アメミヤのよろず屋

高柳神羅

文字の大きさ
85 / 176

第85話 必死の抵抗

しおりを挟む
 階段を駆け下りながら、二階の様子をちらりと見る。
 先の魔術をまともに浴びたというのに、男は全く堪えていない様子で悠然とこちらを見下ろしている。
 威力の高い火魔術か爆発魔術を使えば行動不能にできるかもしれないが、此処は屋敷の中だ。下手をしたらこちらまで被害に遭うかもしれない魔術は迂闊には使えない。
 何とか小技で牽制しつつ、冒険者ギルドから来る助けを待つ。それしかない。
「アイシクルアロー!」
 階段に向けて撃った氷の矢が手摺りに当たり、階段に大きな氷の膜を張る。
 階段を下りようとしていた男が氷を見て小さく溜め息をついた。
「全く、御転婆なお嬢さんだ」
 額に指先を添える仕草をして、階段の手摺りに手を触れる。
 ばしっ、と階段に魔力が迸る。男の魔力は手摺りを変形させ、階段の上に新たな階段を作り出した。
 やはり……錬金術の使い手か!
 攫った人を材料にしたという魔物も、錬金術で作ったのだろう。
「いい子にしなさい。悪いようにはしないから、さあ」
「ストーンバレット!」
 男の足を狙って魔術を撃つ。
 男はそれを、高く跳躍して避けた。
 石礫が錬金術で作られた階段に当たり、弾ける。
 男は床に着地して、懐から何かを取り出した。
 それは洗濯物を干す時なんかに使うような、細いロープであった。
 男はそれに掌を触れる。
 ばちっ、と魔力が込められたロープは宙を泳ぐ蛇のように動き出し、物凄い速さで僕の足首に絡み付いた!
「!」
 足首を縛られた僕は引き倒されるようにその場に倒れた。
 ドレスのスカートが派手に捲れて尻が丸見えになるが、そんな小さなことはどうでもいい。
 ロープを外そうと引っ張るが、錬金術の力で絡み付いたロープはかなり強固で外れる気配がない。
 男がゆっくりとこちらに歩いてくる。
 仕方ない、これはあまりやりたくなかったけど!
 僕は足首を狙って掌を翳した。
「ウィンドスラッシュ!」
 不可視の刃が、足首もろともロープを切断する。
 なるべく足を傷付けないように威力を抑えたつもりではあるが、それでも少し皮膚を切ってしまったようだ。足を動かすとぴりっとした痛みが生じた。
 慌てて起き上がって、駆け出す。
 咄嗟に目についた部屋に飛び込む。
 この部屋は物置のようで、埃を被った家具が所狭しと詰め込まれていた。
 僕は家具の上によじ登り、部屋の奥の方に移動した。
 男が部屋に入ってくる。
 僕は傍にあった置物を掴んで、念を込めた。
 ばちっ!
 置物が穂先の鋭い槍に変わり、男めがけて飛んでいく。
 男はそれを身を翻して避けた。
「ほう……君も錬金術を使うのか。なかなかの腕前だ」
 僕は手当たり次第に周囲のものを掴んでは、槍に変えて男に撃った。
 男はそれを笑いながらかわし、次第に僕との距離を詰めてくる。
「それだけの腕を持つのなら、私の助手に欲しかったところだよ」
「……く、来るな……」
 がっ!
 男の手が、僕の喉を鷲掴みにする。
 強い力で引っ張られ、僕は咳き込んだ。
「さあ、私の研究室に行こう」
「……!」
 僕は男の手を両手で掴み、引き剥がそうとした。
 しかし、男の力は強く、皮膚に指が食い込んでいて全く外れない。
 もがいているうちに息が詰まってしまい、両手が痺れを訴えてきた。
 遂に力が抜け、男の手を掴んでいた手がだらりと垂れ下がる。
 万事休すか、朦朧としてきた意識の中でそう考えた、その時。
 わうっ、と聞き覚えのある吠え声が、間近で聞こえた。
「!?」
 男が後方に振り返る。
 その首に、見覚えのある銀色の塊が食らいついた!
「なん……!」
 男がひっくり返る。
 激しく咳き込んでその場にへたり込む僕。
 ぼんやりとした視界には、男を引き摺り倒した一匹の狼の姿が映っていた。
 あれは……シルバー?
 シルバーが僕を助けてくれたのだ。そう自覚したと同時に。
「大丈夫か、シルカ!」
 ギルベルトさんの大声が、部屋の外から聞こえてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ファンタジー
シヴァリー(Chivalry)、それは主に騎士道を指し、時に武士道としても使われる言葉である。騎士道と武士道、両者はどこか似ている。強い精神をその根底に感じる。だが、士道は魔法使いが支配する世界でも通用するのだろうか? これは魔法というものが絶対的な価値を持つ理不尽な世界で、士道を歩んだ者達の物語であり、その中でもアランという男の生き様に主眼を置いた大器晩成なる物語である。(他サイトとの重複投稿です。また、画像は全て配布サイトの規約に従って使用しています)

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星
ファンタジー
世界を救った勇者、彼はその力を危険視され、仲間に殺されてしまう。無念のうちに命を散らした男ロア、彼が目を覚ますと、なんと過去に戻っていた! もうあんなヘマはしない、そう誓ったロアは、二度目の人生を穏やかに過ごすことを決意する! とはいえ世界を救う使命からは逃れられないので、世界を救った後にひっそりと暮らすことにします。勇者としてとんでもない力を手に入れた男が、死の原因を回避するために苦心する! ロアが死に戻りしたのは、いったいなぜなのか……一度目の人生との分岐点、その先でロアは果たして、穏やかに過ごすことが出来るのだろうか? 過去へ戻った勇者の、ひっそり冒険談 小説家になろうでも連載しています!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

【完結】悪の尋問令嬢、″捨てられ王子″の妻になる。

Y(ワイ)
ファンタジー
尋問を生業にする侯爵家に婿入りしたのは、恋愛戦略に敗れた腹黒王子。 白い結婚から始まる、腹黒VS腹黒の執着恋愛コメディ(シリアス有り)です。

処理中です...