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第105話 畑に埋もれた像
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店を閉めた僕は、シルバーに留守番を任せてジールさんの畑に行ってみた。
畑には何人かの冒険者がいて、彼らは懸命に畑に穴を掘っていた。
ジールさんは時折彼らの方を見ながら、薬草の世話をしている。
僕はジールさんに声を掛けた。
「ジールさん、お邪魔します」
「おや、シルカさんじゃないか」
ジールさんは被っている帽子を脱いで、笑顔で挨拶してくれた。
僕は薬草を踏んづけないように気を付けながら、ジールさんの元に向かった。
「その節はお世話になったね。君のお陰であれから盗難騒ぎもないし、落ち着いて仕事ができるようになったよ」
「それは何よりです」
「今日は何の用かな? ひょっとして君も、あの像を見に来たのかな?」
「ええ、まあ」
僕は後頭部を掻きながら笑った。
「見せてもらっても良いですか?」
「どうぞどうぞ」
ジールさんの許可を貰い、僕は冒険者たちが集まっている場所に移動した。
深くて大きな穴が掘られている。その中に、まるで土を布団にして寝ているかのような形で問題の像が横たわっていた。
像の全身は既に見えてはいるが、これを完全に掘り出すのにはまだまだ時間がかかりそうだ。
「よし、休憩しよう」
穴の中に入って穴掘りをしていた冒険者の一人がそう言った。
ぞろぞろと、穴から出てくる冒険者たち。
彼らは持っていたスコップを穴の周囲に置くと、何処かへと行ってしまった。おそらく昼飯を食べに行ったのだろう。
その場にただ一人残された僕は、穴の縁から像を見下ろした。
胸の辺りで手を組んだ格好をした像は、シスターの衣裳を纏った女性のように見えた。罅割れや欠けはなく、土にまみれてはいるが綺麗な状態だ。
これは、遺跡にある像……というよりも教会なんかにある像という印象が強い。
ひょっとしたら昔此処に教会があって、その時に作られた像なのかもしれない。
ギルベルトさんには申し訳ないが、古代の遺物としての価値は低そうだ。
「ふうん……」
像も見れたし、帰るか。
そう思って僕が穴から離れようとした、その時。
足下が、急にぐらりと揺れた。
僕はよろけてその場に尻餅をついた。
そこから、地割れのように足下がぼろぼろと崩れていく!
「!?」
僕は周囲の土もろとも飲み込まれ、穴の中に滑り落ちてしまった。
像に膝を打ちつけ、痺れるような痛さに思わず膝を手で押さえる。
何事かと周囲を見回す僕の目の前で、
像が、ゆっくりと起き上がっていった。
まるで寝ていた人が起き上がるように、地面にしっかりと両手をつけて上体を起こし、
膝を立てて腰を上げ、立ち上がる。
何かを探すようにゆっくりと辺りを見回し、穴から一歩を踏み出す。
ジールさんの素っ頓狂な声が上がったのが聞こえた。像が急に動き出したことに驚いたのだろう。
何なんだ、一体!
僕は慌てて立ち上がり、全身を使って何とか穴の外に這い出した。
像はジールさんのいる方に歩き出そうとしていた。
急に動き出した理由は分からないが、このまま像を放っておいたら何をし出すか分からない。
何でこの肝心な時に冒険者がいないんだよ!
胸中で毒づいて、僕は駆け出した。
向かう先にはゆっくりと歩く像がある。
壊す、しかない。この像を。
勇気を出せ、と自分に言い聞かせ、僕は像の足に右手を伸ばした。
かつて遺跡で巨大な像を相手にした時のように、錬金術で像を解体する!
像の足に右手をしっかり付けて、精神を集中させる。
ばしっ!
