異世界を印刷で無双する/社畜が転生先で「つまり印刷機で魔法陣を大量印刷すれば無双できるのでは」と気づいたがまさかのラスボスに戸惑いを隠せない

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第三章 印刷戦線

第30話 エルフの国

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馬車を三十分も走らせれば、いい加減オルトも観念したようである。

「考えてみればファーデンで仕入れをするのも悪くないし、ついていく意味もなくはないのかな……」

無理やりに自分を納得させている始末だ。
客室は四人程度であれば余裕を持って乗れるだけのスペースが確保されていた。
今は絢理とオルトが向かい合わせに座し、タビタは御者台で手綱を握っている。
貴族令嬢自らが水先案内人を務める形だが、今にオルトに御者を交代させようとタビタが画策していることを、彼はまだ知らない。
諦念を経て平静を取り戻してきたオルトに、絢理は問う。

「商業都市って言いましたっけ?」
「大河川クニベルタから支流を引いた運河のおかげで、船舶による交易が盛んなんだ。それに国境付近に位置する街だから暮らす種族も幅が広い」
「それで商業が発達したと」
「みたいだね。僕も直接行ったことはないけど」
「田舎者だからですか?」
「前にビルケナウ州では一番の都会出身だって言わなかったっけ」
「ああすみませんどうもノッポさんの顔と都会という単語が結びつきにくくて」

表情ひとつ変えない絢理に、オルトは律儀に肩を落とす。

「どうしてだろう、絢理君から謝られたことは何度かあるのに、謝意を感じたことが一度もないんだ」

込めてませんからね、と絢理はやはり表情を微動だにさせず応じ、
まあいいけど、とオルトは最早拗ねる様子もない。

「地元でなんでも揃うから行く必然性がなかったーーって言うのが一つ」

噛んで含めるように話すオルト。

「一つ? 貴方が引きこもる理由が二つ以上も?」

引きこもってはいないけどね、と抗弁を挟んでくるがそれは無視して続きを促す。

「もう一つの理由は、隣接する大森林ヴィスガルドがエルフの国だからだね」

流石の社畜でもその存在は耳にしたことがある。思い出すように中空に視線を彷徨わせながら、

「美男美女で耳尖ってる自然派な人たちでしたっけ」
「とりあえず本人達には直接その言い方しないよう肝に銘じてもらえると助かるかな……」

身も蓋もない言い方に、オルトは渋面する。

「知ってるっていうことは、絢理君の世界にもエルフはいたのかい?」
「なわけないでしょう頭湧いてるんですか」
「じゃあ何で知ってるんだ……」
「私にとっては物語の登場人物なんですよ。広く知られてはいますが、あくまで本の中での話です。実在するなんて聞いたことありませんよ」

納得した様子はなかったが、彼も絢理との付き合いに慣れてきたのだろうーーその点を追求したところで仕方ないと判断したか、嘆息を挟んで続けた。

「それなら覚えておくといいよ。
 エルフ。長命にして眉目秀麗。自然を敬い、共存を選んだ賢しき種族。長命ゆえに博識。博識ゆえに誇り高く厳格。だからこそ、短命にして生き急ぎ、自然への敬意を失くした僕ら人間のことを低位と見下す傾向が強い」
「あのタビタさん? 楽しいとこだって言ってませんでしたっけ?」

話が違う。反射的に、御者台を振り返って訴える。
幌越しでその姿は視認できないものの、声は届いたようだ。絢理が視線を向ける先から、苦笑する気配が伝わってきた。

「別に嘘ついてないわよ。確かにエルフとの折り合いは悪いけど、ファーデン自体は立派なヨハネス王国の自治領なんだから。よっぽどのことがない限り、イザコザに巻き込まれたりしないわよ」
「今の一言で完全にフラグ立ちましたよ……」

主人の言葉に、絢理は安心するどころではない。
寧ろ先行きに待ち構える苦難を先取りするかのように、表情を曇らせるのだった。

<続>
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