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40 イザベラレッスン

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「そこっ! 姿勢のゆがみは心のゆがみ! 背筋を伸ばしなさいっ!」
 ひいぃ。鬼だ。鬼がいる。

 イザベラのお嬢様レッスンは厳しい。

「たった一か月であなたを令嬢にするですって。いいですわ、わたくしのレッスンについてこられるかしら?」

 マナーとダンスを教えてほしいと頼んだら、イザベラは得意そうに宣言した。
 それから、毎日、毎日毎日地獄のイザベラレッスンが続いている。
 うん、私がお願いしたんだし、イザベラが善意でやってくれてるのも分かってる。でも、……怖いんだよ~。もう少し優しく。

「甘えは禁物ですわ。いいこと? 少しの油断が貴族社会では致命傷になって、対抗勢力に付け込まれることになるのですわ。どんな時も淑女は気を抜いてはなりませんっ!」

 ビシッという音をさせながら、イザベラは手に持った鞭を空中に振り下ろした。

 有能な家庭教師イザベラによって、私のマナーは黙って立ってれば、そこそこ見られるくらいにはなった。
 しゃべらないこと。それ、得意。

 ダンスは………。

「あなたが踊れるのは、何種類ありますの?」

 って、聞かれても………。

「……オクラホマ・ミキサーとマイムマイム。後、よさこいソーラン」

「初めて聞く名前ですわね。ワルツかしら?」

 たぶん、違う。

「もう、仕方ありませんわね。契約精霊の技量に任せるしかありませんわ。他の方とのダンスは断りなさいね。」

 もちろん、そうします。

 食事のマナーは立食パーティの場合は問題ないそうだ。
 食べなきゃいいんだとか。
 ……お腹空きそう……。

 それから、うそつきシリイさんに会いに行った。
 うそつき。精霊界のことはほとんど分からないって言ったのに、人間との合同舞踏会は毎年開催されてるんだって。1級市民が参加してて、後宮に入ったAランク聖女も出席するんだって。後宮のことは何も知らないって言ってたのに。うそつき。

「うそつきは、お互い様ですよね。」

 シリイさんはポットから紅茶を注いだ。

「あなたの契約精霊はドラゴンの亜種の男爵精霊ではなく、人間界には出てこない第二王子ですよね。」

 灰色の厳しい目つきで言われた。

「そうなのかな?」

 王族かもとは思ってたけど、第二王子とは知らなかった。

「表に出てこないのは第三王子も同じですが、彼は赤毛だと聞いてます。先日、第一王子が面会に来た時の様子から、第二王子であるとしか考えられません。」

 そっか。第二王子なんだ。で、あの銀色の氷みたいな精霊は第一王子……。

「こちらも、あなたのことに関しては情報不足でした。どこかで緘口令が敷かれていたようですし、関係者の記憶が操作されていますね。」

 シリイさんは紅茶のカップを脇に寄せて、机の引き出しから、分厚いファイルを取り出した。

「いいでしょう。こちら側も、王子の婚約者となったカナデさんに最大限の協力をいたします。まず、今度の合同舞踏会、人間側はこれを精霊舞踏会と呼んでいますが、これに出席する人間界のメンバーを全員覚えましょう。7つの同盟国からそれぞれの国家元首一家と側近家族、そして1級市民のご子息ご令嬢が出席します。精霊舞踏会は上級の人間にとっては自分の地位を示すまたとない機会であり、適齢期の子息にとっては、有利な結婚相手を探す出会いの場、また、容姿に自信のある令嬢は精霊貴族との結婚を夢見る場でもあります。そして、この精霊舞踏会の目的は、人間にとっては今後の精霊との協力関係を有利にするために対価を鑑みて」

「! 待って! ちょっと待って!」

 怒涛のように説明するシリイさん。初めの方になんか、聞き捨てならないことを言っていた!
 待って!

「王子の婚約者って何!!!」
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