アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第131話 断れなかった

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 地震があった日の翌日。
 その日も朝から多くの冒険者たちで店は賑わっていた。
 ポーション。ハイポーション。毒消し薬。トラッパー。
 冒険には必需品の雑貨がよく売れていく。
 お陰で僕は作業台に張り付いて商品を作り続け、会計はラフィナに任せるといった状態だ。
 ラフィナは普段僕がやっていることをよく見ているためか、特に勘定について教えなくても問題なく金銭の遣り取りができていた。
 こういう時、人手があるというのは助かるよ。今までは一人で全部やっていたから、手が回らなくなることが結構あって困ってたんだよな。
 今日はこの調子でばりばり働くぞ。
 僕がそう心に決めた、それと同時だった。
「邪魔するぞ、シルカ」
 ギルベルトさんが、大きな紙筒を片手に店にやって来た。
 後ろに、二人の冒険者らしき男女を連れている。
「こんにちは、ギルベルトさん」
 僕は作業の手を止めて彼の方に顔を向けた。
 ギルベルトさんはカウンターに立っているラフィナを見て、目を瞬かせた。
「シルカ、人を雇ったのか?」
「あー、その子は……」
「わたしは、師匠の弟子です!」
 ラフィナが元気の良い声でギルベルトさんの疑問に答えた。
 弟子、の一言にますます怪訝そうな顔をするギルベルトさんに、僕はラフィナを錬金術師の弟子に取ったことを話した。
 ほう、と彼が顎に手を当てながら笑う。
「そうか、お前さんに錬金術師の弟子ができるとはな。この街に錬金術師が増えるのは冒険者ギルドとしても有難いことだ」
 勉強頑張るんだぞ、とラフィナに声を掛けて、ギルベルトさんは僕の元に来た。
 手にした紙筒を広げながら、一転して真面目な顔をして話し始める。
「その錬金術師のお前さんに頼みがあるんだが、いいか?」
「何ですか?」
 僕はラフィナに店番を頼んで、ギルベルトさんに空いている椅子を勧めた。
 ギルベルトさんは椅子に座り、作業台の上に広げた羊皮紙を置いた。
 これは……地図だ。それも、アメミヤの森の。
 アメミヤの森は人の出入りがそこそこある上に街から近い場所にあるので、森に行った人が迷ったりしないように地図が作られているのである。
 地図には、ある一点に印が付けられていた。
「昨日、大きな地震があったのは知ってるよな」
「ええ、まあ」
「その時にダンジョンができたらしくてな、ついさっき、森の中に入口ができてるのが発見されたんだ」
 やっぱりできてたか、ダンジョン。
 それも、街の目と鼻の先とは。
 しばらくはダンジョンに行く冒険者で店も冒険者ギルドも賑わいそうだな。
 ギルベルトさんは後ろに立っている冒険者たちの方を見た。
「この二人がダンジョンの発見者でな。ダンジョンの危険度がどの程度なのかを調べるために、彼らにダンジョンの調査を依頼したんだ」
 冒険者たちが軽く会釈をする。
「冒険者ギルドとしては、街に危険がないかどうかを知るためにダンジョンの詳細な情報を手に入れたいところなんだ。……そこで、だ」
 ギルベルトさんは僕の方に顔の向きを戻して、言った。
「お前さんに、錬金術師として調査に加わってもらいたいんだ」
「…………」
 やっぱりこう来たか。
 僕は顔を背けて、眉間に皺を寄せた。
 ダンジョンの詳細な情報を手に入れる──つまりそれは、ダンジョンを細部まで調査するということに他ならない。
 明らかに行き止まりと思われる場所にも足を運び、生息する魔物の情報を集めて、最深部まで行く。そういう仕事をするのである。
 調査隊は基本的に体を張る前衛と魔術師、そして地形の問題を解決するための人員として錬金術師を加えたメンバーで組まれる。どんな問題にも対処できる構成でパーティが作られるのだ。
 ……まさか近場にダンジョンができたせいで、冒険者ギルドが調査隊を組むとはね……
 ひょっとしたら冒険者がダンジョンに誘いに来るかもしれない、とは薄々思っていたが、これは予想外である。
 僕はこめかみをがりがりと掻いて、言った。
「……僕には店のことがあるから、できれば遠慮したいんですけど……」
「正式な依頼として冒険者ギルドから依頼料を払う。そこを何とか、頼む」
 ギルベルトさんは引かない。
 彼としては、何としてもダンジョンの情報を手に入れたいのだろう。
 ひとまず冒険者だけで調査に行ってもらうというのは駄目なのだろうか?
 錬金術師が調査に必要だというのは分かるが、そのために一般人をダンジョンに送り込むのは勘弁して頂きたい。
 ダンジョン効果でせっかく店が繁盛しそうなのに、それを逃すのももったいないし。
 ここは何としても断るぞ。意地でも店から動くものか。
「……すみませんが、お断り……」
「師匠は凄腕の錬金術師です! 師匠の手にかかれば調査なんて簡単にできますよ!」
 僕の声を遮って、ラフィナの声が店内に響いた。
 ラフィナはカウンターから抜け出してくると、こちらに駆け寄りながら力の篭った言葉を言った。
「師匠、ダンジョンに行きましょう! わたしもお供します、師匠がダンジョンで活躍するところを是非ともこの目で見たいです!」
「……ちょっと!?」
 僕は素っ頓狂な声を上げて席を立った。
 ラフィナはまっすぐに僕を見つめている。
 ギルベルトさんは一瞬だけラフィナの方を見て、笑顔を浮かべた。
「そうか、引き受けてくれるか!」
「えっ、ちょ、今のは……」
 狼狽する僕。
 ギルベルトさんは地図を片付けて、立ち上がった。
「早速明日、調査に向かってくれ。必要な物資は冒険者ギルドの方で用意するから心配しなくていい。それじゃあ、頼んだぞ」
「…………」
 彼は冒険者たちを連れて冒険者ギルドに帰っていった。
 僕は呆然とその場に立ち尽くした。
「師匠、頑張りましょうね!」
 ラフィナが何かを期待するような眼差しを僕へと向けている。
 ……断る隙もなかった。
 もう、何でこんなことになっちゃうんだよー!
 叫びたい心境をぐっと堪えて、僕は特大の溜め息をつき髪をぐしゃりと握り潰したのだった。
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