アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第146話 天空神殿を追う者たち

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 クレハ・ムラマサ。
 僕が冒険者だった頃に一度だけパーティを組んだことがある格闘家である。
 遥か東にある島国の出身で、言葉に独特の訛りがあるのはそのためだ。
 彼は今は弟のキクと一緒に、ある伝承を追って各地を旅している最中なのだそうだ。
 その伝承というのが。
「天空神殿……?」
「せや」
 クレハは背負っていたバックパックを下ろすと、中から一枚の羊皮紙を引っ張り出して僕に見せてきた。
 これは……随分と古い紙だ。あちこち破れてるし、書かれている字も掠れている。
「昔、ザルート帝国が空にでっかい神殿を浮かべたって言い伝えがあってな。その神殿は、今もこの広い世界の何処かの空に浮かんでるらしいんや」
 ザルート帝国。現代よりも遥かに優れた魔術技法を持っていたと言い伝えられているザルート文明時代に栄えていた国だ。
 現代では実現不可能と言われている数々の技術を有しており、それによって生み出されたものは今も解明困難な遺物となって世界各地に残っている。
 当時の高い魔術力を持ってすれば、空に神殿をひとつ浮かべることも造作のないことなのかもしれない。
「それを是非ともこの目で見たくてなぁ。キクと各地の遺跡巡りしとるんやけど、そこで見つけたのがこの古文書なんよ」
「……何て書いてあるんだ?」
 古文書に書かれた文字は古い魔術文字で、僕には解読できなかった。
 クレハは隣に立っているキクに目配せをした。
 キクは頷き、小さな声で言った。
「『天翔ける白き鳥は、青き瞳を求めて旅をする。白の神殿に青き瞳を捧げた時、神の柱が降りて我らを鳥の元へと運ぶであろう』」
「この内容がさっぱりでなぁ。シルカなら何か分かるかもしれへん思うて来たんや」
 僕が返却した古文書を受け取って、クレハは髪の下に隠れた瞳で僕の顔をじっと見つめた。
 天翔ける白き鳥……
 僕は腕を組んで考えた。
 さっきの古文書が天空神殿のことを記したものなら、天翔ける白き鳥というのはおそらく天空神殿のことを指しているのだろう。
 これが天空神殿への行き方を記しているのなら、天空神殿に行くためには『青き瞳』が必要だということになる。
 その『青き瞳』が何なのか。白の神殿とやらが何処にあるのか。解かなければならない謎は山積みだ。
 現時点では……それを解読できそうにはない。
 僕は溜め息をついた。
「これだけじゃ僕にも何のことなのかはさっぱりだ。期待してもらって悪いけど、謎は解けそうにない」
「流石のシルカでも分からんか~」
 クレハはがくりと肩を落とした。
「まあ、分からんもんはしゃあないな。自分ら、諦めずに遺跡を巡ってヒントを探しますよって」
「そうしてくれ」
 僕は肩を竦めた。
 古代文明が遺した天空神殿を探すなんて途方もないことではあるが、それをやろうとする彼らを止める権利は僕にはない。
 頑張って謎を解いてほしいと思う。応援だけなら幾らでもするよ。
 僕は二人に微笑みかけた。
「僕はあんたたちを応援してるよ。天空神殿を見つけたら、話を聞かせに来てくれよな」
「……それなんやけどな、シルカ」
 クレハは頬を指先で掻きながら、言った。
「頼みたいことはもうひとつあってな」
「…………」
 僕の微笑が微妙に引き攣った。
 何か、嫌な予感がする。今までの経験で培った勘が、僕にそう告げていた。
「此処に寄る前に行った遺跡があるねんけど、そこの扉がどうも強力な魔力で封鎖されてるっぽくてな。キクの魔力では開けへんかったんや」
「……で?」
「シルカの魔力が凄いんは自分がよく知っとる。お願いや、自分らと一緒に遺跡に行って、封印を解いてもらえへんやろか」
「…………」
 僕の顔から完全に表情が消えた。
 案の定だよ。クレハが持ってきた相談事は、ただの謎解きだけじゃなかった。
 僕は後頭部を掻いて、クレハからそっと目を逸らした。
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