アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第147話 店主、釣られる

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「なあ、自分らにはシルカ以外に頼れる人がおらんねん。遺跡に一緒に行ってほしいんや」
「……此処は何でも屋じゃない。僕だって冒険者は引退してる身だし、そうほいほいとこの店から出るわけないだろ」
 クレハの言葉に、僕は渋い顔をして答えた。
 魔術なのか錬金術なのかは分からないが、入口に強力な魔力を用いての封印が施されている遺跡。それは、内部にも同様に魔術か錬金術で仕掛けられた罠があるということに他ならない。
 入口の封印が生きているということは、それらの仕掛けが丸々手付かずのまま残っているということの何よりの証なのだ。
 罠だけではない。魔物だっているかもしれない。
 そんな場所にただのよろず屋の店主が行くわけないじゃないか。
「魔術師の協力者が欲しいなら、シャオレンとかフラウだっているだろ。あいつらに頼めよ。冒険者だからきっと喜んで協力してくれるぞ」
「連絡取る方法ありまへんやん」
 僕の提案はあっさりと却下された。
 いい方法だって思ったんだけどな。
「それにもしも封印が錬金術によるものやったら、魔術師にはどうにもできひんし……」
 普通は封印をちょっと調べればそれが魔術によるものなのか錬金術によるものなのかは分かるのだが、どうやら彼らはそれをきちんと調べてこなかったようだ。
 それくらいちゃんと調べようよ、まがりなりにも人に協力を頼むんだからさ。
「この通り、お願いや。もちろんただで頼もうとは思っとらん」
 クレハはバックパックから何かを取り出し、僕に見せた。
 それは、握り拳大の黒い石だった。
 一見すると黒曜石によく似ているが、表面に反射する光が虹色を帯びているところが黒曜石とは異なる。
「賢者の石や。自分らに協力してくれたら、これをやる」
「……けっ!?」
 クレハの言葉に、僕は思わず素っ頓狂な声を上げた。
 賢者の石──
 錬金術師でなくても、その名を耳にしたことくらいはあるだろう。
 豊富な魔力を内に秘め、手にした者の魔力を増幅させる力を持った神の石である。
 賢者の石を用いて作られた装飾品は装備者の魔力を高めるとして魔術師から絶大な人気を誇っているのだ。
 普通の鉱石のように採掘で手に入るようなものではなく、市場に出回っている数は極端に少ない。星の砂同様に希少価値の高い石なのだ。
 賢者の石は今までに何度か目にしたことはあるが、ここまで大きなものは見たことがない。
 一体、何処で手に入れたんだ?
「アラグが言っとった。シルカは錬金術師やから錬金素材には目がないってな」
 クレハはにやりとした。
「どや。悪い話やないやろ? 協力、してくれへん?」
「…………」
 僕は口を開いたままその場に突っ立っていた。
 まさか、人のいいクレハが賢者の石を餌に僕を釣ろうとするなんて。
 アラグの奴、クレハに余計なことを吹き込んだな。何て奴なんだ。
 それで賢者の石を用意するクレハも凄いが。
 僕は葛藤した。
 十中八九危険な目に遭うと分かっている場所には行きたくない。よろず屋の店主としての生活を乱されるのは御免だ。
 でも……賢者の石。
 これは欲しい!
 出てきた結論に、迷いはなかった。
「……分かった」
 僕は頷いた。賢者の石を見つめたまま。
「そこまで言うなら、協力する。入口の封印を解けばいいんだろ?」
「やった、おおきに! 流石シルカや、引き受けてくれる思っとったで!」
 賢者の石を持つ手を引っ込めて、クレハは嬉しそうに僕の手を掴んだ。
 彼の後ろでキクが、薄い微笑を浮かべて僕のことを見ている。
「ほな、明日の朝此処に迎えに来るわ。それまでに旅支度整えといてや」
 クレハは賢者の石をバックパックにしまうと、キクに声を掛けて店を出ようとした。
 僕はクレハに尋ねた。
「石は?」
 クレハはこちらに振り向いて、笑顔で答えた。
「後払いや」
 ほなの、と言って、彼らは店を去っていった。今日は街の宿に泊まるつもりらしい。
 彼らが出ていった戸口を見つめながら、僕は思った。
 どうして僕は、こうも報酬に釣られやすい性格なんだろう……と。
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