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第107話 店主だって人間だから
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ジュードさんは真剣な顔をして僕のことを見つめている。
彼がその遺跡の謎解きに対して如何に本気であるかということがひしひしと伝わってくる。
僕としては、その心意気を応援したいと思う。頑張って遺跡に秘められた謎を解いて欲しいと思う。
だけど。
それに同行してほしいと願われるのは困る。
僕はただのよろず屋の店主なのだ。確かに錬金術も魔術も使えはするけれど、既に一線からは退いた一般人なのだ。
普通の冒険者に仕事を頼むのと同じ感覚で話を持ちかけられては堪らない。
僕は口を開いた。
「此処は何でも屋じゃないんだけど……」
「それは分かっている」
ジュードさんは言った。
「あの遺跡には魔物はいない。既に探索を終えた部屋に仕掛けられていた罠は全部潰してある。危険はないはずだ。それでも駄目だろうか」
「それで錬金術師の力が必要だっていう根拠は?」
「あれだけ錬金術の罠だらけだった場所だ。最後の部屋にも当然何か仕掛けがされているだろうと思うのが普通だ」
成程……
最後の部屋とやらに何があるのかは分からないが、万が一その部屋にも何らかの仕掛けが施されていた場合、それが錬金術絡みである可能性は大きいということか。その対策として錬金術師の力を欲しがってるというわけなんだな。
ジュードさんの言い分は分かった。
既に危険がない遺跡なら、同行しても構わないように思える。一見すると、そう思える。
でも、本当に何も危険がないのか。そう問われた場合、僕は首を縦には振らない。
封印を解いた先──最後の部屋に、今までに仕掛けられていた罠以上に悲惨なものが存在している可能性はゼロではないのだ。
それで同行するかって言われると……
僕が沈黙していると、まるで僕の胸中を覗いたかのように、ジュードさんは言った。
「俺は遺跡の謎を解きたいだけで、宝には興味はない。もしも封印を解いた先に宝があったら、それは仕事の依頼料としてあんたにやろう」
「…………」
錬金術の罠だらけの遺跡。となると、その遺跡は錬金術師が作った可能性が高い。
そんな遺跡に封印された宝とあらば、当然何かしらの形で錬金術に関わる宝であると考えるのが普通だ。
例えば、星の砂のような……
それを貰えるというのなら、この依頼、受けても悪くはないのかもしれない。
僕は聖人君子ではない。人並みに欲があれば打算も働く普通の人間なのだ。
人間ならば、欲で動くこともある。そうじゃないか?
「……分かった」
僕は頷いた。
「危険がないって言うなら、この仕事、受けてもいい。その代わり万が一戦わないといけない場面に遭遇した場合、僕を護衛してもらう。それでいいなら」
「ああ」
ジュードさんは僕の申し出を承諾してくれた。
「あんたのことは俺が守る。それは約束しよう」
よし、言質は取った。
言ったからにはちゃんと守ってもらうよ? 冒険者さん。
「今から出発するには時間が遅いから、明日の朝、此処に迎えに来る。それじゃあ、宜しく頼む」
明日の朝店の前に集合することを告げて、ジュードさんは街の宿に帰っていった。
僕たちの遣り取りを傍でずっと聞いていたシルバーが、ゆっくりと顔を上げて言った。
『また出かけるの?』
「ああ。ガラム地方にある遺跡らしい」
『最近出かけることが多いね。冒険者みたいだよ』
「僕は冒険者じゃないよ。冒険者はもう引退したんだから」
僕は肩を竦めた。
「そういうわけでまた少しの間留守にするから、留守番は頼んだよ」
『いっそのこと看板でも出したら? 出張錬金術師の仕事承りますって』
「やめてくれよ。そんなの命が幾つあっても足りやしないよ」
