるんだ。それをちゃんと証明できたじゃないか」
彼は僕の肩を抱いた。
ぐいっと引っ張られて、僕はよろけた。
「灰燼の魔術師復活! だな!」
「……それは違うよ」
転びそうになるのを何とか堪えて、僕は肩を抱いているアラグの手をぽんぽんと叩いた。
皆が怪訝そうな顔をする。
それを見回して、僕は言った。
「あの時の僕は、ただ魔術の腕が優れていればいいと思ってた。それはただの驕りで、そんなのは本当の強さじゃないって気付いたんだ」
胸に手を当てて、表情を引き締めて、続ける。
「あの時の僕とは違う。だから今の僕は灰燼の魔術師じゃない。それでも敢えて名乗るなら──」
すっと息を吸い、言った。
「救済の魔術師。そう呼んでほしい」
──僕の魔術は、殺すためじゃない。生かすためにある。
人を生かすために迫り来る脅威と戦わなければならなくなった時。
その時になったら、この力を使って命を救済するために戦おうと思う。
僕の言葉を黙って聞いていたフラウが、笑った。
「……いいね、それ」
「アタシ、シルカが魔術師として戻ってきてくれて嬉しいわ」
シャオレンが僕を優しく抱き締めた。
「また、前みたいに旅をするの?」
「……旅は、しない」
僕はかぶりを振った。
「これからもよろず屋の店主として、あの店で暮らすよ。それが今の僕の仕事だから」
「そう」
フラウは少しだけ残念そうな顔をした。
でも、すぐにぱっと表情を明るくして、言った。
「シルカが旅に出ないなら、こっちから誘えばいいんだよ。まだまだ見せたいもの、たくさんあるんだからさ」
「……なあ、よろず屋は何でも屋じゃないって散々言ってるよな? 便利屋みたいにダンジョンに引っ張り回すのはやめてくれよ」
あはは、と沸き上がる笑い声。
僕もそれにつられて笑いを零した。
さあ、と声を上げるマテリアさん。
「遺跡の探索はまだ終わってないわ。先に進みましょう」
闇に閉ざされた道を歩む僕の足取りは軽い。
長年重石になってぶら下がっていたトラウマが晴れて、すっきりしたからだろう。
でも、魔術の力が戻っても、僕はよろず屋の店主だ。それは変わらない。
これからも、あの店で、人の役に立つ品物を売りながら生きていく。
その中で、困っている街の人を見つけたら、力を使って助けていこう。そういう生き方をしていこうと思う。
それが今の僕らしい生き方だと、思うのだ。
彼はよろけてその場に膝をつくと、頭を振って声を漏らした。
「……今のは、何……? アタシ、一体……」
「シャオレン!」
僕は彼に駆け寄った。
彼の肩を掴んで揺すりながら、問いかける。
「大丈夫か、何処も痛くはないか!?」
「シルカ……ええ、アタシは大丈夫」
彼は自分の周囲に飛び散っている水晶の欠片を見つめた。
「ひょっとして……シルカ、貴方が助けてくれたの?」
「…………」
僕は自分の胃に手を当てて、ゆっくりと息を吐いた。
僕は、魔術を使った。そして、シャオレンは生きている。
僕の魔術が、人を、助けたのだ。
そう思うと、嬉しくなった。
「……まだ終わってない。他の奴も助けないと」
僕は二人が封じられている水晶に向き直った。
先程と同じように手を翳し、意識を集中させて、声高に魔術を唱えた。
「ウィンドスラッシュ!」
フラウを封じている水晶を風の刃で切り刻み、
「ウォーターレイ!」
マテリアさんを封じている水晶を水の力で打ち砕く。
二人は戒めから解き放たれ、何が起こったんだと言いたげな顔をして辺りを見回した。
「何が、起きたの……?」
「シルカ、貴方」
シャオレンが驚いた顔をして僕を見た。
「今、魔術を……」
「……皆を助けるために、必死だったんだ」
僕は僅かに笑みを浮かべて、自分の掌を見下ろした。
掌にはしっとりと汗が浮かんでいた。
僕は、やり遂げた。そう実感すると。
その場にぺたんと座り込んでしまった。
「……ちょっと、シルカ大丈夫?」
「……急に腰が抜けて……」
ぷるぷると震える足に手を当てて、僕は呟いた。
