アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第127話 小さな錬金術師

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「ありがとう、マスター」
「気を付けてな」
 心なしか、外を吹く風が肌に冷たくなってきたなと感じるようになった午後のひと時。
 僕はいつものように、店に訪れる客たちに僕自慢の商品を販売していた。
 温かそうな毛皮を着ているシルバーも多少は肌寒く感じるのか、今までは作業台の傍で寝ていたのが僕の足下で丸くなっている。
 そろそろ、店の中を火の魔石で温める時期かなぁ。
 魔石とは、その名の通り魔力を秘めた石だ。色々な種類があって、部屋を温めたり逆に涼しくしたり、水の設備を整えてくれたり、色々と生活の助けになってくれるのだ。決して安価なものではないが、生活必需品として一般人の暮らしとは切っても切れない関係にある品なのである。
 僕の店にも、火の魔石や水の魔石といった日々の暮らしに役立つ魔石は置いてある。僕の店に来る一般人の客の大半は、魔石を買いに来る客なのだ。
 少し入口の戸を狭めておくか。風が吹き込まなければ多少は暖かいだろうし。
 そう思い、カウンターの外に出た、その時。
 一人の少女が、息を切らしながら店の中に入ってきた。
 歳は……多分、十歳くらいだろう。ごく一般的なデザインのチュニックを着て、肩から大きな麻の鞄を下げた、金の髪の小柄な子供である。
 親に頼まれてお使いに来た子供だろうか。
 僕はカウンターに戻り、少女に声を掛けた。
「いらっしゃい」
「……ああ、やっと会えました! 師匠!」
 少女は僕を見て声を上げると、小走りでカウンターの前までやって来た。
 ……師匠?
 僕は周囲を見回した。
 今、この店には僕と少女しかいない。彼女の言葉が僕に向けられたものであることは、間違いがなさそうだった。
「わたし……感激です! こうして師匠とお話ができるなんて!」
「……ちょ、ちょっと待って」
 僕は困惑した顔で少女に目を向けた。
「君、誰? 師匠って何? 誰かと勘違いしてない?」
「勘違いしてません! 貴方はシルカ・アベルフォーンさんですよね!」
 元気な声で少女が答える。
 彼女はがばっと体を二つ折りにして、名乗った。
「わたし、ラフィナといいます。一人前の錬金術師を目指して修行しています!」
 へぇ……こんなに幼いのに錬金術が使えるのか。
 ラフィナちゃんは顔を上げると、僕の傍に一歩近付いて、言った。
「お願いします、わたしを弟子にして下さい!」
「……へ?」
 僕は目を瞬かせた。
 きらきらしているラフィナちゃんの目を見て、今の言葉が彼女の本気の言葉であることを悟り、何だか気まずくなってそっと目を逸らす。
 いきなり弟子にしてくれって……最近の子供は物怖じしないというか、遠慮というものを知らないのだろうか。
「弟子に……って、僕はただのよろず屋の店主だし、此処は学校でもないんだけど」
「わたし、どうしても一人前の錬金術師になりたいんです! 師匠はこの街で一番の錬金術師だってお伺いしました! お願いします!」
 ……僕は錬金術師としてそこそこ名が知られているという自覚はあるが、それがこんな子供にまで知られているとは思ってもいなかった。
 これは……ちょっと厄介なことになりそうだ。
 僕をひたむきな目で見つめているラフィナちゃんに再度目を向けて、僕は小さく溜め息をついたのだった。
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