店を閉めたら急いで買い物に行こう。旅に必要になる食糧を調達しないと。
しばらくパンばかりの味気ない食事になりそうだな、と独りごちつつ、僕はやりかけだった杖作りの作業を再開した。
彼がその遺跡の謎解きに対して如何に本気であるかということがひしひしと伝わってくる。
僕としては、その心意気を応援したいと思う。頑張って遺跡に秘められた謎を解いて欲しいと思う。
だけど。
それに同行してほしいと願われるのは困る。
僕はただのよろず屋の店主なのだ。確かに錬金術も魔術も使えはするけれど、既に一線からは退いた一般人なのだ。
普通の冒険者に仕事を頼むのと同じ感覚で話を持ちかけられては堪らない。
僕は口を開いた。
「此処は何でも屋じゃないんだけど……」
「それは分かっている」
ジュードさんは言った。
「あの遺跡には魔物はいない。既に探索を終えた部屋に仕掛けられていた罠は全部潰してある。危険はないはずだ。それでも駄目だろうか」
「それで錬金術師の力が必要だっていう根拠は?」
「あれだけ錬金術の罠だらけだった場所だ。最後の部屋にも当然何か仕掛けがされているだろうと思うのが普通だ」
成程……
最後の部屋とやらに何があるのかは分からないが、万が一その部屋にも何らかの仕掛けが施されていた場合、それが錬金術絡みである可能性は大きいということか。その対策として錬金術師の力を欲しがってるというわけなんだな。
ジュードさんの言い分は分かった。
既に危険がない遺跡なら、同行しても構わないように思える。一見すると、そう思える。
でも、本当に何も危険がないのか。そう問われた場合、僕は首を縦には振らない。
封印を解いた先──最後の部屋に、今までに仕掛けられていた罠以上に悲惨なものが存在している可能性はゼロではないのだ。
それで同行するかって言われると……
僕が沈黙していると、まるで僕の胸中を覗いたかのように、ジュードさんは言った。
「俺は遺跡の謎を解きたいだけで、宝には興味はない。もしも封印を解いた先に宝があったら、それは仕事の依頼料としてあんたにやろう」
「…………」
錬金術の罠だらけの遺跡。となると、その遺跡は錬金術師が作った可能性が高い。
そんな遺跡に封印された宝とあらば、当然何かしらの形で錬金術に関わる宝であると考えるのが普通だ。
例えば、星の砂のような……
それを貰えるというのなら、この依頼、受けても悪くはないのかもしれない。
僕は聖人君子ではない。人並みに欲があれば打算も働く普通の人間なのだ。
人間ならば、欲で動くこともある。そうじゃないか?
「……分かった」
僕は頷いた。
「危険がないって言うなら、この仕事、受けてもいい。その代わり万が一戦わないといけない場面に遭遇した場合、僕を護衛してもらう。それでいいなら」
「ああ」
ジュードさんは僕の申し出を承諾してくれた。
「あんたのことは俺が守る。それは約束しよう」
よし、言質は取った。
言ったからにはちゃんと守ってもらうよ? 冒険者さん。
「今から出発するには時間が遅いから、明日の朝、此処に迎えに来る。それじゃあ、宜しく頼む」
明日の朝店の前に集合することを告げて、ジュードさんは街の宿に帰っていった。
僕たちの遣り取りを傍でずっと聞いていたシルバーが、ゆっくりと顔を上げて言った。
『また出かけるの?』
「ああ。ガラム地方にある遺跡らしい」
『最近出かけることが多いね。冒険者みたいだよ』
「僕は冒険者じゃないよ。冒険者はもう引退したんだから」
僕は肩を竦めた。
「そういうわけでまた少しの間留守にするから、留守番は頼んだよ」
『いっそのこと看板でも出したら? 出張錬金術師の仕事承りますって』
「やめてくれよ。そんなの命が幾つあっても足りやしないよ」
店を閉めたら急いで買い物に行こう。旅に必要になる食糧を調達しないと。
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