像の右足が錬金術の力で石の欠片に解体される。
左右の足の長さが変わったことで、バランスを崩した像が前のめりに倒れた。
柔らかな地面に全身をめり込ませ、像が動きを止める。
その隙に僕は像の胴体に駆け寄って、同じように錬金術の力で胴体を分解した。
胴体もろとも腕を失って身を起こせなくなった像が、足を芋虫のように動かしている。
そこに、更に錬金術の力を加える。
遂に像はばらばらになり、沈黙した。
……魔物と違ってただ動くだけだったから向かっていけたが、これが攻撃的な像だったら多分右往左往するだけだったと思う。感謝だ。
「……一体どうしたんですか、これは……」
「……分かりません」
恐る恐る近付いてくるジールさんに、僕は首を振った。
僕も、正直言って分からない。何故この像が急に動き出したのか。
像を見ていたら、急に動き出して──
石の欠片と化した像に目を向けていると、胸があった辺りで何かがきらりと光ったのが見えた。
……何だろう。
僕は石の欠片を踏みながら光があった辺りに近付いて、手を伸ばした。
石の欠片の山から出てきたもの。それは、球体の形をした真っ黒な石だった。
表面は黒曜石のように艶があり、つるつるしている。一部分に鳥を模したような模様の彫刻が施されているのが特徴だ。
「それは?」
「……像の中にありました。何でしょうね」
僕は石をジールさんに差し出した。
「いりますか?」
「いや、私には何なのかさっぱりだし……持っていって下さい」
「そうですか」
僕にもこいつが何なのかは全く分からなかったが、ジールさんがそう言うのなら貰っていくことにしよう。
ひょっとしたら何か価値のある遺物なのかもしれない。そうなれば冒険者が欲しがるかもしれないし。
さて。これでひとまず騒ぎは片付いたわけだが、畑は酷い有様になってしまった。
畑に埋もれた大量の石……これ、どうしよう?
ジールさんに尋ねると、発掘作業をしていた冒険者たちに頼んで片付けてもらうと彼は言った。
僕は帰っていいと言われたので、彼の言葉に従って僕は帰ることにした。
本当に、何だったんだろうね。あの像は。
畑には何人かの冒険者がいて、彼らは懸命に畑に穴を掘っていた。
ジールさんは時折彼らの方を見ながら、薬草の世話をしている。
僕はジールさんに声を掛けた。
「ジールさん、お邪魔します」
「おや、シルカさんじゃないか」
ジールさんは被っている帽子を脱いで、笑顔で挨拶してくれた。
僕は薬草を踏んづけないように気を付けながら、ジールさんの元に向かった。
「その節はお世話になったね。君のお陰であれから盗難騒ぎもないし、落ち着いて仕事ができるようになったよ」
「それは何よりです」
「今日は何の用かな? ひょっとして君も、あの像を見に来たのかな?」
「ええ、まあ」
僕は後頭部を掻きながら笑った。
「見せてもらっても良いですか?」
「どうぞどうぞ」
ジールさんの許可を貰い、僕は冒険者たちが集まっている場所に移動した。
深くて大きな穴が掘られている。その中に、まるで土を布団にして寝ているかのような形で問題の像が横たわっていた。
像の全身は既に見えてはいるが、これを完全に掘り出すのにはまだまだ時間がかかりそうだ。
「よし、休憩しよう」
穴の中に入って穴掘りをしていた冒険者の一人がそう言った。
ぞろぞろと、穴から出てくる冒険者たち。
彼らは持っていたスコップを穴の周囲に置くと、何処かへと行ってしまった。おそらく昼飯を食べに行ったのだろう。
その場にただ一人残された僕は、穴の縁から像を見下ろした。
胸の辺りで手を組んだ格好をした像は、シスターの衣裳を纏った女性のように見えた。罅割れや欠けはなく、土にまみれてはいるが綺麗な状態だ。
これは、遺跡にある像……というよりも教会なんかにある像という印象が強い。
ひょっとしたら昔此処に教会があって、その時に作られた像なのかもしれない。
ギルベルトさんには申し訳ないが、古代の遺物としての価値は低そうだ。
「ふうん……」
像も見れたし、帰るか。
そう思って僕が穴から離れようとした、その時。
足下が、急にぐらりと揺れた。
僕はよろけてその場に尻餅をついた。
そこから、地割れのように足下がぼろぼろと崩れていく!
