アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第115話 海底に眠る伝説

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 昼になり。僕は作業台のところで昼飯を食べていた。
 たかが何分かの昼飯のために店を閉めるわけにはいかないので、こうして店の中で食事を済ませるのが僕のスタイルなのだ。
 そういうわけで、昼飯はいつも簡単につまめるサンドイッチだ。
 卵の風味が利いたエッグサンドを齧りながら、僕は棚の商品の残り在庫を目で数える。
 ……ハイポーション、減ってきたな。これ食べたら作るか。
 早いところ食事を済ませてしまおうと大口を開けた、その時だった。
「シルカ! 聞いてくれ!」
 大声を上げながら店に入ってくる、見覚えのある男。
 その声量に驚いて、僕は飲み込もうとしていたエッグサンドを喉に詰まらせてしまった。
「……!……!!」
 激しく咳き込んで胸を叩く僕の元に、彼は大股でやって来た。
「シルカ! 大変なことになった! 咳き込んでる場合じゃないぞ!」
「……急に、大声を、出すな!」
 何とかエッグサンドを飲み込んだ僕は、涙目になりながら立ち上がった。
「何の用だ! またダンジョンに行こうとかって話だったらお断りだからな!」
「ダンジョンなんてどうでもいい! それよりも、大変なことが分かったんだよ!」
 ブランは僕の言葉を一蹴して、言った。
「海賊王の宝が……何処にあるかが、分かったぞ!」

 作業台の上に地図を広げるブラン。
 彼が出した地図はガラム地方のものだ。色々と書き込みがされており、随分とくたびれている。
 彼は、地図のある一点を指差した。
「此処に海賊王の宝がある」
「此処って……」
 僕は目を瞬かせた。
 ブランが指差した場所。そこは陸地とは随分離れたところにある、海だった。
「海じゃないか」
「ああ、海だ」
 彼は頷いた。
「此処に海賊王の宝がある」
 先程と全く同じ言葉を口にして、彼は作業台の上に転がっていたペンを手に取った。
 指差していた場所に印を付けて、語り始める。
 何でも、此処には昔小さな島があって、その島には神殿が建っていたらしい。
 何もない神殿なのだが、当時そこには頻繁に神殿を出入りしている人間がいたという。
 しかし、ある時。何が起きたのかは分からないが、その神殿は島ごと海の底に沈んでしまったらしい。
 島を出入りしていた人間が神殿に何かを隠し、それを世間から隠蔽するために島ごと神殿を海に沈めてしまったのだ、という噂があるが、正直なところそれが本当なのかどうかは分かっていない。
 だがこの話を耳にした時、ブランは確信したのだという。その島に出入りしていたのが海賊王で、神殿に隠したものというのが海賊王の宝である、と──
「…………」
 ブランの話を聞き終えた僕は、神妙な顔をして腕を組んだ。
「……一応訊くけど、その神殿とやらに本当に宝があるとして、どうやってその神殿に行く気なんだ?」
「問題はそれなんだ」
 ブランは溜め息をついた。
「泳いで行くことは到底できん。仮に船を借りて島の真上に行ったとしても、潜るには無理のある深さだ」
 そりゃそうだろう。海は何百メートルって深さがあるんだから。
「そこで、だ」
 真面目な顔をして、彼は僕に視線を向けた。
「お前の錬金術でひとつ、海の水を何とかしてもらえんだろうか」
「無茶苦茶だな、あんたは!」
 僕は叫んだ。
「錬金術は万能じゃないんだよ! 海を割るとか水を減らすとか、そんなことできるわけないだろ!」
 厳密に言うと水を操作して形を変化させたりといったことはできるにはできるのだが、海のように規模が大きいとそれを人の魔力でやるには無理があるのだ。
 駄目か……とブランは肩を落とした。
「もう少しなんだがな……せっかくここまで来たのに、諦めるのは惜しい」
「御愁傷様。きっと普通の人間が手を出すんじゃないっていうお告げなんだよ」
 僕ははたきを手に取ってブランの傍を離れた。
 静かになった店内に、ぱたぱたとはたきが振られる音が響く。
 しばしして。ああそうだ、と僕は商品にはたきを掛けながらブランに言った。
「あんたが持ってる謎の金貨。あれの用途が分かったぞ」
「……ほう?」
 僕は彼に、ナナイから聞いた話を話して聞かせた。
 ポーチから出した金貨を見ながら、ふうむと鼻を鳴らすブラン。
「クラシュの森の洞窟……なあ。そんなところに何が封印されてるっていうんだろうな」
「どうせ神殿に行くための方法を見つけない限りは動けないんだし、気晴らしに行ってみたらどうだ? 何かいいものがあるかもしれないぞ」
「そうだな」
 地図を片付けて、ブランは席を立った。
「せっかくだから行ってみることにする。シルカ、お前は──」
「僕は行かないからな」
 ぴしゃりと言い放つと、彼は口を閉ざした。
 こいつ……僕を連れ出す気だったな。危ないところだった。
「……分かった。二人で行ってくる。手に入ったものはちゃんと見せに来るから、楽しみにしてろよ」
「おう」
 彼はじゃあなと簡単な挨拶をして、店から出ていった。
 棚にはたきを掛け終えて、僕は作業台に戻った。
 椅子の脇に置いてある箱から薬草の束と調合の道具一式を取り出して、台の上に並べる。
 さて……ハイポーション作り、始めるとしますかね。
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