異世界を印刷で無双する/社畜が転生先で「つまり印刷機で魔法陣を大量印刷すれば無双できるのでは」と気づいたがまさかのラスボスに戸惑いを隠せない

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第三章 印刷戦線

第45話 〆切前の作家だいたいこれ

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そうして、三時間後。
オルトとフーゴは愕然とする。
彼らは完全に読み違いをしていたのだ。
三日間の猶予を経て戦争に突入する。それは、完全に常識の範囲内で行われた推論にしか過ぎなかった。
それは、動きの怪しかったファーデン私設軍を調査した結果、すぐにわかったことだった。
私設軍はそもそも、犯人を探そうなどとしていなかった。
彼らは挙兵に向け、淡々と準備を進めている。都市中の魔法陣を集め、軍備を揃え、今にも自ら戦争を仕掛けに行こうとしているのだ。

「開戦は翌朝だそうだ……」

疲れの滲んだ声音で、フーゴが告げる。
元私設軍という経歴と裏社会とのコネクションを持つ彼が、もっぱら情報を集めていた。
宿の部屋に、オルトとフーゴは戻ってきていた。彼らは向かい合わせで椅子に座し、机に向かってペンを構えている。
その表情は、鬼気迫っている。
収集した情報の中には、きな臭いものも多く含まれていた。

「裏の人間に聞いたところ、数週間前から武器や魔法陣の類の買い付けが爆発的に伸びたらしい」
「まるで戦争のことを予期していたみたいに、かい?」

オルトが疑問をぶつけ、フーゴは頷く。

「ああそうだ。加えてこの状況下、最良の結果はでっち上げてでも犯人を差し出して、ファーデン子爵を助けることだ。にもかかわらず、奴らはそうする素振りさえ見せずに戦いの準備に明け暮れていやがる」
「つまり――」

言い淀むオルトの言葉を引き継いで、フーゴは明言した。

「犯人は私設軍の中にいるか、軍そのものだ、クソッタレが」

吐き捨てるように言うフーゴ。詳しくは語らないが、私設軍の出自という彼の胸中は複雑だろう。
現在、深夜〇時を五分すぎている。翌朝には兵を動かすとなれば、絢理は致命的に間に合わない。何せ彼女は、三日後までに間に合えばいいと思っているのだ。
急いできたとしても、往復で丸一日。加えて工場での印刷時間も含めれば、彼女が到着する頃には、戦線は泥沼の様相を呈しているだろう。
だからオルトとフーゴにできることは、一つしかない。
二人はペンを握る手に力を込める。

「やれんのかよ、魔法書士」
「君こそ暴発させないでくれよ、魔法模士」

そう、彼らにできることは、一枚でも多く魔法陣を描くことだ。
挙兵を妨害する魔法陣を書き、ファーデン私設軍の侵攻を少しでも遅らせる。
個人が声を上げたところで、その声は霧散して軍や民衆を動かすには至らないだろう。
まして猶予はあと数時間だ。
だが、魔法陣であれば。個人の力を何倍にも膨らませ、個が多数を凌駕しうるこの領域でならば、可能性はあるかもしれない。
だから、彼らはペンを走らせる。
白紙に文字を書き連ねる。

ただひたすらに、眠気と闘いながら。
ただひたむきに、使命感と向き合う。

それはまさしく社畜のように。

「ふん、やっぱり僕の方が綺麗に描けるね……!」
「阿呆か綺麗さより早さを優先しろ、俺はもう二十枚目だぞ」
「な、早すぎないかそれちゃんと発動するのか?」
「あ、馬鹿てめえ……っ」

ドカン!
と言う爆発音と共に、魔法陣が暴発する。机の上の紙束が宙に投げ出される。
爆発に巻き込まれたオルトが、声を荒らげる。

「どうして暴発するんだ!」
「今のが詠唱呪文だったんだよ!」
「日常会話を呪文にするって本当だったのか、危ないじゃないか!」
「これが俺のスタイルなんだよ文句あるか! くっそ書き直しじゃねえか……ッ」

魔法書士と魔法模士は枚数を競い合いながら、いがみ合いながら、執筆を進めていく。

「私設軍は何人くらいいるんだ?」
「五百かそこらだ」
「二人で五百人を足止めするのか……」
「魔法書士様なら究道級くらいの魔法陣書けねえのかよ」
「できてたら魔法書士なんかやってないよ」
「そりゃそうか」

それこそエルフでも扱いが難しい系層の魔法だ。自在に扱えたなら、国の要人として優雅な暮らしを送れるだろう。
少なくとも、徹夜で魔法陣を書くようなハメにはならないはずだ。

「っし三十枚!」
「こっちは三十五枚だ!」
「追い越しやがっただと……?」

そんな無駄口を叩いていられたのも、執筆から二時間が限界だった。集中して机に向かい続れば精神を磨耗する。
まして魔法陣は一文字でも間違えれば、その効力を失ってしまう、非常に繊細なものだ。
加えて、忘れられがちだが魔法陣の完成には血液を伴う。微量とはいえある種の献血をしながらの誤字の許されない執筆。
控えめに言って、地獄だった。

「………」
「…………………」

オルトとフーゴは口をつぐみ、ただ黙々と魔法陣を書き続けた。さながら週刊連載を抱えた作家のように。
彼らに手を差し伸べるものはいない。
戦争を止めなければならないという使命感さえ薄れていく。
ただそこには、負けられないという意地があった。

魔法書士としてのプライド。
魔法模士としての負けん気。

それら吹けば飛ぶような男の意地が、彼らを夜通し突き動かすのだった。
何なら、ファーデン私設軍の方が、戦場に備えてまだ寝ていたのだが、二人はそれを、知る由もない。
フーゴがオルトの頭を小突く。

「おい、寝るな」
「寝てない、目を瞑ってただけだ」

時が刻まれていく。
嵐の前の静けさとも言うべき闇夜の静寂の中、淡々と、爛々と、ペンが紙を滑る音だけが響く。
オルトがフーゴを嗜める。

「手が止まってるぞ」
「止まってねえ、早すぎて見えねえんだよ多分」
「まだ減らず口が叩けるのは凄いね」

半ば本気で感心して、オルトは作業に戻る。

「………」
「…………………」

やがて朝日が登る。
その輝きは清廉にして、目がしぱしぱする。
達成感を塗りつぶすほどの疲労感が睡魔と結託して彼らを襲っていた。
だが無論、寝るわけにはいかない。
ベッドに身を委ねればこの苦労は水泡に帰す。
社畜たちは据わった目つきで、大量の魔法陣を鞄に詰め込んだ。
いざファーデン子爵領境界付近、大森林ヴィスガルドへ至る街道へ。
幽鬼の如き二人は、ずっと無言だった。

<続>
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