アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第136話 師匠として

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 ポイズンスパイダー。森や洞窟なんかに生息する蜘蛛の魔物だ。
 名前が示す通り、毒を持っている。強力な麻痺毒で、咬まれるとあっという間に毒が全身に回り、麻痺して動けなくなる。そうして動けなくなった獲物を餌にするのだ。
 無論、厄介なのは毒だけではない。吐き出す糸にも動きを鈍らせる力があるので注意が必要だ。
 糸は火に弱いので焼いてしまえば良いのだが、セイルさんたちの魔力も無限にあるわけではない。そこかしこに糸を吐かれて追い詰められる前に仕留めなければならない。
 とはいえ、セイルさんたちも数々の困難を乗り越えてきた冒険者だ。ポイズンスパイダー一匹に後れを取ることはなかった。
 びゅっ──
 ポイズンスパイダーが腹から吐き出した糸を避けて、ポイズンスパイダーの背後に回るソフィアさん。
 両手に持った短剣を、ポイズンスパイダーの腹めがけて突き落とす!
 どがっ、と短剣がポイズンスパイダーの腹に突き刺さり、体液が零れる。
 痛みを感じるのか、ポイズンスパイダーが脚をばたばたと動かして暴れた。
 そこに剣を振り下ろすセイルさん。彼が振るった剣は、ポイズンスパイダーの頭を斬り付けた!
 頭が胴から離れて、落ちる。しかしポイズンスパイダーは動くのをやめない。
 これだから昆虫系の魔物は嫌いなのだ。すぐに死なないから。あれ、蜘蛛って昆虫じゃないんだっけ?
 ポイズンスパイダーが腹を持ち上げる。
 腹から吐き出された糸が、セイルさんのすぐ横を飛ぶ。
 その先にいたのはラフィナ。
 糸は、ラフィナの全身を絡め取った!
「きゃっ」
 ラフィナがもがきながらその場に倒れる。
 ポイズンスパイダーは脚で器用に糸を手繰り寄せ、ラフィナを引っ張ろうとする。
 頭が既にないので咬まれることはないだろうが、ポイズンスパイダーの武器は牙だけではない。危険が迫っているのをただ見ているわけにはいかなかった。
「ファイアボール!」
 僕はラフィナを束縛している糸めがけて魔術を撃った。
 炎を浴び、糸が切れる。僕は慌ててラフィナに駆け寄り、彼女の体に絡み付いている糸を剥がした。
「大丈夫か、ラフィナ」
「あ、ありがとうございます師匠」
「ウィンドスラッシュ!」
 セイルさんが声高に魔術を唱える。
 彼が放った風の刃は、ポイズンスパイダーの腹を両断した。
 それが致命傷になったのだろう。ポイズンスパイダーはくたりとその場に崩れ落ちると、体液を零して動かなくなった。
 ポイズンスパイダーの腹に突き立てた短剣を回収し、ソフィアさんがふうっと息を吐く。
「もう大丈夫。終わったわよ」
「大事になる前に倒せて良かった」
 鞘に剣を戻したセイルさんが、優しく手を差し伸べてくる。
 ラフィナはそれに掴まり、立ち上がった。
「師匠……魔術も使えるんですね。凄いです」
 彼女は尊敬の眼差しで僕を見た。
 僕は後頭部を掻いた。
「ん……まあ、一応は、ね」
「わたしも魔術を覚えた方がいいですか?」
「それは、個人の自由なんじゃないかな」
 ラフィナの言葉に、僕は答えた。
「錬金術師に魔術は必要ない。でも、お前が世界を渡り歩く錬金術師になったら、魔術も必要になる時が来るかもしれない。その時に自分の力で困難を乗り越えたいと思うのなら、覚えておくのもひとつの手段だ。……でも、錬金術の勉強をしながら魔術も学ぶのはとんでもなく大変だ。どうするかは、お前のやる気次第だよ」
 困難ではあるが、決して不可能な話でもない。結局は、本人が何処まで本気で魔術と錬金術に向き合えるか。そこなのである。
「僕は錬金術は教えるけど、魔術を教えるつもりはない。それでも魔術を学びたいと思うなら、自分でどうすればいいのかを考えて、自分の力で学びなさい。そうすることを止めることはしないから」
「はい!」
 僕の言葉に頷くラフィナ。
 もしも彼女が魔術を学びたいと思うなら、僕はそれを応援したいと思う。
 でも、魔術を教えるつもりはない。僕は既に一線を退いた身だし、そんな僕に教わるよりは現役の魔術師に教えを乞うた方が余程彼女のためになると思うからだ。
 僕の話を聞いていたセイルさんが、笑った。
「いいお師匠さんだね」
「ほんとね。私もそんな師匠に教わりたかったわ」
 ソフィアさんは短剣に光を点し直し、先に続く道に目を向けた。
「さ、先に行きましょう」
 僕たちは頷き合って、ポイズンスパイダーの死骸を超えて先へと進んだ。
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