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第145話 旧友は悩みと共に来る
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「そう。そのまま魔力を集中させて。此処と此処がくっつくイメージを脳内に描いて……」
昼下がりの、よろず屋。僕は作業台で、作りかけの杖と懸命に向き合うラフィナに言葉を掛けていた。
日々の教えの甲斐あって一通りの薬品を作れるようになったラフィナに、そろそろ薬品以外の物も作れるようになってもらおうと思い新しい課題を与えたのだ。
魔術師の杖作り。錬金術師が作る武具の代表格とも言える品である。
これがちゃんと作れるようになれば、大抵の武具は作れるようになる。魔術師の杖作りは錬金術師の武具作りの登竜門なのだ。
ラフィナは筋がいい。僕の教えたことはちゃんと守って実践しているし、作業も丁寧だ。
ただ、まだ魔力の扱い方に若干の不安がある。武具を作る際に必要不可欠な、完成品のイメージを脳内に描く力が足りていない。
そのため、パーツひとつを接着するのに時間がかかる。くっつけようとしては落とし、くっつけようとしては落としの繰り返しだ。
こればかりは自分で感覚を掴むしかないので仕方がない。僕は焦らずに見守るのみだ。
ラフィナの手から、ちゃりんと杖のパーツが落ちる。
あーとラフィナは声を漏らし、肩を落とした。
「また失敗した」
「焦ってもしょうがないよ。こればかりは慣れだから」
僕は落ちたパーツを拾った。
「最初から上手くできる人なんていない。僕だって最初は失敗してばかりだったんだから。大事なのは失敗しても諦めずに挑戦を続ける気持ちだよ」
「はい、師匠」
僕の手からパーツを受け取って、ラフィナは背筋を伸ばした。
「必ず、この杖を完成させてみせます!」
「うん、その意気込みだ。それじゃあ、僕は店の仕事に戻るけど作業を続けるんだよ。完成したら持って来てね」
「はい!」
杖作りを続けるラフィナを作業台に残し、僕はやりかけだった商品の補充作業を再開した。
かちゃかちゃと二人が作業をする音が店内に静かに響く。
と。その静寂を破る音の塊が、外から飛び込んできた。
「シルカ!」
誰だ、店に入ってきた早々人の名前を叫ぶ奴は。
僕は抱えていた箱を足下に下ろして、戸口の方に目を向けた。
戸口の前を塞ぐように立っていたのは、長い黒髪で目元が隠れた長身の冒険者だった。
赤い竜を前面に描いた真っ白な貫頭衣を身に纏い、太い荒縄で腰を縛った如何にも格闘家といった風の出で立ち。背中に小さなバックパックを背負い、腰に刃が付いたナックルのような武器を下げている。
あの武器は……カタールだ。扱いにちょっとした技術を必要とする珍しい格闘武器である。
冒険者は僕の姿を見つけると、満面の笑みを浮かべてこちらに近付いてきた。
「いたいた、シルカ、久しぶりやんなー。アラグにシルカの話聞いて来てみたねんけど、ほんまに店やっとるんやな」
この訛りのある喋り方。カタールを扱う格闘家。
その特徴に該当する人物を、僕は一人だけ知っていた。
「……クレハ?」
「おー。覚えとってくれたんやね。嬉しいわー。何年ぶりやろ、五年ぶり? 懐かしいなぁ」
彼は僕の両手を取るとぶんぶんと上下に振った。
「今日はお祝いやね。御馳走囲んでぱーっと騒ぎたい気分やわぁ」
「……兄さん」
戸口の方で小さく呟かれる声。
いつの間にか、戸口のところにもう一人来訪者が立っていた。
艶のある黒髪を肩口で切り揃え、黒い男物の魔術師のローブに身を包んだ小柄な少年だ。何処となく影を背負った雰囲気の、大人しそうな人物である。
彼には見覚えはない。クレハのことを兄さんと呼んでいるから弟なのだろうが。
彼は戸口の方に振り向くと、弟を手招きした。
「キクもこっちおいで。シルカにキクのこと紹介したいねんから」
弟はこくりと小さく頷くと、足音も立てずに店の中に入ってきた。
僕は二人を交互に見て、言った。
「わざわざ僕の店に来たのは近くに寄った挨拶か?」
「えっとなぁ」
