アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第85話 必死の抵抗

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 階段を駆け下りながら、二階の様子をちらりと見る。
 先の魔術をまともに浴びたというのに、男は全く堪えていない様子で悠然とこちらを見下ろしている。
 威力の高い火魔術か爆発魔術を使えば行動不能にできるかもしれないが、此処は屋敷の中だ。下手をしたらこちらまで被害に遭うかもしれない魔術は迂闊には使えない。
 何とか小技で牽制しつつ、冒険者ギルドから来る助けを待つ。それしかない。
「アイシクルアロー!」
 階段に向けて撃った氷の矢が手摺りに当たり、階段に大きな氷の膜を張る。
 階段を下りようとしていた男が氷を見て小さく溜め息をついた。
「全く、御転婆なお嬢さんだ」
 額に指先を添える仕草をして、階段の手摺りに手を触れる。
 ばしっ、と階段に魔力が迸る。男の魔力は手摺りを変形させ、階段の上に新たな階段を作り出した。
 やはり……錬金術の使い手か!
 攫った人を材料にしたという魔物も、錬金術で作ったのだろう。
「いい子にしなさい。悪いようにはしないから、さあ」
「ストーンバレット!」
 男の足を狙って魔術を撃つ。
 男はそれを、高く跳躍して避けた。
 石礫が錬金術で作られた階段に当たり、弾ける。
 男は床に着地して、懐から何かを取り出した。
 それは洗濯物を干す時なんかに使うような、細いロープであった。
 男はそれに掌を触れる。
 ばちっ、と魔力が込められたロープは宙を泳ぐ蛇のように動き出し、物凄い速さで僕の足首に絡み付いた!
「!」
 足首を縛られた僕は引き倒されるようにその場に倒れた。
 ドレスのスカートが派手に捲れて尻が丸見えになるが、そんな小さなことはどうでもいい。
 ロープを外そうと引っ張るが、錬金術の力で絡み付いたロープはかなり強固で外れる気配がない。
 男がゆっくりとこちらに歩いてくる。
 仕方ない、これはあまりやりたくなかったけど!
 僕は足首を狙って掌を翳した。
「ウィンドスラッシュ!」
 不可視の刃が、足首もろともロープを切断する。
 なるべく足を傷付けないように威力を抑えたつもりではあるが、それでも少し皮膚を切ってしまったようだ。足を動かすとぴりっとした痛みが生じた。
 慌てて起き上がって、駆け出す。
 咄嗟に目についた部屋に飛び込む。
 この部屋は物置のようで、埃を被った家具が所狭しと詰め込まれていた。
 僕は家具の上によじ登り、部屋の奥の方に移動した。
 男が部屋に入ってくる。
 僕は傍にあった置物を掴んで、念を込めた。
 ばちっ!
 置物が穂先の鋭い槍に変わり、男めがけて飛んでいく。
 男はそれを身を翻して避けた。
「ほう……君も錬金術を使うのか。なかなかの腕前だ」
 僕は手当たり次第に周囲のものを掴んでは、槍に変えて男に撃った。
 男はそれを笑いながらかわし、次第に僕との距離を詰めてくる。
「それだけの腕を持つのなら、私の助手に欲しかったところだよ」
「……く、来るな……」
 がっ!
 男の手が、僕の喉を鷲掴みにする。
 強い力で引っ張られ、僕は咳き込んだ。
「さあ、私の研究室に行こう」
「……!」
 僕は男の手を両手で掴み、引き剥がそうとした。
 しかし、男の力は強く、皮膚に指が食い込んでいて全く外れない。
 もがいているうちに息が詰まってしまい、両手が痺れを訴えてきた。
 遂に力が抜け、男の手を掴んでいた手がだらりと垂れ下がる。
 万事休すか、朦朧としてきた意識の中でそう考えた、その時。
 わうっ、と聞き覚えのある吠え声が、間近で聞こえた。
「!?」
 男が後方に振り返る。
 その首に、見覚えのある銀色の塊が食らいついた!
「なん……!」
 男がひっくり返る。
 激しく咳き込んでその場にへたり込む僕。
 ぼんやりとした視界には、男を引き摺り倒した一匹の狼の姿が映っていた。
 あれは……シルバー?
 シルバーが僕を助けてくれたのだ。そう自覚したと同時に。
「大丈夫か、シルカ!」
 ギルベルトさんの大声が、部屋の外から聞こえてきた。
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