アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第121話 海を割る音色

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 それから、更に二時間が過ぎて。
 あの後更に六回も嘔吐してすっかり体力が尽きた頃、船は大海原の中央で進むのをやめた。
 操舵席から離れたブランが、コンパスをこちらに見せながら近付いてくる。
「着いたみたいだぞ」
 コンパスに注目する。
 コンパスの針は、何処を指すこともなくぐるぐると勢い良く回転していた。
 僕は手摺りから身を乗り出して、海を見た。
 そこには、何の変哲もない海面があるばかりだ。
 しかし、コンパスが宝の位置を指し示しているのなら。
 この下に──神殿がある。
「どうやって神殿に行くの? ブランちゃん」
 僕と同じく船の外を見つめながら尋ねるナナイ。
 ブランは少し考えた後、手摺りの外に身を乗り出した。
「泳いでみるか」
「ええ?」
 眉を顰める僕。
 ブランは躊躇うことなく海へと身を投げた。
 どぷん、と小さな水柱が立つ。
 ブランの姿は海中に消えた。
「泳いで神殿を探索するのは大変なような気がしますぅ」
 イオンがかなりもっともなことを言う。
 確かに、泳いで辿り着けるような距離に神殿が沈んでいるとは考えづらいし、仮に神殿に辿り着いたとしてもそこから更に中を探索する分まで息が続くとは思えない。
 幾分もせずに、ぷかり、と海面に浮かぶ灰色の影。
 ブランは首を振りながら、言った。
「駄目だ、何も見えない。結構深いところにあるみたいだ……参ったな」
 ロープを投げてくれ、と言うので、僕は甲板にあったロープを投げてやった。
 それを掴んで甲板に戻ってくるブラン。彼の鎧の継ぎ目から海水が零れて、泳いだ時に中に入り込んだらしい海藻がべろんと顔を覗かせた。
「ブラン、無茶ですよぉ。海は広いんですからぁ」
「むぅ……」
 ブランは海藻を鎧の中から引っこ抜いて船の外に投げ捨てた。
 僕はブランを見ながら考えていた。
 そもそも、どうやって海賊王は島ごと神殿を海に沈めたんだ?
 神殿を海に沈めた方法があるのなら、海の上に引き摺り出す方法もあるはずだ。
 そうでなければ、海賊王も自分で隠した宝を手にできなくなるのだから。
 海賊王は錬金術に長けた人物だった。だからこれもきっと、何らかの形で錬金術が絡んでいるはず。
 錬金術で神殿に封印を施した? 此処ら一帯の海には、何らかの錬金術の力が働いている?
 あるいは……
 ねぇ、とナナイが声を上げた。
「あの楽器は? 宝の在り処に関係した道具なら、この状況を何とかしてくれるかも」
「!……」
 ……そうだ、あの竪琴!
 コンパスと同じように封印されていた道具なんだから、何かしらの力は持ってるはず。
 イオンはマストに引っ掛けていた麻袋を下ろして、中から竪琴と楽譜を取り出して戻ってきた。
 僕はそれらを受け取って、その場に座った。
 膝の上に楽譜を置き、竪琴を構える。
 皆が僕に注目している。
 僕はゆっくりと息を吐いて、竪琴を爪弾いた。

 ♪──

 竪琴の音色が波の音に溶けていく。
 曲を奏で終えると同時に、びゅ、と強い風が吹いた。
 風は大きな波を作り、船を大きく揺らす。
 胃を激しく揺さぶられたような感覚が押し寄せ、思わず僕は口を手で塞いだ。
 これ以上吐くのは御免だ。体力がなくなる。
「うー!?」
「見て! 海が……」
 手摺りに掴まって前方の海を指差すナナイ。

 ──海の水が、渦を巻きながら引いていく。
 さながら、巨大な渦潮が海を割るかのように。
 遥か下にある海底が露わになり、水に包まれていた建物が姿を覗かせた。
 紛れもない、それは──海に沈められた神殿であった。

「よく気付いたな、ナナイ!」
 ブランがナナイの背中をばんと叩いた。
 ナナイは指で頬を掻きながら、笑った。
「たまたまだよ。ナナイは思いついたことを言っただけだから」
「これで神殿に入れますねぇ」
「そうだな、よし、早速神殿に向かうぞ!」
 ブランは意気揚々と操舵席に向かった。
 船を動かして、巨大な傾斜を少しずつ下りていく。
 海底に着いたところで船を止め、彼はロープを伝ってさっさと船の外に下りていった。
「ああもう、ブラン、先に行かないで下さいよぉ」
 イオンが慌てて幻獣を呼び出す。
 確かにこの船をロープ一本で乗り降りするのは、体力のあるブランにとっては楽なことかもしれないが、魔術師のイオンや一般人の僕には少々きつい。
 僕たち三人は幻獣に乗って、ブランの後を追った。
 いよいよ海賊王の宝と対面か……一体どれほどの財宝が、この中には眠っているんだろう。
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