アメミヤのよろず屋

高柳神羅

文字の大きさ
172 / 176

第172話 ザルート帝国の悲願

しおりを挟む
 その部屋は、床の大半がへこんでおり足場として残っている場所が殆どない。
 床の中心には何のためのものなのか、黒くてつやつやとした球体のようなものが埋まっている。
 球体の上には大人が辛うじて乗れる程度の大きさの足場が浮かんでいる。足場の中心には小さな台座が誂えられており、その上には透明の水晶のような丸い物体が設置されている。
 そして、その足場まで行くための細い通路──手摺りの類はなく、ちょっと余所見をしたら足を踏み外して落ちてしまいそうだ。
 これが、制御装置のある部屋……
 部屋の光景に見とれていると、シャーリーンさんが僕の方に向き直って言った。
「シルカさん。マナの指輪を私に下さい。この部屋に来たことによって、指から外れるようになっているはずです」
 指輪が、外れる?
 僕は左手の人差し指に填めている指輪に右手を触れた。
 ……あ、本当だ。
 今まで指にぴたりとくっついて全く動く気配のなかった指輪が、ぐらぐらと動いた。
 これだけ緩くなってるなら、簡単に外すことができる。
 僕は指輪を指から外して、シャーリーンさんに渡した。
「ありがとうございます」
 シャーリーンさんは指輪を右手の人差し指に填めて、部屋の中心に向かう細い通路を臆することなく歩いていった。
 宙に浮かんでいる足場に飛び乗り、僕たちの方を向く。
「貴方たちのお陰で、此処に来ることができました。御礼を申し上げます」
 指輪を填めた右手を、台座の水晶へと翳す。
 水晶が青く輝き──彼女の頭上に、覗き窓を覗いているかのように外の風景が現れた。
 これは……天空神殿を外から見ている光景?
「長年の歴史に埋もれていたザルートの悲願が、ようやく叶います。特別に貴方たちにも見せて差し上げましょう」
 言って、彼女は念を込めた。
 ヴン……
 それまでただのオブジェだと思っていた床の中心にある黒い球体の中心が紅い光を帯びる。
 彼女の頭上にある天空神殿の姿が、光に包まれる。
 そして──
 光が神殿の下部に収束し、それは巨大な光槍となって真下を勢い良く貫いた。
 見えている風景が変わる。
 何もない空を、光槍が貫いて消える。
 それは、次の瞬間巨大な紅蓮の花と化した。
 花びらが開くように、光が空を彩る。
 僕は、天空神殿から放たれた光が、地上を焼いたのだということを悟った。
「何をするんだ!?」
「ザルートは滅びていない……長き眠りにつきながら、再び世界の覇権を手にする時をずっと待っていたのです」
 僕の叫びに答えるように、シャーリーンさんは言った。
「私はこの兵器を使って、再びザルートの歴史を築く。世界を火で覆い、如何にザルートが優れた指導者であるかを世に知らしめるのです」
 彼女は笑った。両手を広げながら。
「今まで御苦労様でした。もう、貴方たちに用はありません──今すぐこの場から、消えて下さい」
 ──彼女は天空神殿を使って世界を滅ぼすつもりなのだ。
 そのために彼女は僕に近付き、言葉巧みに誘導して、此処までの道を拓いた。
 彼女の言葉で、僕はそれを知った。
 僕たちは、騙されていたのか。彼女に。
「ほう……」
 唇を舐めて、クレハは腰に下げていたカタールを手に取った。
「つまりそれは、あんさんは自分らの敵ちゅうことなんやな?」
 かちん、と拳を打ち鳴らし、すっと構えを取る。
「それだけ分かれば十分や。邪魔させてもらうで。人間全てがあんさんの言いなりになるわけやないちゅうところを見せたるわ」
「私に抗うつもりですか。下等な文明の人間が」
 彼女は冷笑して、右の掌をこちらへと向けた。
「いいでしょう。その考えが如何に愚かかということを思い知らせて差し上げます。現実に絶望しながら、お逝きなさい」
 掌の先に、光が生まれる。
 その光は咄嗟にその場を飛び退いた僕たちが立っていた場所を貫き、床の石を砕いて弾け散った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ファンタジー
シヴァリー(Chivalry)、それは主に騎士道を指し、時に武士道としても使われる言葉である。騎士道と武士道、両者はどこか似ている。強い精神をその根底に感じる。だが、士道は魔法使いが支配する世界でも通用するのだろうか? これは魔法というものが絶対的な価値を持つ理不尽な世界で、士道を歩んだ者達の物語であり、その中でもアランという男の生き様に主眼を置いた大器晩成なる物語である。(他サイトとの重複投稿です。また、画像は全て配布サイトの規約に従って使用しています)

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星
ファンタジー
世界を救った勇者、彼はその力を危険視され、仲間に殺されてしまう。無念のうちに命を散らした男ロア、彼が目を覚ますと、なんと過去に戻っていた! もうあんなヘマはしない、そう誓ったロアは、二度目の人生を穏やかに過ごすことを決意する! とはいえ世界を救う使命からは逃れられないので、世界を救った後にひっそりと暮らすことにします。勇者としてとんでもない力を手に入れた男が、死の原因を回避するために苦心する! ロアが死に戻りしたのは、いったいなぜなのか……一度目の人生との分岐点、その先でロアは果たして、穏やかに過ごすことが出来るのだろうか? 過去へ戻った勇者の、ひっそり冒険談 小説家になろうでも連載しています!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

【完結】悪の尋問令嬢、″捨てられ王子″の妻になる。

Y(ワイ)
ファンタジー
尋問を生業にする侯爵家に婿入りしたのは、恋愛戦略に敗れた腹黒王子。 白い結婚から始まる、腹黒VS腹黒の執着恋愛コメディ(シリアス有り)です。

処理中です...