アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第138話 VSリルマーダー

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 リルマーダーの鋏が左右からセイルさんを襲う。
 セイルさんはそれを避け、至近距離からリルマーダーの目玉が並ぶ頭を狙って剣を振るった!
 がきん!
 固い音がして、剣の刃が弾かれる。
 リルマーダーの体は固い甲殻に覆われている。半端な力ではダメージを与えることはできないのだ。
 リルマーダーが口を開いてセイルさんに咬み付こうとする。
 セイルさんは舌打ちをすると、その場から飛び退きながらリルマーダーの口めがけて魔術を撃った。
「ファイアボール!」
 ボンッ、とリルマーダーの口の中で炎が弾ける。
 リルマーダーは声を上げてその場を後退した。
「エンチャント・ウィンド!」
 セイルさんの戦いを見ていたソフィアさんが持っている短剣に魔力を込める。
 淡い緑色のオーラを纏った短剣を両手に構え、リルマーダーに向かって床を蹴った。
 驚異的な跳躍力でリルマーダーの背中に飛び乗り、頭を狙って短剣を振り下ろす!
 どがっ、と短剣がリルマーダーの頭に突き刺さる。びゅっと体液が噴き出て、リルマーダーの顔を伝って落ちた。
 リルマーダーが吠えた。尻尾を振り上げて、ソフィアさんを上から振り落とそうと暴れた。
「ウィンドスラッシュ!」
 セイルさんがリルマーダーの目を狙って魔術を撃つ。
 風の刃はざくりとリルマーダーの目を切り裂いた。
 しかし、目がひとつ潰れた程度ではリルマーダーは止まらない。鋏を振り上げ、セイルさんを挟み込もうとしてくる!
 セイルさんは剣を盾にしてリルマーダーの鋏を受け止めた。
 ぎりぎりと力比べが始まる。閉じようとする鋏を、セイルさんは全力で押し返そうとする。
 そこに、ソフィアさんが放った魔術が直撃した!
「アイシクルランス!」
 氷の槍が鋏の付け根に突き刺さる。衝撃で鋏の力が緩み、その隙にセイルさんは鋏を押し返した。
「ソフィア、強化魔術を!」
 セイルさんの声に応えて、リルマーダーの上に乗っているソフィアさんが掌をセイルさんに向けて翳す。
「エンチャント・ウィンド!」
 セイルさんの剣が光を纏う。
 セイルさんは一歩踏み込み、鋏の付け根を狙って剣を一閃した!
 剣は、鋏を切り飛ばした。ごどん、と鋏が落ち、体液が辺りに飛び散る。
 続けて剣を返すように振るうセイルさん。
 残っていたもう一方の鋏も両断され、床に落ちる。
 鋏を斬られたことに怒ったのか、リルマーダーが牙を剥き出しにしてセイルさんめがけて突進してきた。
 リルマーダーの頭から短剣を抜いて、ソフィアさんがリルマーダーから飛び降りる。
 セイルさんは横に大きく跳び、リルマーダーの突進をかわした。
 リルマーダーは勢い良く壁に突っ込んでいき、ぶつかった。どしんと大きな音がして、天井からぱらぱらと土の欠片が落ちてきた。
 リルマーダーが反転する。
 すぐ傍にいた僕たちの姿が、リルマーダーの目に映る。
 僕には、それがリルマーダーが僕たちのことを横目で見ているように思えた。
「ラフィナ、走って!」
 僕はラフィナの背中を思い切り押した。
 ラフィナが向こうの壁に向かって走る。
 リルマーダーが尻尾を思い切り振り上げ、僕めがけて振り下ろしてくる!
「!」
 僕はその場を飛び退いた。
 僕が立っていた位置に、尻尾の毒針が突き刺さる。
 僕は床の上に突っ伏すように転んだ。
 早く……起きないと!
 恐怖に竦みそうになる体を懸命に動かしてすぐに起き上がり、駆け出す。
 振り下ろされた尻尾の毒針が、僕の背中のすぐ後ろを引っ掻いた。
「ファイアボール!」
 セイルさんが尻尾めがけて火球を撃つ。
 火球は毒針に命中し、先端を吹き飛ばした。
「エンチャント・ウィンド!」
 ソフィアさんの魔術がセイルさんの剣に力を与える。
 セイルさんは剣を構えてリルマーダーの真正面めがけて走った。
 目の前まで来たところで床を蹴り、リルマーダーの背に飛び乗る。
 そして、背中の中心──心臓めがけて、剣を力一杯突き落とす!
 剣の刃はリルマーダーの甲殻を貫き、体内に深く潜り込む。
 体液が派手に散り、リルマーダーはギュエエッと叫んだ。
 尻尾がびくんと痙攣して、床に落ちていく。
 そして、体も。
 力を失い、ずしゃりと潰れるように倒れていった。
「…………」
 ずる、とリルマーダーの背から剣を抜き、静かに床に飛び降りるセイルさん。
 ソフィアさんも油断なくリルマーダーを見据えながら、近付いていく。
 目を覗き込み、頭に触れて。
 納得したように武器を鞘に収めて、僕たちのいる方に振り向いた。
「……もう大丈夫。倒したわ」
「…………」
 僕はラフィナを抱いたまま、ほうっと息を吐いた。
 背中がしっとりと濡れている。さっきの恐怖を感じた一瞬で、大量の冷や汗をかいたらしい。
 さっきは冗談抜きで危なかったもんな。何とか体が動いて良かったよ。
 ソフィアさんは僕たちの方に戻ってきながら、怪訝そうに言った。
「貴方、魔術使えるんでしょ? 逃げるよりも狙撃した方が早かったと思うんだけど」
「僕にはそんな度胸はないよ!」
 僕はかぶりを振った。
 いくら魔術が使えようが、唐突に目の前に湧いた恐怖に立ち向かえるほど心臓が強いわけではないのだ。あの場面ではラフィナを逃がすこととその場から逃げることで頭の中は一杯だったから、魔術で対抗しようなんて考えは全くなかった。
 弱虫だって? 弱虫でいいよ、僕はただのよろず屋の店主なんだから、自分から好んで危険なことをするつもりはない。
 セイルさんは僕たちを見て笑っていた。
「シルカさんたちを護衛するのが我々の務めだ。いいじゃないか、シルカさんはちゃんと自分の身を守ったんだから」
「……まあ、そうね」
 ふっと笑みを零すソフィアさん。
 彼女は使っていない短剣を鞘から抜いて光を点し、僕たちに言った。
「それじゃあ、無事に魔物も討伐できたことだし、地上に帰りましょう。冒険者ギルドに、分かったことを伝えないとね」

 こうして何とかダンジョンの調査を終えた僕たちは、地上に戻った。
 ダンジョンを出た時には既に日は暮れかけており、森は茜色に染まって薄暗くなりかけていた。
 近場だというのに、随分遠くまで来たような気分だ。
 早く家に戻って、平穏な空気に包まれたい。店を見て、いつもの日常に戻ってきたんだという実感をしたい。
 そう思いながら、僕はラフィナの手を引いて森の中を歩いていった。
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