アメミヤのよろず屋

高柳神羅

文字の大きさ
77 / 176

第77話 家族が増えた

しおりを挟む
 僕が皿に盛って持ってきた山盛りの鶏肉のソテーを、フェンリルはばくばくと食べている。
 この食べっぷり、そんなに腹が減ってたのか、こいつ。
 店に訪れる客たちがフェンリルを見てぎょっとしてたけど、犬と勘違いしているのか特に何も言わずに普通に買い物をしていった。
 さて……僕がこいつに食い殺される心配はとりあえず必要なくなったわけだけど、どうすればいいんだ、この状況。
 早いところ森に帰ってもらうのが一番いいんだろうが……
 やがて、肉を完食したフェンリルが満足そうに顔を上げた。
『ごちそうさま。やっぱり焼いてあるお肉は美味しいね』
「それは何より」
 僕は空になった皿を作業台の上に置いた。
「さ、腹一杯になったんなら森に帰りな」
『ううん、帰らない』
 ……は?
 フェンリルは尻尾を揺らしながら、言った。
『僕は決めたよ。此処で暮らす』
「…………はい?」
 おいおいおい。ちょっと待て。
 僕は口をぽかんと開けてフェンリルを見た。
 此処で暮らすって……まさか、ずっと居座る気か?
 この店は動物禁制ではないし、僕も特に動物嫌いというわけではないが、此処に居座られるというのは流石に困る。
 こいつは普通の犬ではない。フェンリルなのだ。
 そんなものが此処にいるって人に知られたら大騒ぎになる。
 大騒ぎになったら、僕が愛している此処での平穏な生活が壊されてしまう。
 そんなのは御免だ。
 僕は慌てて反論した。
「そんなの許されるわけないだろ。此処は人間の街なんだぞ。フェンリルが暮らせるような場所じゃない」
『人間の街のことは、多少は知ってるよ。僕はこれでも二百年生きてるんだ。世界を支配する種族のことは勉強しているつもりさ』
 二百年……千年を生きる種族であることを考えたら、なかなか若い。
 おそらくこのフェンリルはまだ子供なのだ。だからそんなに大きくないし、年頃の若者みたいな砕けた口調をしているのだろう。
 此処で暮らすと言い出したのも、若さ故のことか。
「……僕にあんたの世話をしろって言うのか?」
『ただで世話をしろなんて言うつもりはないよ。何かあった時は、僕が君のことを守ってあげる。悪い話じゃないはずさ』
 ……番犬を飼うようなものだと考えれば、いけるのか?
 店に来た客たちはこいつを犬だと思ってたっぽいし、幸いこいつは大型犬くらいの大きさだし……
 ……いやいや。見る人が見たらフェンリルだって分かる。ずっと隠し通せるはずがない。
 やっぱり、駄目だ。こいつを此処に置くわけにはいかない。
 僕は毅然とした態度で言った。
「……森に帰れ。僕はあんたを此処に置く気はない」
『君が何と言おうと、僕はもう決めたから』
 そう言うと、フェンリルはその場に寝そべってしまった。
 目を閉じて、すっかり寛ぎモードだ。
『……あ、そうそう』
 と思ったら、僅かに顔を上げて、言った。
『君は僕の主人になるわけだから、名前を付けてよ』
「おい、人の話を」
『それじゃあ、宜しく。毎日の食事、期待してるからね』
「…………」
 僕は頭を抱えて溜め息をついた。
 きっと森で出会った時にサンドイッチをあげたのが失敗だったんだ。
 身の安全のためと思ってやったことが、とんでもない事態を招いてしまった。
 どうしよう、これから。
 押しかけ女房のような形で僕のペットになってしまったフェンリルを見ながら、僕は増えてしまった懸念に頭を悩ませるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ファンタジー
シヴァリー(Chivalry)、それは主に騎士道を指し、時に武士道としても使われる言葉である。騎士道と武士道、両者はどこか似ている。強い精神をその根底に感じる。だが、士道は魔法使いが支配する世界でも通用するのだろうか? これは魔法というものが絶対的な価値を持つ理不尽な世界で、士道を歩んだ者達の物語であり、その中でもアランという男の生き様に主眼を置いた大器晩成なる物語である。(他サイトとの重複投稿です。また、画像は全て配布サイトの規約に従って使用しています)

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星
ファンタジー
世界を救った勇者、彼はその力を危険視され、仲間に殺されてしまう。無念のうちに命を散らした男ロア、彼が目を覚ますと、なんと過去に戻っていた! もうあんなヘマはしない、そう誓ったロアは、二度目の人生を穏やかに過ごすことを決意する! とはいえ世界を救う使命からは逃れられないので、世界を救った後にひっそりと暮らすことにします。勇者としてとんでもない力を手に入れた男が、死の原因を回避するために苦心する! ロアが死に戻りしたのは、いったいなぜなのか……一度目の人生との分岐点、その先でロアは果たして、穏やかに過ごすことが出来るのだろうか? 過去へ戻った勇者の、ひっそり冒険談 小説家になろうでも連載しています!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

【完結】悪の尋問令嬢、″捨てられ王子″の妻になる。

Y(ワイ)
ファンタジー
尋問を生業にする侯爵家に婿入りしたのは、恋愛戦略に敗れた腹黒王子。 白い結婚から始まる、腹黒VS腹黒の執着恋愛コメディ(シリアス有り)です。

処理中です...