アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第134話 手抜きじゃない

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 セイルさんの言葉通り、奥に進もうとする僕たちの前に何匹も魔物が現れ、行く手を遮った。
 今も、一メートルほどの大きさの黒い蟻の魔物──キラーアントが、鋭い顎をがちがちとさせながら僕たちを威嚇している。
 セイルさんとソフィアさんは協力して、魔物をどんどん屠っていった。
「ファイアボール!」
 ソフィアさんが放った魔術が、キラーアントの胴体を吹き飛ばす!
 頭だけになったキラーアントは、ごろりと転がって動かなくなった。
「グランドモールにフォレストアイビーにキラーアント……このダンジョンには小型の魔物が多いな」
 セイルさんはキラーアントの頭に歩み寄り、剣で顎を切り取った。
 キラーアントの顎は素材になる。固くて丈夫なのでナイフなんかを作るのに適しているのだ。
 切り取った顎を背負っているバックパックに詰めて、通路の先を見る。
「もう少し大型の魔物がいると狩り甲斐があるんだけどな」
「やめて。物騒なことを言わないでよ」
 僕は半眼になった。
 そんな大きな魔物に暴れられたら、こんな土が剥き出しの通路なんてあっという間に崩れちゃうっての。
 バックパックを背負い直し、セイルさんは歩みを再開する。
 それに付いていく僕たち。
 しかし、その歩みはすぐに止まった。
 崩れた壁が道を塞いでいたのだ。
 土砂の隙間から、通路が更に奥に続いているのが見える。
 溜め息をつくセイルさん。
「……穴を掘る魔物がいるからな。無理もないか」
 どうやら彼は、壁が崩れた原因をグランドモールやキラーアントの穴掘りだと考えているようだ。
 ソフィアさんは土砂に近付いて土の具合を確認した後、僕の方を向いた。
「これ、錬金術で何とかできない?」
「できるよ」
 錬金術の出番か。
 僕はソフィアさんの言葉に頷いて、前に出た。
 土砂に軽く手を触れ、土の具合を見る。
 土は……それなりに固さがある。ちゃんと固めてやれば、再び崩れるといったことはないだろう。
 僕は壁に土を押し付けるようなイメージを脳内に描き、土砂に両手を触れた。
 ばしっ!
 僕の魔力を浴びた土砂が、時間を逆回しにしたかのように壁へと移動していく。
 崩れた箇所を埋めるように壁に張り付いて、一分も経たぬうちに本来の形に戻った。
 ラフィナが拍手をした。
「流石師匠です! 壁を元通りにするなんて!」
「元通りにしたわけじゃないよ。これはあくまで応急処置だから」
 固まった壁に手を押し当てて固さを確認しながら、僕は言った。
「本来の壁の固さよりは柔らかいから、水分を含んだりしたら多分また崩れる。そればかりはどうしようもないな」
 もっとしっかり固めればそういうこともないのだろうが、今はとりあえず通路が通れるようになればいいので、応急処置程度の固め方で十分なのだ。
 手抜き、と言うなかれ。魔力を温存しているのだ。
 僕はセイルさんに言った。
「魔物が来る前に、先に行こう。此処で戦闘なんてしたらまた崩れるよ」
「分かった」
 セイルさんは頷いた。
「進もう」
 綺麗になった道を通って、僕たちは先へと進んだ。
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