アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第126話 後悔しない生き方を

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「……海賊王の宝が、まさかあんな代物だったとはな」
 アメミヤに戻ってきた僕たちは、いつものように僕の店で作業台の周囲を占領して話をしていた。
 ブランは神妙な顔をして、作業台を見つめている。
 その様子には、いつもの元気は感じられない。
「あんな宝は御免だ。俺たちが求めているようなモノじゃない」
「不死の秘術って言いますけど、あれはただの怪物になる呪術ですぅ。そんなものを世に出しても、みんなは喜ばないと思いますぅ」
 二人の話を横で聞きながら、僕は棚にポーションを補充していた。
 今の僕は、何かしていた方が気が落ち着く。黙って二人の話を聞くことはできそうにない。
 は、と短く息を吐いて、ブランは腕を組んだ。
「この話は俺たちだけの秘密だな。海賊王の宝は一攫千金を狙える宝だったって、夢のままにしておこうぜ。その方が余程皆の役に立つってもんだ」
「そうですねぇ」
 そこで、会話が途切れる。
 二人の視線は、いつの間にか僕の方へと向いていた。
「……シルカさん」
 先に沈黙を破ったのはイオン。
 彼女は珍しく真面目な顔をして、言った。
「ナナイさんは……最後の瞬間まで、笑っていましたぁ。シルカさんにお願いを聞いてもらえて、きっと幸せだったんじゃないかって思いますぅ。……だから、シルカさんがナナイさんを手にかけたことを悔やむ必要はありませんよぉ」
「……冒険者は、いつ何処で死んでもおかしくない人間だ」
 イオンの言葉に続けるブラン。
「ナナイは、自分の最期にお前に殺してもらうことを選んだ。俺でも、イオンでもなくな。お前はその頼みを聞いてやっただけだ。お前は、仲間として立派にその役目を果たしたんだよ」
「……僕は」
 僕は棚にポーションを置く手を止めて、小さく応えた。
「僕は、分からない……何のために、僕は生きてるのか。僕の魔術の力は、何のためにあるのか」
 自分の掌を見下ろす。
 僕の手は、皮が薄い、よろず屋の店主らしい手をしていた。
 でも、綺麗に見えるこの手は、実は血にまみれていて──
 そんな手で、よろず屋の店主を務めていていいのかと、思った。
「妹を殺して……ナナイまで殺して……何でなんだろうな。人を助けるために使う力だって信じてたのに、いざ蓋を開けてみたら、何かを殺してばかりで」
「……シルカ」
「……僕は、誰とも関わっちゃいけないのかもしれないな」
「シルカ!」
 がたん、とブランが席を立つ。
 彼はまっすぐに僕の元まで歩いてくると、肩を掴んで強引に彼の方を向かせ、右手を勢い良く振り抜いた。
 ぱんっ!
 彼の大きな掌が僕の頬をはたく。
 僕は叩かれた頬を押さえて、目を丸くしてブランを見た。
「お前がそんな顔をしてる限り、ナナイはいつまで経っても浮かばれないんだよ! 仲間を笑顔で見送るのが冒険者の務めだ! お前も元冒険者なら、それくらい理解しろ!」
 ブランが怒る姿に、アラグの姿が重なった。
 いつかも、アラグは同じように僕の頬を叩いて怒ってたっけ──
 根の深いところでよく似てるよ、この兄弟は。
「ナナイの分まで、お前は生きるんだ! それがお前の役割だ! いつまでも腐るな! 次に同じ台詞を吐いてみろ、俺がぶっとばしてやるからな!」
「…………」
 此処で……生きる。ナナイの分まで。
 それが彼女にとっての供養になるのなら。それが僕の役割だというのなら。
 生きよう。僕らしく、一生懸命に。
 世の平穏を願って、此処で、よろず屋の店主として暮らしていくんだ。
「……痛いよ」
 僕は呟いて、叩かれた頬を撫でた。
「本気でやったな、冒険者が一般人に手を上げていいのかよ」
「何が一般人だ、灰燼の魔術師が」
 ふん、と肩を竦めるブラン。
 への字に結ばれた唇が、ふっと緩む。
「何もナナイの代わりに冒険をしろって言ってるわけじゃない。お前はお前らしく生きればいいんだ。それで十分さ」
「そうですねぇ。シルカさんはこのお店で働いてる方がシルカさんらしいって感じがしますぅ」
 イオンは微笑みながら店内を見回した。
「シルカさんは、これからもこのお店で笑顔でお勤めして下さぁい。私たちも、時々はこのお店に来ますからぁ」
「そうだな。買うものがなくてもたまにはこの店に顔を出してやるよ」
 ブランは僕の肩をぽんと叩いた。
「だから、絶対にこの店潰すなよ。意地でも守り抜け。分かったな」
「……言われなくたってそのつもりだよ」
 僕は笑った。
 それを見たブランも控え目に笑いを零す。
 それを見守るイオンは、嬉しそうに小さく拍手をしていた。
 よろず屋の中の平穏な時間は、そうしてゆっくりと過ぎていった。

 僕が人殺しだという事実は生涯雪げないことだけど。
 それでも、その事実からは顔を反らさずに生きていくと僕は決めた。
 大事なのは過去を振り返ることじゃなくて、過去を踏み台に未来をどう生きていくかなのだ。
 結果として、満足のいく生き方ができたのなら──
 その人生は、過去の汚名も含めて成功したものなんだろうと、思う。
 そういう人生になるように、これからも、此処で穏やかに暮らしていこう。よろず屋の店主として。
 ……それでも、僕の錬金術の力を当てにしてこの店に来る冒険者は後を断たないんだろうなぁ。
 名が売れるのも困りものだ、と胸中で溜め息をつきながら、僕は店の入口をそっと閉じたのだった。
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