アメミヤのよろず屋

高柳神羅

文字の大きさ
132 / 176

第132話 小さな弟子の大きな決意

しおりを挟む
 自室にて。僕は黙々と、明日ダンジョン調査に着て行くローブの準備をしていた。
 台所から、夕飯を作っているラフィナの鼻歌が聞こえてくる。
 全く……ラフィナのせいでとんでもないことになった。
 怒ってやろうかとも思ったが、怒ったところで状況が変わるわけでもないので、そこは我慢した。
 それに万が一泣かれでもしたら、僕が彼女を苛めているなんて変な噂が立つかもしれないし……
 それにしても、明日のダンジョン調査。
 ラフィナも行くって言ってたけど、彼女はダンジョンが危険な場所だって理解してないのだろうか。
 いくら冒険者たちが護衛してくれるとはいっても、魔物と相対するのは少なからず恐怖を感じることだと思うんだけど。
 ……僕が臆病なだけなのかな。
 そう思うと、ちょっぴり自分が情けなくなった。
「師匠、食事ができました」
「あ……うん。ありがとう」
 ローブをハンガーに吊るして壁に掛けて、リビングに向かう。
 夕飯のメニューはロールキャベツだった。キャベツが良い色をしていて実に美味そうな一品だ。
 僕も今まで一人暮らしをしていた身だから料理はそこそこできる方だが、ここまで手の込んだ料理を作ることはない。
 腹が膨れればいいやって考え方だったから、どうしても簡単な男の料理になっちゃうんだよね。
「相変わらず料理が上手いね」
「これでもお屋敷で働いていたことがあるので、料理の腕には自信があります」
 えへんと胸を張るラフィナ。
 僕はラフィナからフォークを受け取って、席に着いた。
「それじゃあ、いただきます」
「いただきまーす」
 フォークでロールキャベツに切れ目を入れる。
 さくりとキャベツが裂けて、中から汁が溢れる肉が顔を覗かせた。
 よく見ると、肉の中に細かく刻んだ野菜が入っている。
 野菜を入れて具をかさ増ししたのか。よく考えてるなぁ。
 一口サイズにロールキャベツを切り分けて、口へと運ぶ。
 キャベツの甘味と肉の旨味が絶妙なバランスで互いを引き立て合っている。これは次々と頬張りたくなる美味さだ。
 ロールキャベツを食べながら、僕はラフィナに尋ねた。
「明日……本気で付いて来るつもりなの?」
「はい! 何処までも師匠にお供するつもりです!」
 口の中のものを飲み込んで返事するラフィナ。
 僕は小さな溜め息をついて、言った。
「あのね、ダンジョンは危険な場所なんだよ。いくら冒険者さんが守ってくれるといっても、絶対に危険がないわけじゃないんだ。分かってる?」
「それは、分かってます。冒険者だった両親から、色々聞いているので」
 でも、と彼女は言った。
「世界を渡り歩く錬金術師になるために、色々な経験をしたいんです。ダンジョンで活躍する師匠を見て、ダンジョンで錬金術師が働くにはどうすればいいのかを学びたいんです」
 ……本当に、勉強熱心だね。この子は。
 学ぶために危険な場所にも行こうとする、そのやる気と熱意には脱帽するよ。
 そこまで言うのなら、僕もこれ以上は言わないことにしておこう。
 彼女の本気がどれほどのものなのか、見せてもらおうじゃないか。
「……分かった。ラフィナがそれだけの決意を持ってるのなら、僕はこれ以上は言わないでおく。自分の行動にしっかり責任を持って、学びたいことを学びなさい」
「はい!」
 彼女は僕の言葉に嬉しそうに返事をして、大きな口でロールキャベツを頬張った。
 調査で僕がどれだけ役に立つかは分からないけど、錬金術師として働いている姿をしっかりと彼女に見せよう。
 明日は自分なりに頑張ろう、と小さく決意して、僕はロールキャベツを口に運んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ファンタジー
シヴァリー(Chivalry)、それは主に騎士道を指し、時に武士道としても使われる言葉である。騎士道と武士道、両者はどこか似ている。強い精神をその根底に感じる。だが、士道は魔法使いが支配する世界でも通用するのだろうか? これは魔法というものが絶対的な価値を持つ理不尽な世界で、士道を歩んだ者達の物語であり、その中でもアランという男の生き様に主眼を置いた大器晩成なる物語である。(他サイトとの重複投稿です。また、画像は全て配布サイトの規約に従って使用しています)

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星
ファンタジー
世界を救った勇者、彼はその力を危険視され、仲間に殺されてしまう。無念のうちに命を散らした男ロア、彼が目を覚ますと、なんと過去に戻っていた! もうあんなヘマはしない、そう誓ったロアは、二度目の人生を穏やかに過ごすことを決意する! とはいえ世界を救う使命からは逃れられないので、世界を救った後にひっそりと暮らすことにします。勇者としてとんでもない力を手に入れた男が、死の原因を回避するために苦心する! ロアが死に戻りしたのは、いったいなぜなのか……一度目の人生との分岐点、その先でロアは果たして、穏やかに過ごすことが出来るのだろうか? 過去へ戻った勇者の、ひっそり冒険談 小説家になろうでも連載しています!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

【完結】悪の尋問令嬢、″捨てられ王子″の妻になる。

Y(ワイ)
ファンタジー
尋問を生業にする侯爵家に婿入りしたのは、恋愛戦略に敗れた腹黒王子。 白い結婚から始まる、腹黒VS腹黒の執着恋愛コメディ(シリアス有り)です。

処理中です...