「!?」
僕は周囲の土もろとも飲み込まれ、穴の中に滑り落ちてしまった。
像に膝を打ちつけ、痺れるような痛さに思わず膝を手で押さえる。
何事かと周囲を見回す僕の目の前で、
像が、ゆっくりと起き上がっていった。
まるで寝ていた人が起き上がるように、地面にしっかりと両手をつけて上体を起こし、
膝を立てて腰を上げ、立ち上がる。
何かを探すようにゆっくりと辺りを見回し、穴から一歩を踏み出す。
ジールさんの素っ頓狂な声が上がったのが聞こえた。像が急に動き出したことに驚いたのだろう。
何なんだ、一体!
僕は慌てて立ち上がり、全身を使って何とか穴の外に這い出した。
像はジールさんのいる方に歩き出そうとしていた。
急に動き出した理由は分からないが、このまま像を放っておいたら何をし出すか分からない。
何でこの肝心な時に冒険者がいないんだよ!
胸中で毒づいて、僕は駆け出した。
向かう先にはゆっくりと歩く像がある。
壊す、しかない。この像を。
勇気を出せ、と自分に言い聞かせ、僕は像の足に右手を伸ばした。
かつて遺跡で巨大な像を相手にした時のように、錬金術で像を解体する!
像の足に右手をしっかり付けて、精神を集中させる。
ばしっ!
像の右足が錬金術の力で石の欠片に解体される。
左右の足の長さが変わったことで、バランスを崩した像が前のめりに倒れた。
柔らかな地面に全身をめり込ませ、像が動きを止める。
その隙に僕は像の胴体に駆け寄って、同じように錬金術の力で胴体を分解した。
胴体もろとも腕を失って身を起こせなくなった像が、足を芋虫のように動かしている。
そこに、更に錬金術の力を加える。
遂に像はばらばらになり、沈黙した。
……魔物と違ってただ動くだけだったから向かっていけたが、これが攻撃的な像だったら多分右往左往するだけだったと思う。感謝だ。
「……一体どうしたんですか、これは……」
「……分かりません」
恐る恐る近付いてくるジールさんに、僕は首を振った。
僕も、正直言って分からない。何故この像が急に動き出したのか。
像を見ていたら、急に動き出して──
石の欠片と化した像に目を向けていると、胸があった辺りで何かがきらりと光ったのが見えた。
……何だろう。
僕は石の欠片を踏みながら光があった辺りに近付いて、手を伸ばした。
石の欠片の山から出てきたもの。それは、球体の形をした真っ黒な石だった。
表面は黒曜石のように艶があり、つるつるしている。一部分に鳥を模したような模様の彫刻が施されているのが特徴だ。
「それは?」
「……像の中にありました。何でしょうね」
僕は石をジールさんに差し出した。
「いりますか?」
「いや、私には何なのかさっぱりだし……持っていって下さい」
「そうですか」
僕にもこいつが何なのかは全く分からなかったが、ジールさんがそう言うのなら貰っていくことにしよう。
ひょっとしたら何か価値のある遺物なのかもしれない。そうなれば冒険者が欲しがるかもしれないし。
さて。これでひとまず騒ぎは片付いたわけだが、畑は酷い有様になってしまった。
畑に埋もれた大量の石……これ、どうしよう?
ジールさんに尋ねると、発掘作業をしていた冒険者たちに頼んで片付けてもらうと彼は言った。
僕は帰っていいと言われたので、彼の言葉に従って僕は帰ることにした。
本当に、何だったんだろうね。あの像は。
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