134 / 176
第134話 手抜きじゃない
しおりを挟む
セイルさんの言葉通り、奥に進もうとする僕たちの前に何匹も魔物が現れ、行く手を遮った。
今も、一メートルほどの大きさの黒い蟻の魔物──キラーアントが、鋭い顎をがちがちとさせながら僕たちを威嚇している。
セイルさんとソフィアさんは協力して、魔物をどんどん屠っていった。
「ファイアボール!」
ソフィアさんが放った魔術が、キラーアントの胴体を吹き飛ばす!
頭だけになったキラーアントは、ごろりと転がって動かなくなった。
「グランドモールにフォレストアイビーにキラーアント……このダンジョンには小型の魔物が多いな」
セイルさんはキラーアントの頭に歩み寄り、剣で顎を切り取った。
キラーアントの顎は素材になる。固くて丈夫なのでナイフなんかを作るのに適しているのだ。
切り取った顎を背負っているバックパックに詰めて、通路の先を見る。
「もう少し大型の魔物がいると狩り甲斐があるんだけどな」
「やめて。物騒なことを言わないでよ」
僕は半眼になった。
そんな大きな魔物に暴れられたら、こんな土が剥き出しの通路なんてあっという間に崩れちゃうっての。
バックパックを背負い直し、セイルさんは歩みを再開する。
それに付いていく僕たち。
しかし、その歩みはすぐに止まった。
崩れた壁が道を塞いでいたのだ。
土砂の隙間から、通路が更に奥に続いているのが見える。
溜め息をつくセイルさん。
「……穴を掘る魔物がいるからな。無理もないか」
どうやら彼は、壁が崩れた原因をグランドモールやキラーアントの穴掘りだと考えているようだ。
ソフィアさんは土砂に近付いて土の具合を確認した後、僕の方を向いた。
「これ、錬金術で何とかできない?」
「できるよ」
錬金術の出番か。
僕はソフィアさんの言葉に頷いて、前に出た。
土砂に軽く手を触れ、土の具合を見る。
土は……それなりに固さがある。ちゃんと固めてやれば、再び崩れるといったことはないだろう。
僕は壁に土を押し付けるようなイメージを脳内に描き、土砂に両手を触れた。
ばしっ!
僕の魔力を浴びた土砂が、時間を逆回しにしたかのように壁へと移動していく。
崩れた箇所を埋めるように壁に張り付いて、一分も経たぬうちに本来の形に戻った。
ラフィナが拍手をした。
「流石師匠です! 壁を元通りにするなんて!」
「元通りにしたわけじゃないよ。これはあくまで応急処置だから」
固まった壁に手を押し当てて固さを確認しながら、僕は言った。
「本来の壁の固さよりは柔らかいから、水分を含んだりしたら多分また崩れる。そればかりはどうしようもないな」
もっとしっかり固めればそういうこともないのだろうが、今はとりあえず通路が通れるようになればいいので、応急処置程度の固め方で十分なのだ。
手抜き、と言うなかれ。魔力を温存しているのだ。
僕はセイルさんに言った。
「魔物が来る前に、先に行こう。此処で戦闘なんてしたらまた崩れるよ」
「分かった」
セイルさんは頷いた。
「進もう」
綺麗になった道を通って、僕たちは先へと進んだ。
今も、一メートルほどの大きさの黒い蟻の魔物──キラーアントが、鋭い顎をがちがちとさせながら僕たちを威嚇している。
セイルさんとソフィアさんは協力して、魔物をどんどん屠っていった。
「ファイアボール!」
ソフィアさんが放った魔術が、キラーアントの胴体を吹き飛ばす!
頭だけになったキラーアントは、ごろりと転がって動かなくなった。
「グランドモールにフォレストアイビーにキラーアント……このダンジョンには小型の魔物が多いな」
セイルさんはキラーアントの頭に歩み寄り、剣で顎を切り取った。
キラーアントの顎は素材になる。固くて丈夫なのでナイフなんかを作るのに適しているのだ。
切り取った顎を背負っているバックパックに詰めて、通路の先を見る。
「もう少し大型の魔物がいると狩り甲斐があるんだけどな」
「やめて。物騒なことを言わないでよ」
僕は半眼になった。
そんな大きな魔物に暴れられたら、こんな土が剥き出しの通路なんてあっという間に崩れちゃうっての。
バックパックを背負い直し、セイルさんは歩みを再開する。
それに付いていく僕たち。
しかし、その歩みはすぐに止まった。
崩れた壁が道を塞いでいたのだ。
土砂の隙間から、通路が更に奥に続いているのが見える。
溜め息をつくセイルさん。
「……穴を掘る魔物がいるからな。無理もないか」
どうやら彼は、壁が崩れた原因をグランドモールやキラーアントの穴掘りだと考えているようだ。
ソフィアさんは土砂に近付いて土の具合を確認した後、僕の方を向いた。
「これ、錬金術で何とかできない?」
「できるよ」
錬金術の出番か。
僕はソフィアさんの言葉に頷いて、前に出た。
土砂に軽く手を触れ、土の具合を見る。
土は……それなりに固さがある。ちゃんと固めてやれば、再び崩れるといったことはないだろう。
僕は壁に土を押し付けるようなイメージを脳内に描き、土砂に両手を触れた。
ばしっ!
僕の魔力を浴びた土砂が、時間を逆回しにしたかのように壁へと移動していく。
崩れた箇所を埋めるように壁に張り付いて、一分も経たぬうちに本来の形に戻った。
ラフィナが拍手をした。
「流石師匠です! 壁を元通りにするなんて!」
「元通りにしたわけじゃないよ。これはあくまで応急処置だから」
固まった壁に手を押し当てて固さを確認しながら、僕は言った。
「本来の壁の固さよりは柔らかいから、水分を含んだりしたら多分また崩れる。そればかりはどうしようもないな」
もっとしっかり固めればそういうこともないのだろうが、今はとりあえず通路が通れるようになればいいので、応急処置程度の固め方で十分なのだ。
手抜き、と言うなかれ。魔力を温存しているのだ。
僕はセイルさんに言った。
「魔物が来る前に、先に行こう。此処で戦闘なんてしたらまた崩れるよ」
「分かった」
セイルさんは頷いた。
「進もう」
綺麗になった道を通って、僕たちは先へと進んだ。
0
あなたにおすすめの小説
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
女王ララの再建録 〜前世は主婦、今は王国の希望〜
香樹 詩
ファンタジー
13歳で“前世の記憶”を思い出したララ。
――前世の彼女は、家庭を守る“お母さん”だった。
そして今、王女として目の前にあるのは、
火の車の国家予算、癖者ぞろいの王宮、そして資源不足の魔鉱石《ビス》。
「これ……完全に、家計の立て直し案件よね」
頼れない兄王太子に代わって、
家計感覚と前世の知恵を武器に、ララは“王国の再建”に乗り出す!
まだ魔法が当たり前ではないこの国で、
新たな時代を切り拓く、小さな勇気と現実的な戦略の物語。
怒れば母、語れば姉、決断すれば君主。
異色の“王女ララの再建録”、いま幕を開けます!
*カクヨムにも投稿しています。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる