異世界を印刷で無双する/社畜が転生先で「つまり印刷機で魔法陣を大量印刷すれば無双できるのでは」と気づいたがまさかのラスボスに戸惑いを隠せない

セント

文字の大きさ
29 / 51
第三章 印刷戦線

第29話 神様って時に残酷よね

しおりを挟む
「まずはここ。ファーデン子爵領からね」
「ファーデン?」

鸚鵡返しに尋ねる絢理に、タビタは笑みを深める。

「大森林ヴィスガルドと大河川クニベルタの恩恵で築かれた大商業都市。期待していいわ。楽しい街よ」
 でも一つ問題があってね、とタビタが居住まいを正した。
「問題?」
「ええ、だから絢理にも協力して欲しいの」

他に人影などいようもない工場内だが、それでもタビタは口元を手で隠して身を乗り出す。耳を貸せ、ということだろう。絢理も同様に身を乗り出し、彼女の語ることにはーー
主人の話を聞き、絢理もまた神妙な顔で頷きを返した。

「成程それは問題ですね。喜んで協力しましょう」

二人は不敵な笑みを浮かべ、肩肘をついた状態でガッシリと手を握り合うのだった。
そうして秘密裏に密約が交わされた、その翌日のこと。
作戦行動は、エックホーフ邸からの出立に端を発する。
エルマを始めとする従者一同に見送られる形で、タビタと絢理、オルトが門前に控える馬車へ向かっていく。
二頭立ての馬車が二台。積荷は既に馬車の中だ。あとは御者と乗客を残すのみ。
馬車を背に立ち、タビタは従者一同を振り返る。

「それじゃ、ちょっと行ってくるわね」

平時の笑みを浮かべるそれは、旅立ちの挨拶にしてはラフなものだ。タビタにとって王都は何度か往訪してこともあり、全く未知の旅路ということもない。
ただ、その目的は従来と大きく異なる。これまでは、あくまでもグーテンベルクの治世を前提に、エックホーフ領の存続と繁栄のための謁見と会合とが目的だった。
今回のそれは、打倒グーテンベルクである。一国を制圧するだけの力を個人で持つとされる絶対的な王へと挑む。
例え無窮魔導師という強力な切り札を携えているとはいえ、従者の表情から憂慮の色が消えることはなかった。

「お嬢様、くれぐれも無茶はなさらないでくださいね……」

エルマの忠言に、タビタは苦笑するしかない。

「分かってるって。ここ一週間で100回は聞いたわよ」
「でも何度言ったって無茶するんじゃねーですかね、このお嬢様は」

腰に手をついて嘆息する絢理。じろりとタビタが横目で睨んでくるが、自覚はあるのだろう、直接反目しては来なかった。

「おっしゃる通りです。なので絢理様、どうかタビタお嬢様をよろしくお願いします」
「ま、やってみるだけやってみますよ」

よよよ、と泣き崩れる真似をするエルマに、絢理は馬車の荷台を振り返りながら応じる。
荷台に積まれた100,000枚もの魔法陣。工場から遠く離れる以上、それが無窮魔導師・戸叶絢理の生命線だった。
いつまでも別れを惜しむエルマ達に割って入るよう、オルトがコホンと咳払いを一つ。

「僕もこれで失礼するよ。短い間だったけど楽しかった、ありがとう」

自然な笑みを浮かべながら言って、絢理へと手を差し出してくる。
そうなのだ。オルトと絢理とは、ここで進路を分つ。タビタを主人とした絢理は、彼女がその目的を果たすまで同行するが、オルトにその義務はない。クライアントへの納品を終えた彼は、自宅への帰路を進むのみ。むしろ数日前から帰れたものを、タビタと絢理の旅立ちを見送りたいからと、この日まで留まってくれたのだ。

オルトの差し出した手を見ながら、絢理は異世界転生してからの日々を反芻する。

彼がいなければ、自分はどうなっていたことだろう。

盗賊に襲撃され、見ぐるみを剥がされていたかもしれない。
今も魔法について何も知らず、途方に暮れていたかもしれない。
否、そもそも断崖絶壁からの落下時、たまたま彼の馬車が受け止めてくれたから一命を取り留めたのだ。
そういう意味では、彼の存在がなければ、絢理は既に死んでいる。
報酬を要求するでもなく、彼はその善意と巻き込まれ力で絢理を幾度も助けてくれた。

オルト・ハウンドマンという人間から得た恩恵の数々を振り返り、絢理はこう総括する。

ーーそんな便利な奴、ここで逃す手ないですね。

「ん? 何か言ったかい?」

絢理の胸中など知る由もないオルトが、笑みのまま首を傾げる。
無垢って損だなと思いながら、絢理さんは作戦行動に出る。

「ああいえ別に何でも無問題。ア・ソレヨリモ・のっぽサンノ・バシャガー」
「……え?」

演技の成績のつけようもない棒読みで、絢理がオルトの馬車を指差す。
オルトが視線を転じた頃にはもう遅かった。
オルトの馬車を牽引する馬二頭が、荷台ごと全力疾走を始めていたのだ。

「え、は? ちょっ!」

馬にもかかわらず脱兎の如し。慌てて手を向けたオルトの五指の間から、馬は遠く彼方へと、みるみる姿を小さくしていく。
追いかける暇もなかったし、慌てているのもオルトただ一人。タビタと絢理はその笑みに勝ち誇ったような様子を滲ませ、従者一同は見ないふりをするかのように目を伏せている。事態について行けていないのは、オルトただ一人だった。

それは何というか、とても気の毒な光景だった。

すっかり馬が見えなくなったのを見計らって、タビタがオルトの肩を叩く。
オルトが呆然としたままの表情で振り返ると、タビタは眉間に皺を寄せ、鎮痛な面持ちを浮かべていた。演技派である。

「何て残念なのかしら。神様って時に残酷よね。でもオルト、安心してちょうだい。私たちは貴方を見捨てない。決して見捨てるものですか。大切な仲間だもの。馬車で家まで送っていってあげるから、乗ってちょうだい、さっさと」
「え、いや、でも積荷が……」
「大丈夫安心して! こんなこともあろうかとオルトの荷物は全部こっちの馬車に積んであるから!」
「何でだよ!」
「ほら家まで送るって言ってるじゃないの! 乗った乗った!」
「ま、まさか謀ったのか!?」

今更のようにオルトは抗弁するが、グイグイと背中を押すタビタはその力を緩めない。

「家まで送るとかどう考えても嘘じゃないか! さっきの馬車も予め荷台を空にしてたんだろう、やけに脚早いなと思ったし、いやそもそも考えてみればあの馬二頭とも僕のじゃないぞ! 毛並みがよくて筋肉のつき方が思えば全然違った!」

致命的に遅い名推理を叫ぶオルトだったが、それに感心してくれるような観衆はいなかった。タビタは彼の尻を蹴り上げて、無理やりに客車へと押し込んだ。

一部始終を無言で見ていた絢理と、振り返ったタビタとで目が合う。
二人は満足そうに鼻息を荒くして、親指をグッと立て合う。
こうしてオルト離脱の問題を、策士は見事に解決するのだった。

「冗談じゃない! ただの拉致じゃないか!」
「うるっさい観念しなさい男でしょ!」
「気の毒ですねー、同情はしませんが」

<続>
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...