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Second Tales:生意気なドラゴンにどちらが上かわからせます

Tale29:さあ、お人形遊びをはじめましょう?

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 ぷにゅ、ぷにゅん。

 ん? 私、ホワイトドラゴンの攻撃を受けて、どうなった?

 ふんぬっと身体を動かそうとするがびくともしない……って、こりゃひどいやっ!
 私の身体は、手も足も、頭すらも消え去って、ただの大福みたいにまん丸になっていた。
 手も足も出ないとは、まさにこのことである。

 ――お姉様。

 うわっ、びっくりした。
 意識の中に、ぱっとスラリアの声が映り込んできたのだ。

 いままでこんなことなかったけど、やっぱりあの世に逝っちゃったのかな?

 ――違いますっ、お姉様は死んでいません!

 あら、そうなの?
 じゃあ、このつるぷに大福ボディは、いったいなに?

 ――お姉様、なるべく丸くなってあいつの攻撃を受けきろうとしましたよね?

 うん、と頷こうとすると、その代わりに私の身体はぷにょんと揺れた。

 ――差し出がましいかとも思ったのですが、丸くなるのはスライムの得意分野です。なので、お姉様に替わって“丸くなる”形態変化を行いました。けっきょく、私の魔力で修復しながら耐えた結果、外側は大きく削られてしまいましたが中心部は無事でした。いまは、あいつからは見えないでこぼこの陰に隠れている状態です。

 なるほど、大福かと思ったら実は中身の餡子だけになっていたということか。

 ふふっ、ありがとう、スラリア。
 あなたが機転を利かせなかったら、きっと負けていた。

 ――えへへっ、お姉様のお役に立てたのなら、なによりです。

 戻ったら、もちもちウィスプ餅を買ってあげるからね。

 ――わーいっ、追いクリームしてもいいですか?

 ううむ、クリームの追加か……作り手が一番美味しいと思う状態で提供されているはず、と考えると邪道ではあるのだが。
 いいよ、どうせならウィスプをクリームまみれにしてやろう。

 ――やたっ、お姉様、絶対に勝ってくださいね!

 スラリアがそう言った瞬間、なにかが切り替わるような感覚を得る。
 どうやら、身体の主導権が私に移ったようだ。

 このままの姿も可愛いけれど、ちょっと戦いづらいかな。
 人間の姿をイメージすると、まん丸の身体はうにょんと膨れ上がり元の身体に戻った。
 キャロちゃんに作ってもらった装備、そして控えめな胸の膨らみも、やれやれまったく元通りだ。

 近くに落ちていたローゼン・ソードを手に取り、隠れていた隆起の陰から踏み出していく。

「なんじゃ、そこにおったのか」

 頭上から、ホワイトドラゴンの声が降ってくる。
 見上げると、私が普通に跳んでも届かなそうな高度で浮かんでいた。
 確かに、空中にいる方が奇襲などの心配はなさそうだからな。

「ねえ、そろそろ止めてもいいかしら?」

 あとからぐちぐち言われたくないから、いちおうお伺いは立てておくことにしよう。
 ホワイトドラゴンは、私の曖昧な問いかけに対して少し考えた後。

「ふははっ、なるほど、ようやく身の程をわきまえることができたようじゃな。いいのじゃ、その剣を置いていけば、わらわはそれ以上の手出しはせん」

 そう、見当違いな答えを返してきた。
 勝つことを諦めた私が、降参したと思ったのだろう。

「なにか勘違いしているんじゃない?」

 面白いのはこれからだと、教えてあげたではないか。
 あなたは、強いやつと戦いたいんでしょ?

 不可解ゆえかもしくは不快ゆえか、押し黙るホワイトドラゴン。
 理由がどちらでも関係ないので、私は告げる。

「私が止めるのは、手加減よ」

 時が止まったかのように、ホワイトドラゴンは微動だにしない。
 勘違いしたことが恥ずかしかったのかなぁ?
 大丈夫だよ、誰にでも間違いはあるから。

 少しの時間が経ち、ようやく口を開いたホワイトドラゴン。
 その声色は、怒りを抑えているような静けさを持っていた。

「……ふん、笑えもしないくだらない冗談じゃ、わらわを前に手加減をする理由がどこにある」

 まあ、そうだよね。
 あなたは絶対的な強者で、私は挑戦する資格があるかも疑わしい羽虫。
 普通に考えると、それは間違ってはいないのでしょうね。

 でも、そんな“普通”を、私は面白いと思わない。

「だって、すぐに戦いが終わっちゃったら、私の物語の読者が物足りなさを感じちゃうでしょ?」

「なにを、意味のわからんことを……」

 呆れて言葉も出ないといった様子で、ホワイトドラゴンは口を閉ざす。
 代わりに、新たに複数の光球を生じさせ、周囲の空間を埋め尽くすように配置していった。

 そうだ、もう言葉はいらないだろう。
 戦ってみればいい。

「すぐにわかるわ、魔力解放――ローズドール・マリオネット」

 宣言し、ローゼン・ソードに魔力を注ぐ。
 その分だけ、薔薇の蔓が張り巡らされていく。
 じわじわと私の腕を、身体を、脚を、薔薇は侵していった。
 ところどころ、薔薇の棘が皮膚を裂き、露出している。
 締めくくりに、両の手の甲、足の甲、そして後頭部に、それぞれ一輪の薔薇が咲いた。

 そんな私の変身など気にも留めないのか、ホワイトドラゴンが仕掛けてくる。

「避けることは叶わん、ホーリー・フレ――アッ!?」

 おそらく、なにかスキルを放とうとしたのだろう。
 全ての光球が光線に変わる瞬間を見たから、間違いない。

 しかし、それよりも速く。

 私は、ホワイトドラゴンの鼻面に膝を叩き入れていた。
 背後で、踏み込んだ地面に遅れて亀裂が走る音が聞こえる。

「ぅくっ、な、なんじゃ――!」

 続けて、空中で前転するように身体を縦に回す。
 回転した勢いを利用して、ローゼン・ソードを振り下ろした。
 体勢が整っていないホワイトドラゴン、その首筋を目掛けて。

 殺ったか。
 そう思った瞬間、剣とドラゴンの白い鱗が並ぶ首の間に、ガラスのような光の障壁が生じるのが見てとれた。

 構わず、というか、振り下ろすのを止めることはできず。
 私は、光の障壁にローゼン・ソードを叩きつけた。
 瞬間的に発生した甲高い金属音が、私の耳を強く叩き返してくる。

 分厚い一枚なのか幾十も重なっているのかは定かでないが、かなり強固なつくりになっている障壁を、完全に破ることはできなかった。

「くそっ、羽虫がっ……!」

 しかし、振り下ろした剣の勢いまでは、打ち消せていない。
 障壁で守られたホワイトドラゴンは、それごと地面に激しく墜ちたのだった。
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