クレハは後頭部をかりかりと掻いて、僕の問いかけに答えた。
「実はなぁ、シルカに相談したいことがあって来たんよ」
昼下がりの、よろず屋。僕は作業台で、作りかけの杖と懸命に向き合うラフィナに言葉を掛けていた。
日々の教えの甲斐あって一通りの薬品を作れるようになったラフィナに、そろそろ薬品以外の物も作れるようになってもらおうと思い新しい課題を与えたのだ。
魔術師の杖作り。錬金術師が作る武具の代表格とも言える品である。
これがちゃんと作れるようになれば、大抵の武具は作れるようになる。魔術師の杖作りは錬金術師の武具作りの登竜門なのだ。
ラフィナは筋がいい。僕の教えたことはちゃんと守って実践しているし、作業も丁寧だ。
ただ、まだ魔力の扱い方に若干の不安がある。武具を作る際に必要不可欠な、完成品のイメージを脳内に描く力が足りていない。
そのため、パーツひとつを接着するのに時間がかかる。くっつけようとしては落とし、くっつけようとしては落としの繰り返しだ。
こればかりは自分で感覚を掴むしかないので仕方がない。僕は焦らずに見守るのみだ。
ラフィナの手から、ちゃりんと杖のパーツが落ちる。
あーとラフィナは声を漏らし、肩を落とした。
「また失敗した」
「焦ってもしょうがないよ。こればかりは慣れだから」
僕は落ちたパーツを拾った。
「最初から上手くできる人なんていない。僕だって最初は失敗してばかりだったんだから。大事なのは失敗しても諦めずに挑戦を続ける気持ちだよ」
「はい、師匠」
僕の手からパーツを受け取って、ラフィナは背筋を伸ばした。
「必ず、この杖を完成させてみせます!」
「うん、その意気込みだ。それじゃあ、僕は店の仕事に戻るけど作業を続けるんだよ。完成したら持って来てね」
「はい!」
杖作りを続けるラフィナを作業台に残し、僕はやりかけだった商品の補充作業を再開した。
かちゃかちゃと二人が作業をする音が店内に静かに響く。
と。その静寂を破る音の塊が、外から飛び込んできた。
「シルカ!」
誰だ、店に入ってきた早々人の名前を叫ぶ奴は。
僕は抱えていた箱を足下に下ろして、戸口の方に目を向けた。
戸口の前を塞ぐように立っていたのは、長い黒髪で目元が隠れた長身の冒険者だった。
赤い竜を前面に描いた真っ白な貫頭衣を身に纏い、太い荒縄で腰を縛った如何にも格闘家といった風の出で立ち。背中に小さなバックパックを背負い、腰に刃が付いたナックルのような武器を下げている。
あの武器は……カタールだ。扱いにちょっとした技術を必要とする珍しい格闘武器である。
冒険者は僕の姿を見つけると、満面の笑みを浮かべてこちらに近付いてきた。
「いたいた、シルカ、久しぶりやんなー。アラグにシルカの話聞いて来てみたねんけど、ほんまに店やっとるんやな」
この訛りのある喋り方。カタールを扱う格闘家。
その特徴に該当する人物を、僕は一人だけ知っていた。
「……クレハ?」
「おー。覚えとってくれたんやね。嬉しいわー。何年ぶりやろ、五年ぶり? 懐かしいなぁ」
彼は僕の両手を取るとぶんぶんと上下に振った。
「今日はお祝いやね。御馳走囲んでぱーっと騒ぎたい気分やわぁ」
「……兄さん」
戸口の方で小さく呟かれる声。
いつの間にか、戸口のところにもう一人来訪者が立っていた。
艶のある黒髪を肩口で切り揃え、黒い男物の魔術師のローブに身を包んだ小柄な少年だ。何処となく影を背負った雰囲気の、大人しそうな人物である。
彼には見覚えはない。クレハのことを兄さんと呼んでいるから弟なのだろうが。
彼は戸口の方に振り向くと、弟を手招きした。
「キクもこっちおいで。シルカにキクのこと紹介したいねんから」
弟はこくりと小さく頷くと、足音も立てずに店の中に入ってきた。
僕は二人を交互に見て、言った。
「わざわざ僕の店に来たのは近くに寄った挨拶か?」
「えっとなぁ」
クレハは後頭部をかりかりと掻いて、僕の問いかけに答えた。
「実はなぁ、シルカに相談したいことがあって来たんよ」
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