「……僕は、ちゃんと魔術が使えた……僕が皆を助けたんだ。なのに、何でだろう、体が震えて、心臓がどきどきして」
「シルカ?」
シャオレンがそっと僕の隣にしゃがみ、僕の顔を覗き込む。
僕はゆっくりとかぶりを振って、彼の方を向いた。
「僕は……皆の力に、なれたんだよな?」
「何を当たり前のことを言ってるの」
そう言われることが意外だ、とでも言うように、シャオレンは微妙に呆れた顔をした。
僕の肩に手を置いて、彼は微笑む。
「貴方の力があったから、アタシたちは助かった。それは事実よ。もっと自分に自信を持ちなさい」
「…………」
僕は笑った。
純粋に、嬉しかったのだ。僕が皆を助けることができたということが。
ごどん、と大きな物音がして、皆が一斉にそちらを向く。
アラグが、迫ってくる石像を蹴り倒したのだ。
僕は表情を引き締めて、言った。
「……アラグのことも、助けてやらないとな」
石像は何度も例の霧を吐いて皆を水晶に封じ込めようとしてきたが、タネが分かった仕掛けは恐れるに足りなかった。
誰かが水晶に封じ込められる度に水晶に魔術をぶつけて破壊していき、ありったけの魔術を叩き込んで攻めた。
そして、遂に石像を解体することができたのだった。
床に座り込む僕の周囲に、皆が集まっていた。
「……お前のお陰で無事に勝つことができた」
アラグは優しく笑うと、僕に手を差し出してきた。
「ありがとな、シルカ」
「……うん」
僕は彼の手を借りて、ゆっくりとその場に立ち上がった。
「お前の力は、人を殺すためにあるんじゃない。人を助けるためにあるんだ。それをちゃんと証明できたじゃないか」
彼は僕の肩を抱いた。
ぐいっと引っ張られて、僕はよろけた。
「灰燼の魔術師復活! だな!」
「……それは違うよ」
転びそうになるのを何とか堪えて、僕は肩を抱いているアラグの手をぽんぽんと叩いた。
皆が怪訝そうな顔をする。
それを見回して、僕は言った。
「あの時の僕は、ただ魔術の腕が優れていればいいと思ってた。それはただの驕りで、そんなのは本当の強さじゃないって気付いたんだ」
胸に手を当てて、表情を引き締めて、続ける。
「あの時の僕とは違う。だから今の僕は灰燼の魔術師じゃない。それでも敢えて名乗るなら──」
すっと息を吸い、言った。
「救済の魔術師。そう呼んでほしい」
──僕の魔術は、殺すためじゃない。生かすためにある。
人を生かすために迫り来る脅威と戦わなければならなくなった時。
その時になったら、この力を使って命を救済するために戦おうと思う。
僕の言葉を黙って聞いていたフラウが、笑った。
「……いいね、それ」
「アタシ、シルカが魔術師として戻ってきてくれて嬉しいわ」
シャオレンが僕を優しく抱き締めた。
「また、前みたいに旅をするの?」
「……旅は、しない」
僕はかぶりを振った。
「これからもよろず屋の店主として、あの店で暮らすよ。それが今の僕の仕事だから」
「そう」
フラウは少しだけ残念そうな顔をした。
でも、すぐにぱっと表情を明るくして、言った。
「シルカが旅に出ないなら、こっちから誘えばいいんだよ。まだまだ見せたいもの、たくさんあるんだからさ」
「……なあ、よろず屋は何でも屋じゃないって散々言ってるよな? 便利屋みたいにダンジョンに引っ張り回すのはやめてくれよ」
あはは、と沸き上がる笑い声。
僕もそれにつられて笑いを零した。
さあ、と声を上げるマテリアさん。
「遺跡の探索はまだ終わってないわ。先に進みましょう」
闇に閉ざされた道を歩む僕の足取りは軽い。
長年重石になってぶら下がっていたトラウマが晴れて、すっきりしたからだろう。
でも、魔術の力が戻っても、僕はよろず屋の店主だ。それは変わらない。
これからも、あの店で、人の役に立つ品物を売りながら生きていく。
その中で、困っている街の人を見つけたら、力を使って助けていこう。そういう生き方をしていこうと思う。
それが今の僕らしい生き方だと、思うのだ。
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