【完結】偽物の王女だけど私が本物です〜生贄の聖女はよみがえる〜

白崎りか

文字の大きさ
19 / 41

19 先払い

しおりを挟む
「ふう、やったか。王女様、無事か?」

 魔物を倒し終わった彼は、額の汗をぬぐって、私を振り返った。
 黒い瞳が興奮したようにきらきらと光っている。

 四つん這いになったままの私は、震えながら黙って彼を見あげた。

「なんだ。腰が抜けたのか。よしよし、怖かったな。もう大丈夫だぞ」

 彼は、すぐ側に来て、膝をついて私を引き寄せた。そして、私の頭をゆっくりなでた。まるで小さな子供にするように、優しく何度も。

 大きな手のぬくもりを感じながら、私は、ぼうっと魔物を眺めた。
 私の身長の二倍ぐらいある黒いトカゲ。口にはジンの剣が突き刺さったままだ。いったいどこから入って来たの?
 ルリが見回った後だ。離宮には魔物はいない。
 さっきの足音は……。食料を持って来たのじゃなかったのね。

「よしよし。もう大丈夫だからな。ああ、こわかっただろう。かわいそうに」

 私の髪をなでていた手は、今度は背中にまわされる。大きな手が私の背中をこするように何度もなでた。

 王女に対して無礼よ。

 そう言うべきなのに。
 私はただ、彼にされるがままになっていた。

 どうしてルリを呼べなかったの?
 なぜ結界を張らなかったの?

 私は無力な子供なんかじゃない。
 神聖力だってある。
 それなのに、初めて近くで見る魔物に怯えて、とっさに頭が働かなくて、何もできなかった。

 くやしい……。
 私は、幼い子供じゃないのに。
 みじめだ。

「ほ、褒美をとらしぇるわ」

 王女らしく威厳ある言葉を使ったのに、失敗した。声が震えて噛んでしまった。

「ふっ」

 ジンは小さく笑って私の頭をなでた。

 屈辱だわ。

 急いで、ワンピースのポケットに手を突っ込んで、小さな石を取り出した。

 そして、私の頭をなでる大きな手を引っぺがして、その手の中に握らせる。

「これは魔石? 銀色?……これは! 治癒石か?!」

「特上品よ。ちょっと虹色に光ってるでしょう?」

「すごいな……。いや、しかし、まだ契約期間は終わってないのに」

「先払いよ」

 ジンは指でつまんだ治癒石を光に透かして見た。

「聖女フェリシティの遺品か……」

 感動したようにつぶやいている。
 彼は、マリリン父と同じで、聖女マニアだそうだ。

「ちゃんとお母様に使ってね。ほら、もう帰って」

 ちょっとふらつきながら、机に手を置いて立ち上がる。
 魔物トカゲの壊した部屋の惨状が目に入って、頭が痛くなる。
 これの片付けをどうしよう?

 私の視線に気が付いて、彼も困ったようにあごに手を置いた。

「俺の部下を連れて来て、片付けさせようか?」

 ジンの部下? 商人の? 
 ううん。ただの商人じゃなくて、さっきのような魔法を使える貴族の商人の部下ね。そんな人は面倒だわ。

「大丈夫よ。あ、剣は持って帰ってね」

「本当に、いいのか?」

「大丈夫って言ってるでしょう。さっさと出て行って」

 ジンは、巨大なトカゲの死骸から黒い剣を一気に引き抜いた。
 そして、さっと一振りして黒い血を拭ってから、腰の鞘に納めた。部屋の惨状を見渡して、もう一度私を気の毒そうに見る。
 私は、手を振って彼に出て行くように告げる。

「明日もちゃんと家庭教師に来てね。報酬だけを持ち逃げしないでね」

 念を押すと、彼は分かっていると言うように頷いてから、心配そうに私を何度も振り返って、ようやく部屋から出て行った。

 さあ、さっさと部屋を片付けよう。

「ルリ」

 ジンが建物から出たのを窓から確認してから、精霊を呼ぶ。

「聖女さま!」

 青い鳥の姿の精霊が、呼びかけに答えて空中に表れた。今まで、レドリオン家の様子を探りに行ってもらっていたのだ。

 人間の男の子の姿になった精霊は、部屋の中を見て、満面の笑顔になった。

「ごはんだ!」

 青い目をキラキラと光らせて、ルリは魔物トカゲの死体に駆け寄った。

「すごくおいしそう! 死にたての魔物!」

 大トカゲの開いた口に小さな手を突っ込んで、黒くて太い舌を引きちぎった。そして、それを躊躇なく自分の口に詰め込む。

 もぐもぐもぐ。手と顔を魔物の血で真っ黒に汚しながら、にっこりと幸せそうに笑う。

「ううっ」

 美少年精霊の食事する姿に、吐きそうになりながら、指示をする。

「食べ終わってからでいいから、この部屋の床と壁をどこかの家から盗って来て、取り換えておいてね」

「ふゎーい」

 口から魔物トカゲの肉と血をべちゃべちゃこぼしながら、ルリは元気に返事をした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

偽聖女と蔑まれた私、冷酷と噂の氷の公爵様に「見つけ出した、私の運命」と囚われました 〜荒れ果てた領地を力で満たしたら、とろけるほど溺愛されて

放浪人
恋愛
「君は偽物の聖女だ」——その一言で、私、リリアーナの人生は転落した。 持っていたのは「植物を少しだけ元気にする」という地味な力。華やかな治癒魔法を使う本物の聖女イザベラ様の登場で、私は偽物として王都から追放されることになった。 行き場もなく絶望する私の前に現れたのは、「氷の公爵」と人々から恐れられるアレクシス様。 冷たく美しい彼は、なぜか私を自身の領地へ連れて行くと言う。 たどり着いたのは、呪われていると噂されるほど荒れ果てた土地。 でも、私は諦めなかった。私にできる、たった一つの力で、この地を緑で満たしてみせる。 ひたむきに頑張るうち、氷のように冷たかったはずのアレクシス様が、少しずつ私にだけ優しさを見せてくれるように。 「リリアーナ、君は私のものだ」 ——彼の瞳に宿る熱い独占欲に気づいた時、私たちの運命は大きく動き出す。

報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?

小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。 しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。 突然の失恋に、落ち込むペルラ。 そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。 「俺は、放っておけないから来たのです」 初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて―― ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪

鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。 「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」 だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。 濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが… 「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」

聖獣使い唯一の末裔である私は追放されたので、命の恩人の牧場に尽力します。~お願いですから帰ってきてください?はて?~

雪丸
恋愛
【あらすじ】 聖獣使い唯一の末裔としてキルベキア王国に従事していた主人公”アメリア・オルコット”は、聖獣に関する重大な事実を黙っていた裏切り者として国外追放と婚約破棄を言い渡された。 追放されたアメリアは、キルベキア王国と隣の大国ラルヴァクナ王国の間にある森を彷徨い、一度は死を覚悟した。 そんな中、ブランディという牧場経営者一家に拾われ、人の温かさに触れて、彼らのために尽力することを心の底から誓う。 「もう恋愛はいいや。私はブランディ牧場に骨を埋めるって決めたんだ。」 「羊もふもふ!猫吸いうはうは!楽しい!楽しい!」 「え?この国の王子なんて聞いてないです…。」 命の恩人の牧場に尽力すると決めた、アメリアの第二の人生の行く末はいかに? ◇◇◇ 小説家になろう、カクヨムでも連載しています。 カクヨムにて先行公開中(敬称略)

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

処理中です...