アメミヤのよろず屋

高柳神羅

文字の大きさ
127 / 176

第127話 小さな錬金術師

しおりを挟む
「ありがとう、マスター」
「気を付けてな」
 心なしか、外を吹く風が肌に冷たくなってきたなと感じるようになった午後のひと時。
 僕はいつものように、店に訪れる客たちに僕自慢の商品を販売していた。
 温かそうな毛皮を着ているシルバーも多少は肌寒く感じるのか、今までは作業台の傍で寝ていたのが僕の足下で丸くなっている。
 そろそろ、店の中を火の魔石で温める時期かなぁ。
 魔石とは、その名の通り魔力を秘めた石だ。色々な種類があって、部屋を温めたり逆に涼しくしたり、水の設備を整えてくれたり、色々と生活の助けになってくれるのだ。決して安価なものではないが、生活必需品として一般人の暮らしとは切っても切れない関係にある品なのである。
 僕の店にも、火の魔石や水の魔石といった日々の暮らしに役立つ魔石は置いてある。僕の店に来る一般人の客の大半は、魔石を買いに来る客なのだ。
 少し入口の戸を狭めておくか。風が吹き込まなければ多少は暖かいだろうし。
 そう思い、カウンターの外に出た、その時。
 一人の少女が、息を切らしながら店の中に入ってきた。
 歳は……多分、十歳くらいだろう。ごく一般的なデザインのチュニックを着て、肩から大きな麻の鞄を下げた、金の髪の小柄な子供である。
 親に頼まれてお使いに来た子供だろうか。
 僕はカウンターに戻り、少女に声を掛けた。
「いらっしゃい」
「……ああ、やっと会えました! 師匠!」
 少女は僕を見て声を上げると、小走りでカウンターの前までやって来た。
 ……師匠?
 僕は周囲を見回した。
 今、この店には僕と少女しかいない。彼女の言葉が僕に向けられたものであることは、間違いがなさそうだった。
「わたし……感激です! こうして師匠とお話ができるなんて!」
「……ちょ、ちょっと待って」
 僕は困惑した顔で少女に目を向けた。
「君、誰? 師匠って何? 誰かと勘違いしてない?」
「勘違いしてません! 貴方はシルカ・アベルフォーンさんですよね!」
 元気な声で少女が答える。
 彼女はがばっと体を二つ折りにして、名乗った。
「わたし、ラフィナといいます。一人前の錬金術師を目指して修行しています!」
 へぇ……こんなに幼いのに錬金術が使えるのか。
 ラフィナちゃんは顔を上げると、僕の傍に一歩近付いて、言った。
「お願いします、わたしを弟子にして下さい!」
「……へ?」
 僕は目を瞬かせた。
 きらきらしているラフィナちゃんの目を見て、今の言葉が彼女の本気の言葉であることを悟り、何だか気まずくなってそっと目を逸らす。
 いきなり弟子にしてくれって……最近の子供は物怖じしないというか、遠慮というものを知らないのだろうか。
「弟子に……って、僕はただのよろず屋の店主だし、此処は学校でもないんだけど」
「わたし、どうしても一人前の錬金術師になりたいんです! 師匠はこの街で一番の錬金術師だってお伺いしました! お願いします!」
 ……僕は錬金術師としてそこそこ名が知られているという自覚はあるが、それがこんな子供にまで知られているとは思ってもいなかった。
 これは……ちょっと厄介なことになりそうだ。
 僕をひたむきな目で見つめているラフィナちゃんに再度目を向けて、僕は小さく溜め息をついたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ファンタジー
シヴァリー(Chivalry)、それは主に騎士道を指し、時に武士道としても使われる言葉である。騎士道と武士道、両者はどこか似ている。強い精神をその根底に感じる。だが、士道は魔法使いが支配する世界でも通用するのだろうか? これは魔法というものが絶対的な価値を持つ理不尽な世界で、士道を歩んだ者達の物語であり、その中でもアランという男の生き様に主眼を置いた大器晩成なる物語である。(他サイトとの重複投稿です。また、画像は全て配布サイトの規約に従って使用しています)

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星
ファンタジー
世界を救った勇者、彼はその力を危険視され、仲間に殺されてしまう。無念のうちに命を散らした男ロア、彼が目を覚ますと、なんと過去に戻っていた! もうあんなヘマはしない、そう誓ったロアは、二度目の人生を穏やかに過ごすことを決意する! とはいえ世界を救う使命からは逃れられないので、世界を救った後にひっそりと暮らすことにします。勇者としてとんでもない力を手に入れた男が、死の原因を回避するために苦心する! ロアが死に戻りしたのは、いったいなぜなのか……一度目の人生との分岐点、その先でロアは果たして、穏やかに過ごすことが出来るのだろうか? 過去へ戻った勇者の、ひっそり冒険談 小説家になろうでも連載しています!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

【完結】悪の尋問令嬢、″捨てられ王子″の妻になる。

Y(ワイ)
ファンタジー
尋問を生業にする侯爵家に婿入りしたのは、恋愛戦略に敗れた腹黒王子。 白い結婚から始まる、腹黒VS腹黒の執着恋愛コメディ(シリアス有り)です。

処理中です...