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第109話 最後の罠
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部屋の中で僕たちを迎えたのは、細かな彫刻が施された灰色の壁だった。
一枚板の壁の中心に、鳥の頭を象った彫刻がある。その彫刻の周囲は蔓草のような形の彫り込みがあり、それは壁全体に施されていた。
壁の両側の隅にはそれぞれ枯れ枝のような形の彫刻がある。見る角度によっては腕にも見える、そんな彫刻だ。
鳥の頭の下に、小さな台座がある。小さな台形の石の台で、中央には何かが填められていた。
ダイル貨幣よりも一回りほど大きな、銀貨だ。年代物のようで、縁に幾つもの傷が付いている。
この銀貨……スエルニャ洞穴で手に入れた金貨にそっくりだな。
銀貨に注目している僕の横で、ジュードさんは壁から生えている鳥の頭を見上げていた。
「何だ……彫刻か?」
手を伸ばし、彫刻の嘴に触れる。
小首を傾げて手を引っ込めて、次に彼は台座の銀貨に視線を移した。
「銀貨……」
呟いた後、台座から銀貨を抜き取った。
銀貨はただ台座のくぼみに置かれていただけのようで、あっさりと台座から取り外すことができた。
銀貨の裏表を見た後、それを僕に差し出してきた。
「宝らしい宝はこれだけらしいな」
「だ、大丈夫なのか? 勝手に抜き取ったりして」
銀貨を受け取りながら、僕は彫刻を見上げた。
わざわざ台座に設置されていたということは、これが何らかのスイッチになっている可能性がある。
例えば──
がらがらがらっ!
背後で突然大きな物音がしたので、僕たちはびっくりして振り向いた。
そして、目の当たりにする。さっきまで開いていた扉が、固く閉ざされているのを。
ずずっ、と砂利をひき潰す音が鳴り、部屋全体が僅かに震動を始める。
台座がごとんと倒れて、砕けてただの石の塊となった。
「!」
先に異変に気付いたのはジュードさんだった。
彼は背負っていた大剣を抜き、険しい顔をして正面の壁を睨み付けた。
「壁が──」
──ただの飾りだと思っていた枯れ枝の彫刻が、ゆっくりと壁の中から抜け出てくるようにせり出してくる。
それは瞬く間に巨大な腕となり、捕まえる獲物を求めて蠢き始めた。
鳥の頭は嘴を大きく開いて音のない吠え声を発し、僕たちを見下ろす。
そして。それらを擁する壁全体が。
ゆっくりと、こちらに向かって前進を始めた。
「だから大丈夫なのかって言ったじゃないか!」
僕たちは壁から離れた。あのまま壁の前に立っていたら危険なように思えたのだ。
「……成程、こうなってるとはな」
少しずつ迫り来る壁を見つめながら、しかし僕とは対照的に落ち着いた様子で、ジュードさんは言った。
その口元には僅かに笑みが浮かんでいる。
「あんた、あの壁を錬金術で壊すことはできるか?」
「……できなくはない、と思うけど」
僕はちらりと壁から生えている腕を見た。
あの腕、あれ以上は伸びたりしないようだが結構リーチが長い。壁に接近しようものなら掴まれてしまうだろう。
「あの腕が邪魔だ」
「分かった」
ジュードさんは大剣を構えた。
「俺が何とかして腕を壊す。腕が壊れたら、壁を破壊してくれ」
すっと息を吸い、声高に言う。
「エンチャント・ファイア!」
彼の大剣が、茜色に輝いて炎に包まれた。
彼は自分が壁に押し潰される前に、壁を破壊するつもりらしい。
その瞳には、恐怖や迷いはない。必ずやり遂げられると自分を信じているのだ。
「任せたぞ」
僕に一言そう言って、彼は壁に向かっていく。
……僕も、腹を括ろう。此処で一人で怯えていたって、タイムリミットは変わることなく迫ってくるのだから。
僕は深呼吸をして、曲がりそうになる膝を懸命に伸ばした。
「バーストフレア!」
獲物を求めて宙を掻いている腕を狙って、魔術を撃つ。
茜色の光は高速で宙を飛び、腕の根元に直撃した。
押し潰される前に、何としてもこいつを破壊する!
