【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか

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第2部 魔法学校編

68 栄光の王国〜宰相ハロルド〜

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 つまらないなと思っていた。
 何もかもがつまらない。無関心な父親も不機嫌な母親も。みんな何が楽しくて生きてるんだろう。

 俺はハロルド・ゴールドウィン。公爵家の長男だ。

 弟は父と同じ紫眼だった。妹も紫眼だった。俺は母と同じ紺色の眼。
 紺色の眼は上級貴族で最上だ。何も恥じることはない。
 なのに、母は俺をかわいそうだと言う。天才で、何でもできる弟と比べられてかわいそうな兄だと。

 何を言っているのか……。

 クリスが天才? そうだな。あいつは、言われたことだけなら、完璧にこなす。どんな難問でも。それは、確かに天才かもしれない。だけど、ただ、それだけだ。器用なだけだ。

 愚かな妹を持ってかわいそう? いや、妹は愚かではない。ただ、文字の読み書きができないだけだ。そのかわり、記憶力はとてもいい。その力は、敵に仕返しをする時にだけ発揮される。
 二人とも、興味の幅が狭いのだ。もったいない。

 そんな二人の兄として、俺は普通であり続けた。人の良い公爵家の長男として、自分の立場を位置づけた。王太子にも気に入られて、学友になった。

 アルフレド王子は、クズだ。凡庸で、毒にも薬にもならない王子なんて言われているけど、あれは毒だ。誰もそれに気が付いていない。少しずつ染み出して、周囲を怠惰な病に侵させる毒。

 ただ、自分を甘やかしてもらえるからと、真実の愛を持ち出す毒王。こんな奴に仕えるのか。こんな奴がなぜ、王になるのか。それならば、自分の方が……。

 かわいそうなのはこの国の国民だ。愚かな王族の鎖国政策のせいで、どこにも逃げ場がない。世界から取り残されたこの国で、腐って死ぬしかないのか。

 だから、毒の王が即位し、妹が追い出された時、帝国への道筋を作った。美貌を誇る妹は、帝国の女好きな第三皇子の好みに合ったようだった。

 だけど、国を出ようとしたら、結界が妹を通さなかったのには驚いたな。その後、妹が妊娠していることが分かった。白い結婚ではなく、やることはやってたんだと、ますます王を軽蔑した。
 結界は、娘を生んだ後で、妹だけを簡単に通した。



 やがて、蒔いた種が実る時を迎えた。

 帝国で、妹はうまく第三皇子を操縦したようだ。そのうえ、クリスを向かわせたら、邪魔な第一皇子と第二皇子も排除して、妹は皇太子妃にまでなった。
 もうあと一押しで、皇妃だ。皇太子は妹のいいなりだ。すぐにでも皇帝を退位させるだろう。

 これで、俺は帝国に伝手ができる。あとはこの国の王族を片付けて……。



 魔法学校の卒業パーティで、レティシアと精霊王はとても良い働きをした。

 もう、これで今の王族は必要ない。さあ、俺が王になる。この国を変えていくんだ。


 レティシアから譲り受けた異世界人召喚の魔導具を手に、俺は光の精霊王と対峙した。


「言われたとおり、一部の地域の結界を緩めてきたよ」

 空中に浮かぶ精霊王は、虹色の羽根を輝かせながら、愉快そうに俺を見下ろした。

 彼に頼んで、マッキントン侯爵家の領地の結界を薄くしてもらった。今頃、たくさんの魔物が結界をかいくぐり、押し寄せて来ているだろう。領民は避難させたが、侯爵家の血を引く者には、領地を死守せよと移動を禁じた。何人かは死ぬだろうが、ブラーク辺境騎士団のおかげで、被害は最小限ですむはずだ。

「勇者の末裔を名乗る者が、魔物の一匹も殺せないのはけしからん」

 などという、訳の分からない理由で、辺境伯家はマッキントン家に強い憤りを持っていた。その願いを叶えてやったのは、姪が世話になった礼だ。

 マッキントンの領地が、ブラーク辺境伯のものになるのに、それほど時間はかからないだろう。多少の犠牲は仕方ない。これを恩に着せて、これからも、辺境騎士団を味方につける必要があるからな。
 
「で、君はかわりに、僕に何をくれるの?」

 精霊王が俺を見下すように、声をかける。
見上げると、あいかわらずの、すさまじい美貌が光っている。直接見ると脳をやられそうだ。
 瞬きして視線をそらせて、返事を返す。

「異世界人を、召喚しようと思う」

 姪に預けられた召喚の魔導具は、精密に作られていた。この装置を早急に解析し、増産する必要がある。
 ちょうど良い魔道具士が1人いたな。秘密を守るために、彼女を地下の部屋に閉じ込めて、休む間もなく働かせよう。

 俺は自分に向けてつぶやくように、精霊王に答えた。

「我が国は、文化も何もかも他国に遅れている。異世界の文化を取り入れることで、国を発展させたい」


 勇者の作り出した魔道具は、異世界転生者のアイデアをもとにしているらしい。それならば、本物の異世界人は、どんなに素晴らしい知識をもっているのだろうか。それがあれば、この国はもっと豊かになるだろう。そして、

「精霊ももっと増やそう。聖なる魔力があれば精霊は増えるのだろう?」

 そうすれば、この国は他の国より強くなる。精霊は伴侶になった聖女を通じて、大きな力を発揮するそうだ。

「僕は伴侶を共有するつもりはないよ。つまりは、君は、どれくらいの人数を召喚するつもりなんだい?」

「異世界人は、いればいるほどいいだろう。できるだけ聖なる魔力の強い女性を呼ぼう。精霊王の好みは、依存心が強い女性だろう? そういう女性は国に逆らわないから、ちょうどいい」

「はは、面白いね、君。気に入ったよ」

 精霊王は口の端をあげて、うっとりするように笑った。

 姪が、帝国で暮らすようになっていて良かった。ここにいれば、反対したかもしれない。でも、念のため、召喚は秘密裏に進めよう。この国に、新たな力を得るために。

 リヴァンデール王国の未来のために。
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