アメミヤのよろず屋

高柳神羅

文字の大きさ
63 / 176

第63話 ひとひらの勇気を

しおりを挟む
「くっ!」
 石像を蹴り飛ばしてアラグが僕の元に退いてくる。
「シルカ、何とかなりそうか!?」
「駄目だ……どうしようもない」
 僕はかぶりを振った。
「この水晶を砕くには多分魔術が必要だ。でもこの場には魔術師がいない。魔術を使える人間がいないんだ……!」
「…………」
 アラグの片眉が跳ねた。
 水晶の中の三人を見て、顔を伏せてしばし考え込んだ後、彼は開口した。
「……いや。魔術を使える奴ならいる」
 蹴られて床に倒れていた石像が起き上がる。
 それを剣を構えて見据えながら、彼は言った。
「シルカ。お前がやるんだ」
「!」
 え──
 僕は身を強張らせた。
 僕が……魔術を、使う?
 アラグの言葉は続いた。
「お前は昔、灰燼の魔術師と呼ばれてたほどの腕を持った魔術師だった。今でもお前の中にある魔術の力は生きてるはずだ。お前が、魔術を使って三人を助けるんだ!」
「…………」
 僕は、奈落の底に突き落とされたような感覚を感じていた。
 僕が、魔術を使う──
 それを考えると、手足が、体が、震えた。
「……嫌だ」
「嫌がってる場合じゃない! 俺は魔術を使えない、この場にはお前しかできる奴がいないんだ!」
「嫌だ!」
 僕は頭を振りながら、両手でそれを抱え込んだ。
「僕は、魔術を二度と使わないって決めたんだ! 僕が魔術を使ったせいで、そのせいで、ミワは──」
 ぐっと歯を食いしばる。
 きつく閉じた瞼の間から、涙が一粒、零れて落ちた。
「僕の魔術は人を殺す! 僕が魔術を使ったら、この三人は死ぬかもしれない! それだけじゃない、アラグだって殺すかもしれないんだ! そんなのは嫌だ! 僕はもう、誰も殺したくないんだ!」

 そう。僕は、魔術で妹を殺してしまった。
 自分の腕に絶対の自信を持っていたその驕りが、破滅を招いてしまったのだ。
 もう二度と、誰も殺さない。妹を殺した罪を背負い、断罪するために、僕はその日以来魔術を使うことをやめた。
 冒険者を引退し、自分が生まれ育ったアメミヤの街で、商売をしてひっそりと暮らすことを選んだのだ。
 そうして、五年間──今までを、生きてきた。
 人を助けるための仕事に身を費やすことが、罪滅ぼしになると思ったから──

「シルカ!」
 アラグが怒鳴った。
 彼は僕の肩を乱暴に掴むと、揺すった。
「今此処でお前が魔術を使わなかったら三人は確実に死ぬんだぞ! ただの憶測に怯えてできることをやらないのは大馬鹿野郎だ!」
 ばしっ、と右の頬に痛みが生じる。
 僕は叩かれた頬に手を当てて、涙の溜まった目で目の前のアラグを見た。
 アラグは、真剣な顔をしていた。
「お前の魔術が俺の方に飛んできても、それくらい避けてやる! だからやれ! 三人を助けられるのはお前だけなんだから!」
「…………」
 アラグはそれだけ言うと、石像の方に向かっていった。
 残された僕は、叩かれた頬を撫でて、水晶に目を向けた。
 あの日以来封じ続けてきた力を、使う。
 怖くないわけがない。またあの悲劇を繰り返してしまうのではないかと思うと、心臓が締め付けられるような感覚を覚える。
 ……だけど。
 此処で三人を死なせてしまうのは嫌だ。
 僕は息を深く吸って、全身に魔力を巡らせた。
 指の先まで、髪の一本一本にまで力が行き渡るように、精神を集中させる。
 腹の底から、湧き上がってくる力を感じる。
 支配しろ。自分の中に息づくこの力を。制御して、自分の思い描く通りの形に、作り上げるのだ。
 僕は掌を翳した。仲間が封じられている水晶に向かって。
「ウォーターレイ!」
 力の限り、叫ぶ。
 僕の掌の先に生まれた水の力が、弾丸となって水晶を貫く。
 水晶は粉々に砕け、煌めく石の欠片となって散っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ファンタジー
シヴァリー(Chivalry)、それは主に騎士道を指し、時に武士道としても使われる言葉である。騎士道と武士道、両者はどこか似ている。強い精神をその根底に感じる。だが、士道は魔法使いが支配する世界でも通用するのだろうか? これは魔法というものが絶対的な価値を持つ理不尽な世界で、士道を歩んだ者達の物語であり、その中でもアランという男の生き様に主眼を置いた大器晩成なる物語である。(他サイトとの重複投稿です。また、画像は全て配布サイトの規約に従って使用しています)

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星
ファンタジー
世界を救った勇者、彼はその力を危険視され、仲間に殺されてしまう。無念のうちに命を散らした男ロア、彼が目を覚ますと、なんと過去に戻っていた! もうあんなヘマはしない、そう誓ったロアは、二度目の人生を穏やかに過ごすことを決意する! とはいえ世界を救う使命からは逃れられないので、世界を救った後にひっそりと暮らすことにします。勇者としてとんでもない力を手に入れた男が、死の原因を回避するために苦心する! ロアが死に戻りしたのは、いったいなぜなのか……一度目の人生との分岐点、その先でロアは果たして、穏やかに過ごすことが出来るのだろうか? 過去へ戻った勇者の、ひっそり冒険談 小説家になろうでも連載しています!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

野獣と噂の王太子と偽りの妃

葉月 まい
ファンタジー
継母に勧められるまま、 野獣のように恐ろしいと噂の 王太子との縁談に向かった 伯爵令嬢のプリムローズ。 「勘違いするな。妃候補だなどと思っているなら大きな間違いだ。とっとと帰れ」 冷たくあしらわれるが 継母と異母妹の為にも 邪魔者の自分が帰る訳にはいかない。 「わたくしをここの使用人として 雇っていただけませんか?」 「…は?!」 戸惑う王太子の告白。 「俺は真の王太子ではない。そなたはこんなところにいてはならない。伯爵家に帰れ」 二人の関係は、どうなっていくのか? ⎯⎯⎯⎯ ◦◈◦◈◦◈◦⎯⎯⎯⎯ プリムローズ=ローレン(十七歳)…伯爵令嬢 母を知らずに育ち、継母や異母妹に遠慮しながら毎日を過ごしている。 自分がいない方がいいと、勧められるまま王太子の妃候補を募る通達により、宮殿へ。 野獣のように恐ろしいと噂の王太子に 冷たくされながらも いつしか心を通わせていく。 そんなプリムローズの 幸せなプリンセスストーリー♡

処理中です...