アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第65話 女神は命の終わりを望む

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 長い通路を歩き続け、ようやく僕たちは、遺跡の最深部と思わしき部屋に辿り着いた。
 そこは、天井が随分と高いところにある広い部屋だった。
 広さは先の大広間と同じくらい。室内は魔光の光で満ち、細部の様子までよく見える。
 両脇の壁に並んでいるのは、巨大な像。白い石で造られた、穏やかな表情を浮かべた女性の彫像だった。
 正面にも巨大な像があるが、それだけが他の像とは違う。
 顔には何も彫られておらず、代わりに胸に六角形の模様のようなものが刻まれている。全身は黒い鎖で縛られ、折り畳まれた翼は半ばから折れており、床に瓦礫の山となって転がっていた。
 それはまるで、何か巨大な力に束縛された女神の像──のように、見えた。
 僕は女神像の胸元──六角形の模様に注目した。
 模様の中心に、小さな穴が空いていた。掌くらいの大きさの、三角形の穴だ。
 その穴に、かつては何かが填まっていたのではないか──そう思った時。
 その答を明かすように、僕たちの背後から彼らが悠然と歩いてきたのだった。
「遂に、此処まで辿り着いたか……トワルの伝承を紐解いた人間よ」
「ちゃんと森羅万象の四柱を立ててくれて、ありがとう」
 サテュロスとミルウードは、僕たちの横を通り過ぎ、女神像の前まで行ってこちらに振り返ってきた。
「貴方、あの山の……」
 ミルウードを見て声を上げるシャオレン。
 ミルウードはにこりと笑った。
「やあ、また会ったね。まあ君たちなら、迷わず此処に来てくれると思ってたけどね」
 彼は女神像を愛おしそうに見上げた。
「これは、僕たちの神──運命の三女神の力を封じた像さ。この中に、僕たちが欲していたものが眠っているんだよ」
「だが、完全ではない」
 ミルウードの言葉を続けるサテュロス。
 彼は懐から、赤い宝石のペンダントを取り出した。
「神を呼び覚ますには、力が必要なのだ。それを捧げるのが、我らユジンの司祭の役目──今こそ、此処に、役目を果たそう」
「僕たちはね」
 ミルウードは僕たちに視線を戻して、自らの胸を指先でとんとんと叩いた。
「神に捧げるための力を核にして蘇った死者なんだ。僕たちに宿った命は、僕たちが神の手の中で力となった時に神を蘇らせる鍵としての役目を持っているんだよ」
「……神を、蘇らせる? 運命の三女神がこの世に現れるとでもいうの?」
 マテリアさんの問いに僅かに小首を傾げて考えるような仕草をして、彼は答えた。
「近からず、遠からず……まあ、そういうものだって捉えてくれていいよ」
「神が現れるとどうなるんだ」
 アラグの問いに答えたのはサテュロスだった。
 彼は両手を広げて、この空間を仰ぐように視線を這わせた。
「世は粛清され、作り変えられるのだ。我らが神が理想とする形の世界にな。人も、木々も、地上に生きる全ての命は消滅し、新たな生を得ることとなろう」
「!……」
 僕たちは息を飲んだ。
 地上に生きる全ての命は消滅する。それは、つまり──世界が滅びるということじゃないか。
 彼らが言う『神』が蘇ったら、世界は滅亡する。
 それを、彼らは実現しようとしている。
 そして、おそらく。その鍵となっているのが──
 僕はサテュロスを睨んで、彼が手にしているペンダントを指差した。
「……その宝石を渡せ」
「それはできん。これは我が神に捧げる大切な心臓だ」
 サテュロスはペンダントを大事そうに抱え込んだ。
「欲するのなら、力ずくで奪ってみせるがいい」
「僕たちが神を蘇らせるのが先か、君たちが心臓を砕くのが先か、競争だね。でも僕たちが勝つよ。僕たちは、君たちには絶対に殺すことができないんだから」
 両手を合掌の形に作って、静かに目を閉じるミルウード。
「さようなら、退廃した世界に生きる哀れな命たち。せめて神の膝元で、安らかに眠っておくれ」
「……皆、あの宝石を砕くんだ」
 僕は驚愕で固まっている皆に告げた。
「あの宝石を像に填められたら終わりだ。その前に、どんな手段を使ってでも、止めるんだ!」
「……とんでもないことになったな」
 ちっと舌打ちをして、アラグは背負っていた剣を抜いた。
「世界を救うための戦いか。とんでもないプレッシャーだが……やってやろうじゃないか!」
 彼の言葉に皆がこくりと頷く。
 片手で印を切り、身構えるサテュロスとミルウード。
 数多の像が見守る下で、世界の存亡を賭けた戦の幕が、切って落とされた。
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