極限の中での戦いが、幕を開けた。
一枚板の壁の中心に、鳥の頭を象った彫刻がある。その彫刻の周囲は蔓草のような形の彫り込みがあり、それは壁全体に施されていた。
壁の両側の隅にはそれぞれ枯れ枝のような形の彫刻がある。見る角度によっては腕にも見える、そんな彫刻だ。
鳥の頭の下に、小さな台座がある。小さな台形の石の台で、中央には何かが填められていた。
ダイル貨幣よりも一回りほど大きな、銀貨だ。年代物のようで、縁に幾つもの傷が付いている。
この銀貨……スエルニャ洞穴で手に入れた金貨にそっくりだな。
銀貨に注目している僕の横で、ジュードさんは壁から生えている鳥の頭を見上げていた。
「何だ……彫刻か?」
手を伸ばし、彫刻の嘴に触れる。
小首を傾げて手を引っ込めて、次に彼は台座の銀貨に視線を移した。
「銀貨……」
呟いた後、台座から銀貨を抜き取った。
銀貨はただ台座のくぼみに置かれていただけのようで、あっさりと台座から取り外すことができた。
銀貨の裏表を見た後、それを僕に差し出してきた。
「宝らしい宝はこれだけらしいな」
「だ、大丈夫なのか? 勝手に抜き取ったりして」
銀貨を受け取りながら、僕は彫刻を見上げた。
わざわざ台座に設置されていたということは、これが何らかのスイッチになっている可能性がある。
例えば──
がらがらがらっ!
背後で突然大きな物音がしたので、僕たちはびっくりして振り向いた。
そして、目の当たりにする。さっきまで開いていた扉が、固く閉ざされているのを。
ずずっ、と砂利をひき潰す音が鳴り、部屋全体が僅かに震動を始める。
台座がごとんと倒れて、砕けてただの石の塊となった。
「!」
先に異変に気付いたのはジュードさんだった。
彼は背負っていた大剣を抜き、険しい顔をして正面の壁を睨み付けた。
「壁が──」
──ただの飾りだと思っていた枯れ枝の彫刻が、ゆっくりと壁の中から抜け出てくるようにせり出してくる。
それは瞬く間に巨大な腕となり、捕まえる獲物を求めて蠢き始めた。
鳥の頭は嘴を大きく開いて音のない吠え声を発し、僕たちを見下ろす。
そして。それらを擁する壁全体が。
ゆっくりと、こちらに向かって前進を始めた。
「だから大丈夫なのかって言ったじゃないか!」
僕たちは壁から離れた。あのまま壁の前に立っていたら危険なように思えたのだ。
「……成程、こうなってるとはな」
少しずつ迫り来る壁を見つめながら、しかし僕とは対照的に落ち着いた様子で、ジュードさんは言った。
その口元には僅かに笑みが浮かんでいる。
「あんた、あの壁を錬金術で壊すことはできるか?」
「……できなくはない、と思うけど」
僕はちらりと壁から生えている腕を見た。
あの腕、あれ以上は伸びたりしないようだが結構リーチが長い。壁に接近しようものなら掴まれてしまうだろう。
「あの腕が邪魔だ」
「分かった」
ジュードさんは大剣を構えた。
「俺が何とかして腕を壊す。腕が壊れたら、壁を破壊してくれ」
すっと息を吸い、声高に言う。
「エンチャント・ファイア!」
彼の大剣が、茜色に輝いて炎に包まれた。
彼は自分が壁に押し潰される前に、壁を破壊するつもりらしい。
その瞳には、恐怖や迷いはない。必ずやり遂げられると自分を信じているのだ。
「任せたぞ」
僕に一言そう言って、彼は壁に向かっていく。
……僕も、腹を括ろう。此処で一人で怯えていたって、タイムリミットは変わることなく迫ってくるのだから。
僕は深呼吸をして、曲がりそうになる膝を懸命に伸ばした。
「バーストフレア!」
獲物を求めて宙を掻いている腕を狙って、魔術を撃つ。
茜色の光は高速で宙を飛び、腕の根元に直撃した。
押し潰される前に、何としてもこいつを破壊する!
極限の中での戦いが、幕を開けた。
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