アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第69話 最終拝謁

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「ふっ」
 マテリアさんとの距離を詰めたミルウードはその場を優雅に一回転する。
 ふぉん、と空気が裂け、マテリアさんの左腕に赤い筋が浮かぶ。
 マテリアさんは腕を押さえてミルウードから離れ、反撃の魔術を放った。
「ウィンドスラッシュ!」
 ばちっ、と風の刃がミルウードの手から短剣を弾き飛ばす。
 短剣は床に落ちる前に具現力を失って、黒い霞となって消えていった。
「ウォーターカッター!」
 間髪入れずシャオレンの魔術がミルウードに放たれる。
 水の刃がミルウードの脇腹を深く切り裂く。
 血が噴き出し、床に散って赤い点々を描き出す。
 ミルウードは三人から距離を置いたところに飛び退き、微妙に困ったように切り裂かれた脇腹に視線を落とした。
「あー、貰っちゃったなぁ。やるね、君たち」
 流れる血を指先で拭い、ぺろりと舐める。
「流石に三人も相手にしてると隙ができるね。これはちょっと手厳しい……かな?」
「アラグ! その宝石を壊せ!」
 僕の叫びが空間中に響き渡る。
 ミルウードは弾かれたように振り向いた。
 アラグの剣が宝石を粉々に砕いたのを目にして、あーあと溜め息をつく。
「……これはやられたね」
 左手に残っていた短剣を放り投げ、彼はくしゃっと前髪を掻き上げた。
「サテュロスには荷が重かったみたいだね。まあ、彼は元々戦いが得意な方じゃないから、こうなるのも仕方なかったのかなって気はするけれど」
「……宝石は砕かれたわ。神はもう復活できない。私たちの勝ちよ!」
 マテリアさんの言葉に、ミルウードは何故か笑いを零した。
「……さて。それはどうかな」
 胸をとんとんと叩いて、彼は言った。
「言ったよね。僕たちは神を蘇らせる鍵だって」
 両手を広げて、女神像に目を向ける。
「特別に、君たちにも体験させてあげる。神への最終拝謁を。その目でしっかりと、見届けておくれよ」
 そのまま彼は浮かび上がり、床の上を滑るように移動して、サテュロスの隣に着地した。
「サテュロス。今こそ見せてあげよう。僕たちの最終拝謁を」
「……心得た」
 サテュロスは頷いて、手にしていた杖を床に落とした。
 杖が黒い霞となり、霧散する。
 彼らは僕たちが注目する中宙を舞い上がり、女神像の掌の前に移動した。
 サテュロスは右の掌に。ミルウードは左の掌に。
 それぞれ辿り着いて、自らの掌を女神像の掌に触れさせる。
 すると、空間全体が大きな揺れに見舞われた。
 これは──地震、ではない。
 僕は見た。
 女神像の手が、ゆっくりと動き出したのを。
「さあ、我らが神よ。今こそその御姿を我らの前に示し給え──」
 女神像の手が、サテュロスとミルウードを掴む。
 そして、そのまま、彼らを握り潰した。
 ぶしゃっ、と大量の血が指の間から溢れて落ちる。像の足下を濡らし、床に飛び散って、派手な跡を付けた。
 びし、びしっと天井のあちこちで何かが弾ける音が鳴る。
 女神像を縛っていた鎖がちぎれている音だ。
 女神像の左足が、ゆっくりと、一歩を踏み出す。
 僕たちの目の前で、女神像が、動き出そうとしていた。
「な、何よ、これ!」
 女神像を見てシャオレンが声を上げる。
「みんな、離れろ! 踏み潰されるぞ!」
 僕は叫んでその場から駆け出した。
 女神像の反対側の壁まで皆で移動して、振り返る。
 女神像は広間を歩みながら、顔を天井へと向けた。
 何もないのっぺりとした石の面が、眩い光を放つ。
 その光は一点に収束し、光線となって天井を撃ち抜いた。
 天井が吹き飛び、大量の石が瓦礫となって落ちてくる。
 僕たちは降ってくる瓦礫を悲鳴を上げながら何とか避けた。
「何つー目茶苦茶な奴だ! こんな威力、魔術砲撃の比じゃないぞ!」
 女神像は崩れた壁を押し退けるようにして、遺跡の外へと出ていった。
 これが像に秘められていた神の力? ただの破壊兵器じゃないか!
 僕は崩れた壁や天井を見た。
 この遺跡の周辺には高原しかないが、あの女神像が人の街に辿り着いたら、街は間違いなくパニックになる。
 僕たちには女神像が動き出す原因の一端を担ったという責任がある。僕たちが、あれを止めなければならないのだ。
「……追いかけよう。あんなのが街に行ったら、街が壊されちゃう!」
 僕と同じことを考えていたようで、フラウが皆に呼びかけた。
 僕たちは頷いて、女神像が無理矢理出て行った壁から遺跡の外へと飛び出した。
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