アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第102話 拳銃は殺戮の花を咲かせる

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 拳銃。それは錬金術が作り出した武器だ。
 鉛や鉄の弾丸を錬金術と火薬の力で高速で撃ち出し標的を貫く、命を奪うために開発された道具である。
 扱いに腕力は必要ないため女性でも手軽に扱える武器として、開発された当初は冒険者の間でも流行していたらしい。
 その後魔術が一般に浸透したこともあって、弾丸の調達にコストがかかる拳銃は殆ど使われることはなくなったのだが、一部の愛好家の間では今でもコレクションとして取引されているという話を聞いたことがある。
 今、それが、僕に対して使われた。
 幸い弾丸は背中を貫通していったようだが、血の流れが全く止まらない。
 僕は……死ぬのだろうか?
 ふと、そんな考えが、頭をよぎった。
「この野郎!」
 ブランがリーダーに向かっていく。
 ハルバードを垂直に振りかぶり、相手の脳天めがけて振り下ろす。
 リーダーはそれを身を引いてかわし、銃口をブランへと向けた。
 轟く銃声。ブランが咄嗟に身を捩る。
 彼の頬に生まれる一筋の赤い線。
 顔の中心を狙って撃たれた銃弾を、ブランは間一髪でかわしたのだ。
 崩れた体勢を流れるような動作で立て直し、ブランが一歩踏み込む。
 ハルバードを持つ手に捻りを加え、振り下ろしたハルバードを斜め上に振り上げる。
 槍の部分がリーダーの帽子を引っ掛けるが、本体には後一歩というところで届かない。
 更に、連撃。振り上げたハルバードがそのまま弧を描きながら横に構えられ、一文字に振り抜かれる。
 床に落ちる帽子と、緑の触手のようなもの。
 ハルバードは、リーダーの顔から下がっていた触手のような器官を斬り飛ばしていた。
 口元を押さえるリーダー。顎から滴り落ちる黒い血が、床に点々を描く。
「……やりやがったな!」
「それはこっちの台詞だぜ! よくもシルカをやってくれたな!」
「殺す!」
 激昂したリーダーが拳銃の引き金を引く。
 しかし、がちんという乾いた音が鳴るだけだった。
「……ちっ!」
 舌打ちをして拳銃を投げ捨てるリーダー。
 一見すると完璧なように思える拳銃にも、弱点がある。
 それは、装填した弾が切れると何の役にも立たなくなるということだ。
 リーダーは腰に差していた剣を抜いた。
「此処を任されている者として、他所から来た奴なんかに宝を渡すわけにはいかねぇんだよ!」
「お前の事情なんざ知るか!」
 ブランが叫んでハルバードを振り下ろす。
 ハルバードの刃はリーダーの胴体を斜めに斬った。
 ずる、と断たれた上半身が臓腑を零しながら床に落ちる。
 残った下半身も力を失って、中身を撒き散らしながら上半身の隣に転がった。
「……畜生、『鍵』が……俺たちの宝が……」
 指で床をがりがりと引っ掻きながら、リーダーは呟く。
「頭……『鍵』を守れませんでした……すみませ……」
 その言葉ごと、頭は幻獣の口の中に消えた。
 噛み砕かれた頭がばらばらの肉片となって辺りに散る。
 ようやく静かになった部屋の中で、ブランはふーっと息を吐いた。
「シルカさん、今、治しますぅ」
 イオンが駆け寄ってきて、腰のポーチからポーションを取り出した。
 瓶の蓋を開け、飲み口を僕の口に近付ける。
 僕は力の入らない口で何とかポーションを口の中に含み、飲み込んだ。
 口内一杯に薬草の苦味が広がる。
 いつも自分で作っている薬を、こうして飲むことになるとは思ってもいなかった。
 焼け付くような痛みが、少しだけ和らいだ。ポーションが効いてきた証拠だ。
 しかし、完治には程遠い。流血は止まったようだが、腹の穴は開いたままだ。
 ブランが早足で僕の元に来た。
 片膝をついてしゃがみ、僕の上体を抱き起こす。
 腹の傷が痛み、僕はうっと顔を顰めた。
「シルカ、大丈夫か」
「…………」
 僕はブランの顔に目の焦点を合わせた。
「……僕を守るって……言ったよな……?」
「すまん」
 ブランは素直に頭を下げた。
「まさかあんな隠し玉があるとは思ってなかった」
「ポーションじゃ全部は治らないみたいですぅ……どうしましょう」
 困り顔をして僕の腹の傷を見るイオン。
 ブランは溜め息をついて、僕の体を静かに抱き上げた。
「街でハイポーションを調達するしかないな。それまで俺が運ぶ。──その前に」
 彼は僕を抱いたまま、テーブルの方まで歩いていく。
 テーブルの上にある宝箱に目を向けて、言った。
「イオン、この箱を開けてくれ」
「はぁい」
 イオンは宝箱の蓋を開いた。
 箱の中には、金貨が一枚だけ入っていた。
 僕たちが普段使っているダイル貨幣とは違う金貨だ。大きさも一回りくらい大きく、縁に随分と傷が付いているのが特徴だ。
「……それだけか?」
「はい、これだけみたいですぅ」
「何だ、海賊の宝っていうから期待したのにな」
 ブランは残念そうに肩を落とし、傍らの扉に目を向けた。
 例の、大きな錠前で封鎖されている扉だ。
「この奥に何かあるかもしれんな」
「でも、鍵が掛かってるみたいですよぉ」
「多分──」
 彼は腰にぶら下げていた大きな鍵を取り出した。
 それを持って扉に近付き、錠前に鍵を差し込む。
 がちゃり、と大きな音を立てて錠前は外れ、床に落ちた。
 片手で扉を押し、何とか人一人が通れるくらいに開いてから、彼は腕の中の僕に言った。
「ちょっとだけこの奥を見て行きたい。すまんが少しの間辛抱していてくれ」
「……手短にな……」
 僕はゆっくりと息を吐いて、目を閉じた。
 大分痛みが治まってきたと思ったら、今度は睡魔が押し寄せてきた。
 このまま寝てしまいたい。でも、この扉の向こうに何があるのかはちょっと気になる。
 半ばうつらうつらとしながら、僕はブランの腕に運ばれて、彼らと共に封鎖された扉の向こうへと進入した。
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