アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第155話 それぞれの生き方

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 アメミヤのよろず屋は夕暮れ色に染まり、道行く人を静かに見送っている。
 店の中にいるのは、僕とラフィナとシルバー、そしてクレハとキクだけだ。
「ほな、約束の依頼料。賢者の石や」
 クレハがバックパックから取り出した賢者の石を僕に差し出してくる。
 僕はそれを、緩みそうになる口元を懸命に引き締めて受け取った。
 命懸けの冒険だったのに、こうして報酬を受け取ると引き受けて良かったって思うことができるのは何でなんだろうな。
 そんなに現金なつもりはないんだけどな、僕は。
「シルカが来てくれたお陰であの遺跡を調べることができたし、収穫もあったし、万々歳や。ほんまにおおきに」
「それは何よりだ」
 僕は賢者の石を隣で物珍しそうに見ているラフィナへと渡した。
「これからも旅を続けるんだろ。今回みたいなことにならないように気を付けろよ」
 クレハは危機感がなさ過ぎる。今回は僕がいたから何とかなったようなものの、そうでなかったら頭の怪我だけでは済まなかったはずだ。
 頼るべき兄がこれでは、彼を冒険者の先輩として見ている弟が可哀想である。
 へぇ、とクレハは頷いてこめかみの辺りをぽりぽりと掻いた。
「肝に銘じますよって。天空神殿を拝むまでは死ねへんからなぁ」
 笑う兄の横顔を、キクは何か言いたそうな眼差しで見つめている。
 この子、本当に自己主張しないんだな。こういう時くらいは何か言ってもいいと思うのだが。
 クレハはバックパックを背負って、僕の肩をぽんと叩いた。
「また封印された遺跡を見つけたら知らせに来るさかい、その時は協力したってな」
「何言ってるんだ。もう行かないぞ、僕は」
 至極当たり前のように言ってくるので、僕はしれっと答えた。
「僕の本業はこの店の店主であって、旅をすることじゃない。今回は特別にあんたたちに付いて行ったけど、いつもこうだとは限らないからな。勘違いしないでくれ」
「えー」
 クレハは不満そうな声を上げた。
「あの遺跡みたいにシルカでないと封印が解けへん場所があるかもしれないやんか」
「あれは僕だから封印が解けたんじゃなくて、この指輪のせいなんだよ」
 僕は左手に填まった指輪をクレハに見せた。
 この指輪にあの遺跡の封印を解く力が秘められているのなら、何もそれを持つのは僕でなくても構わないはずだ。
 いっそのこと、この指輪はクレハに渡してしまおうか。
 うん、それが良い気がする。僕がこの指輪を持ってても何の役にも立てられないからな。
「これはあんたにやるよ。僕が持ってるよりもその方がずっといい」
 僕は指輪を掴んで力一杯引っ張った。
 が、抜けない。
 まるで肌に貼り付いたかのように、指輪は全く動かなかった。
 え、と僕は思わず声を漏らした。
 再度引っ張ってみる……が、結果は同じだ。全く抜ける気配がない。
 何だこれ、ひょっとして呪いの指輪か何かなのか!?
 躍起になって指輪を指から外そうとしている僕を見て、クレハは笑った。
「そんなムキになって外さんでもええよ。その指輪はきっとシルカに持っていてもらいたいんよ」
 僕の手を取り、それを顔の高さまで持ち上げる。
「せやから。また一緒に遺跡行こうなぁ」
「だから! 僕は冒険者じゃなくてよろず屋の店主なんだって言ってるだろー!」
 僕は頭上を仰いで助けを求めるように大声を上げた。
 僕たちの会話の遣り取りを聞いていたシルバーが、尻尾を揺らしながら僕のことを静かに見つめていた。

「師匠は、旅に出るのが嫌なんですか?」
 クレハたちが去って静かになった店の中で、ラフィナが疑問を僕へとぶつけてきた。
 僕は少し考えた後、答えた。
「僕はよろず屋の店主として生きていたいんだよ。だから、冒険者と同じような旅はできないんだ」
「でも、師匠は魔術も錬金術もできますよね」
 賢者の石を作業台の上にそっと置いて、彼女は僕に言う。
「もっと、誰かの力になるために外の世界を歩いてみてもいいんじゃないかってわたしは思います」
「…………」
 僕は困ったように頭を掻いた。
 僕はもう冒険者は引退したつもりだから、ラフィナの言うように外の世界を歩くつもりはない。
 人助けが嫌なんじゃない。ただ、活躍の場を街の中だけで収めたいだけなのだ。
 そういう形の生き方も、人として立派な生き方のひとつに数えられるだろう?
 無論、それは僕が選んだ生き方であって、それを他人に押し付けるつもりはない。
 外の世界を歩きたい人は、自由に歩いてほしいと思う。
 生き方は人の数だけ存在するものなのだから。
「僕の生き方に付いていけないと思ったら、いつでも此処から出ていいんだよ。ラフィナ」
「わたしは師匠に付いていくって決めたんです。出ていくわけないじゃないですか」
 僕の言葉に、ラフィナはきっぱりと答えた。
 その言い方に、迷いはない。
 ……本当に、僕にはもったいないくらいのいい弟子だよ。この子は。
 僕はふっと笑って、作業台の横に立て掛けてある箒を手に取った。
「……さ。今日はもう営業はしないし、掃除をして店をしまおう。手伝ってくれる?」
「はい、師匠」
 また明日から、普通に店を営業しよう。
 いつもの日常が始められるように、僕たちは掃除道具を持って店内へと散っていったのだった。
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